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1.掟破りの忘却者

 放課後には沢山の情報が詰まっている。足早に教室を去る者や友人と談笑する者。部活動へと向かう者に熱心に勉強する者まで。


 コレを見るだけである程度その人間がどんな性格でどんな学校生活を送っているのかが分かる。まぁそもそも僕は彼らのクラスメイトな訳で、性格なんて別にはなから知っているのだが。



「おい色原(いろはら)!」


 そう大きな声で話しかけてきた金髪のアホ面は密野太一(みつの たいち)。残念ながら僕の親友だ。教科書なんてまるで入りそうにない小さなカバンが彼の性格をそのまま表している。


「今日この後カラオケ行かね?」


「行かない」


「なんで!?」


 コイツは基本的に良い奴だが声のボリュームは何とかして欲しい。今ので教室に残っていた皆が一斉にコチラを向いた。

 普段からうるさい奴だが今日は一段と声が大きい。


「……昨日も一昨日も行ったからだ。もう当分は行かない」


「カラオケなんか何回行っても楽しいじゃんよ〜」


「違う、金の問題だ。逆にお前はよくそんなに金があるな」


「ま、まぁ最近お小遣い増えたんだよね〜……」


「……なるほどな」


 ウチの学校は一般的な公立高だ。故に校則は私立等と比べると厳しい。バイト禁止はその最たる例だ。

 とは言っても隠れてバイトをしている生徒は多いのだが。


「しかし何で髪色は自由なんだか」


「ん? 何の話だ?」


「何でもないよ。てかお前こんな所で油売ってて良いのか?」


「良いんだよ! 今日は暇だからお前をカラオケに誘ったんだ」


「……焼肉」



「…………??」


 しまった。僕とした事がコイツが筋金入りのバカなのを忘れてた。

 軽く咳払いをして密野の顔を少しだけ寄せ、小声で僕は話し始める。


「駅前の焼肉屋」


「っ!」


「お前今日シフト入ってるんじゃないのか?」


「やっべそうだった! 急がねぇと……ってアレ? 俺お前にあそこでバイトしてる事言ってたっけ?」


「いや、言われてないな」


 そう言うと密野はワクワクした表情で一気に顔を近づけてくる。


「なんで分かったんだ!!??」


「うるさい!……まずはそれだ」


「ん? 俺の手?」


「あぁ。人差し指と親指、それと肘の辺りにも火傷がある。

 この前までは無かったろ?」



 僕の指摘で密野は自身の肘を確認するとよりテンションが上がったようで、次はまだかと言わんばかりの表情をしていた。


「……次にお前のカバンだ。いつもは空っぽだから凹んでいるのに今日はやけにパンパン。バイト先の制服でも入れているんだろう」


「正解!」


「というか制服まで持って来といてシフト忘れるなよ……」


「でもそれだけじゃ焼肉とは分からなくね?」


「うん。だから決め手は」


 僕は密野を指差す。


「え!? 顔にタレでも付いてる!?」


「違う、声だ」


「声?」


「あぁ。焼肉屋ってのは肉を焼く音や換気扇の音で常に店内がうるさい。すると店員は自然と声が大きくなるんだ。今日のお前は一段とうるさかったからな。

 そしてこの辺りで焼肉屋は2つ。内一つは高級店で高校生をバイトで雇ったりするような店じゃない。となるとお前のバイト先は駅前の焼肉屋になるって訳だ」


「……」


「密野?」


 僕の推理を聞いた密野は黙り込んでしまう。何か外れていたか?


「お~い、密野ー?」


「っっくぅぅ〜〜〜!!」


「っ!?」


「いやぁやっぱお前天才だよホント! なんか俺までスッキリしたぜ!」


 急に大声を出すから何かと思ったが、どうやら褒めてくれているらしい。



「それより良いのか?」


「ん? 何が?」


「バイト。遅れるぞ」


「っ!!!」


 当の本人はこの期に及んで忘れていたらしい。血相を変えて教室から飛び出していく背中はみるみるうちに遠ざかる。



「……帰るか」



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