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3.失われた聖典#2

色原(いろはら)? アンタ何やってーー」


「まさかお前! 分かったのか!?」



「あぁ、本はこの中だ」


 僕達はカウンターへと入り、そしてその奥へと進んで行く。そこには扉があり「司書室」と書いてあった。


「失礼します」


「ちょっと色原! アンタ勝手に入っちゃダメでしょ!」


「誰も居ないし別に良いだろう、それよりほら、その黒い本じゃないのか」


 僕の指差す先には数冊の本が並んでおり、その中で一際異彩を放つタイトルも絵も無い表紙の本が一冊置いてある。


「っ!」


 その本を見た途端、沙耶は血相を変えて本を抱きかかえた。


「あぁコレ! この本を探してたの!」


「おい色原!! お前どうしてここにあるって分かったんだ!?」


「……」


「色原?」


密野(みつの)、悪いんだが飲み物買ってきてくれないか?」


「何でだよ!? 今一番良い所じゃないか!」


「喉が渇いてな。このままじゃ推理の説明が出来そうに無いんだ」


「何っ!? そりゃダメだ!! 待ってろ、今とびきりの水買ってきてやるからよ!」


 そう言って密野は走り去っていく。



「……さて、それじゃあ答え合わせと行こうか」


「答え合わせ?」


 沙耶(さや)は少し警戒した様子だった。それも仕方ないだろう。だが、僕も自分の推理が正しいか知りたいのだ。


「あぁ、まず情報を整理しよう。お前が探していたその黒い本は過去誰にも借りられておらず、目立たないどころかタイトルすら書いていない」


「えぇ、そうね」


「なら沙耶、お前はどうやってこの本の存在を知ったんだ?」


「え、それは……」


 おかしな話だ。いくら図書委員とはいえどこの大量の本の中で誰にも借りられず地味で目立たない本など知る機会があるだろうか?



「それにお前は本が無くなったのは昨日だと言った。だが普通、図書室から本が無くなったとしても紛失した正確な日付が分かるか? 『紛失に気付いた日以前』を紛失の期間とするのが妥当だろう」


「……」



「そしてお前は明らかにその本が自分以外の人の手に渡る事を恐れていた」


「……」


「つまりその本はお前の私物、もっと言うとお前が自身の手で書いた何かじゃないのか?」


 そう考えると全ての辻褄が合う。むしろそうで無ければおかしい程だ。


 沙耶は黙って本と僕とを交互に見つめ、数瞬の末にその口を開いた。

 


「……で、どうするつもり?」


「どうするって?」


「太一にでも言って馬鹿にするの? この女は自作小説なんか書いてるイタい女だって」


「そんな事するか! そもそも馬鹿にする気ならわざわざ密野をどこかに追いやったりなんかしない」


「じゃあ何なの!?」



 沙耶は随分とご立腹のようだ。それもそうか。確かに状況だけ見れば僕は限りなく嫌な奴だ。



「さっきも言っただろ、答え合わせなんだ。 僕はただ自分の推理が正しいかどうか知りたいだけだ」



 自分で言っていて不思議に思えてきた。自分の推理が正しいかどうか犯人に問いただす探偵がいるだろうか?

 そもそも沙耶は犯人とは言えないし、僕も探偵では無いが。



「本当に?」


「あぁ、本当だ」



「…………正解よ」


「そうか」


 色々と考えた末に、僕は『そうか』としか言う事が出来なかった。



「でも何でこの本がここにあるって分かったの?」


「あぁ、それは簡単な話さ。

 沙耶は本を失くしたのが昨日と言ったよな。きっとお前は何かの拍子でその本をカウンターにでも置きっぱなしにしてしまったんだ。違うか?」


「ううん、違わない。昨日突然カウンターに一年生が来て、その後すぐにチャイムが鳴っちゃって……それが?」



「その本は確かに目立たないし地味だけど個人で所有してるだけあって図書室の本と比べると状態が良い。そして何より図書室の本に貼られている識別シールが貼られていない。

 だからカウンターに置いてある本を見て司書さんはこう思ったんだ。

『これは新刊だ』って」


「あ!」


「そう。新刊ならば識別シールを貼ったり図書室のpcに情報を登録しなければならない。だから司書さんはその本を裏へと持っていったんだ」


「っ〜〜私のバカっ! 何でこんな事に気付かなかったの〜!!」



 沙耶は何故だか悔しそうにしている。

 まぁコイツからすれば自分の大事な秘密が誰かにバレると思っていたのに、蓋を開ければすぐ後ろのドアの奥である意味厳重に保管されていた訳だ。

 無駄に気疲れしながら必死に考えてたのに、結局悪いのは自分というオチ。それをポッと出の僕に解かれた挙句に秘密までバレた。


 そりゃあ、悔しいなんてもんじゃないだろう。



 というか、全部終わったら僕も何だか疲れてきたな。



「じゃ、僕はもう帰るよ」


「あうん。その……ありがとね。色原の事ちょっと見直したよ」


「元々どんな評価だったんだ?」


「太一と同類」


「冗談にしては笑えないな」


「ふふっ、じゃまた明日ね!」


「あぁ。また明日」




 校門を出てからふと思ったが沙耶と話したのは半年以来だ。なのに『また明日』というのは少しおかしいだろうか。明日も話すとは限らない、というよりも恐らく話さないのに。


「……まぁ沙耶も言ってたし良いか」


 それに、明日からまた仲良くなれば良い。


「しかし何か忘れてる気がするな……気のせいか」


 





「はぁっ……はぁっ……色原!! 水買って来たぞっ!!…………ってアレ? 色原〜! おーい!! 沙耶ー?」


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