十二 簡単なこと
二度の飛竜騎士との戦いを経て、隼人の動きは更に攻撃的なものへ変わりつつあった。人間とは骨格から違う飛竜の可動域、視界、呼吸。そして火炎と飛竜騎士の槍に怪攻撃……なんと手数と懸念の多いことか。
そうなると受けに回っては捌ききれない。とにかく先手を取って、動く前に叩っ切る。あるいは足を止めずに動き続けて空振りを狙い、そこを仕留めるか、と言ったところか。
十二 簡単なこと 是非ご覧ください
午後、隼人は唯鶴の格納庫に顔を出した。畳を敷いたその一角は役者連中が体を動かしたりするのに使われる稽古場であり道場でもある。ここなら、暴と武の違いを知っている者に会えるだろう、というのが隼人の考えであった。
「ぼけっとしてても仕方ないよな」
隼人は一人で稽古を始めることにした。陰気で湿っぽいところがあるくせに、こうと決めたら動かずにはいられない。我ながらどうにも難儀な性分である。着替えた稽古着の上から全身に砂袋を巻き付ける準備は一人では面倒だが仕方あるまい、今日は日菜とは別行動なのだ。腹や肩だけではなく、前腕や下腿といった四肢も例外ではないのでほぼ全身、鎧でも着込んだようである。
「しばらく離れてたから気づかなかったけど……無茶苦茶な稽古だな、これ」
重い。一挙手一投足全てが重い。傍目にはバカみたいな恰好をした滑稽なものであるが、勿論これにも意味がある。この状態での一挙手一投足全てが、全身で抵抗を受けながら戦う機操戦伎の操演を想定した訓練となるのだ。まずは木刀を手に取り、実戦での自分の動きを振り返ってみることとする。
二度の飛竜騎士との戦いを経て、隼人の動きは更に攻撃的なものへ変わりつつあった。人間とは骨格から違う飛竜の可動域、視界、呼吸。そして火炎と飛竜騎士の槍に怪攻撃……なんと手数と懸念の多いことか。
そうなると受けに回っては捌ききれない。とにかく先手を取って、動く前に叩っ切る。あるいは足を止めずに動き続けて空振りを狙い、そこを仕留めるか、と言ったところか。
相手は数も多い、一匹を長々と切り結んでいる余裕はない。先手必勝、一撃必殺。とにかく……。
「とにかく飛竜をぶち殺さねえと……か?」
自分の頭の中を読まれたのかと思って振り返ると、そこには葵斗がいた。
「元気そうだな、銃也」
「隊長……いつからそこに?」
「さあね。
続けてくれよ。人に見せる芸事の稽古だ、人に見られてできねえってことはないだろ」
スジが通るんだか通らないだか、妙な理屈を捏ねる葵斗に、隼人はちょうど良いと切り出す。
「隊長は、暴と武の違いをどう捉えますか?」
「なんだそりゃ。いや……ああ、なるほどね。
その見分けが付かないから、甲板に穴を開けた。そういう判断か。はあ、なんともお優しいね、特務大佐殿は。とっ捕まって軍法会議……なんなら銃殺刑だろあんなの」
「……はい」
隼人は堪えたつもりであったが、傍目には僅かに目を伏せて肩を落としていた。日頃は喧しいのが隣にいるから目立たないが、隼人も大概わかりやすい。まぁ、若いということかもしれない。
「だからこそこれを掴み、一秒でも早く復帰したいのです」
「そりゃありがたい……しかし、まるで禅問答だな。側から見る分には大差ねえや」
「ということは、やはり本人の捉え方一つですか」
「そうだろうな。
頭の中、捉え方が変わるということは、五感を通したものの解釈が変わると言う事だ。同じ日差しを眩しくて邪魔だと捉えるのと、暖かいと捉えるのでは、世界が違って見えるはずだ。
その差が行動に出る。つまり、味方の甲板に穴は開けんようになるわけだ」
直接穴を開けたのは日菜だと言いかけて飲み込んだ。ここにいない日菜に押し付けるようで、後ろめたい。そもそも隼人は銃座を潰しているので大差ないのだ。
「それはそれとして……楽しかっただろ、二人で暴れるの」
「……何を言わせるつもりですか」
「いいから、素直に答えろよ。なんて言っても怒らねえからさ」
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