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2.失われた聖典#1

 窓から差し込む紅い夕日がカーテンのように教室を区切る。

 僕の他には一人女子がいるだけでそれ以外には誰も居ない。彼女、清水静阿(しみず せあ)は黙々と勉強しており、僕は本を読む。


 進級して二ヶ月。この時間を僕は気に入っている。外から聞こえる運動部の掛け声と吹奏楽部が奏でる何かしらの曲が僕達のBGMだ。


「……」



 突然だが僕に超能力の類は無い。しかしこの時何故だが、確かに僕は奴が来る事を悟っていた。



色原(いろはら)ァ〜〜!!」


「……はぁ」


 清水は密野(みつの)の声に少し驚いたようだったが、そのまますぐに勉強に戻った。


「どうした? そんなに元気満々で」


「大事件だ! 来い名探偵っ!」


 他の人の前で探偵呼ばわりは辞めてほしい。まぁ何だかんだでいつもノッてしまう僕も僕だが。



 そのまま特に抵抗もせず、密野に連れられて着いたのは正直意外な場所だった。


「図書室?」


「そうなんだよ! ほらっ、こっち!」


 そう言って密野は図書室のカウンターを指差す。正確にはカウンターに腰掛ける女子を。


「人に指を指さないでくれる?」


沙耶(さや)じゃないか」


「お、色原」


 竹井沙耶(たけい さや)。僕と密野とは小学生からの仲であり所謂腐れ縁だ。

 だが高校に入ってからは段々と疎遠になっていたが……いつの間にか茶髪になっているし、まさか図書委員になっていたとは。



「……って太一、アンタの言う秘密兵器ってもしかして色原の事?」


「おう!!」


 冷たい目線と期待に満ち溢れた目線が同時に僕へと向けられる。


 その後永遠とも思える数秒の後に沙耶は小さくため息をついた。


「まぁ太一よりましか……」



 僕達は図書室の真ん中にある大きな机を囲んで座る。


「えっとね、要は本を探してほしいの」


「本?」


「うん。大きめの小説位のサイズで、薄くて、表紙が黒い奴」


「探すって……まさかこの中からか?」


 どこを見ても本、本、本。当たり前だ、図書室なのだから。


「何時間、いや何日かかると思ってるんだ?」


「だから何かいい方法は無いかなって考えてたの! でも思いつかなかったから……」


「密野に相談した、と」


「そう言う訳だぜ!!!」


 お前は僕を連れてきただけだろ、と思ったが原状で何もしていない僕よりも頭数を増やしたコイツの方が優秀なので何も言わないでおく。



「良い方法か……」


「どう色原、何か思いつく?」


「そうだな……いっそ企画にするのはどうだ?」


「「企画?」」


「あぁ。さっき言ってた本の特徴をまとめて、『この本を見つけてみろ!』って生徒達に焚き付けるんだ。そうすれば案外簡単に……」


「ダメ!!」


 沙耶が席を立ち大きな声でそう言った。

 幸い図書室には僕達だけだったので良かったが、どうしてこう僕の周りには声が大きい奴らが集まるのだろう。


「どうしたいきなり」


「そうだよ、俺びっくりしたぜ」


「ごめん、でもそれはダメなの」


「なんで?」


「……ほら、図書室って静かな場所でしょ? そういうのが好きな人達の溜まり場でもあるからさ、だからあんまり人が多くなっちゃうとちょっと……ね?」


「まぁ……そういう事なら」


「どうするんだ色原!!」


 コイツの煩わしさはどうしたものか。とはいえここまで期待されると流石に答えたくなる。



「そもそも、誰かが借りたままになっているという線は無いのか?」


「うーん……多分無いかな。そもそもあの本は一度も借りられてないの」


「一度も?」


「カウンターのpcで探してみたんだけど履歴が無くて」


「じゃあ誰かが盗んだって説は?」


「それも無いと思う。ウチは貸し出し期限三カ月もあるからわざわざ盗んだりする必要ないし、あの本地味な表紙だからそもそも盗もうとも思わないと思う」


「そうか……」


「い、色原……まさかお前にも探せないのか……?」



「ちなみに沙耶、その本が無くなったのはいつだ?」


「昨日だけど?」


「そうか……なら」


 僕は立ち上がり、真っ直ぐカウンターへと向かう。


「色原? アンタ何やってーー」


「まさかお前! 分かったのか!?」



「あぁ、本はこの中だ」

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