簡単な事②
隼人はあの短く甘い戦いを思い返した。
相手を組み敷く力に、深いところから燃え上るように興奮していた。
「ケダモノだな。悪くねえよ、そこが良いんだ、いつか艶になる」
隊長は笑った。
「舞台だけならいいんだけどな」
簡単な事②是非ご覧ください。
隼人はあの短く甘い戦いを思い返した。手足の延長の如く動くブシドー・ストライカー。一手間違えれば命を落としかねない緊張感。全身に染み付いた稽古と、数年にわたって積み重ねた鬱憤とやるせなさと無力感の開放。向き合う相手は一筋縄ではいかない日菜、相手にとって不足なし。この厄介な相手を組み敷いてぶちのめすために振るわれる力に、隼人は心底、それよりもっと深いところから燃え上るように興奮していた。
飛竜と戦ったときも同じだ。解き放たれる獣が大地を駆けて獲物を捉えるのと殆ど変わらない、根源的で動物的な、理性の届かない領域。そこに身を投じるのが楽しくないはずがない。顔にでかでかとそう書いたまま、後ろめたそうに頷く隼人に、葵斗は笑った。
「そうだよな、でなけりゃあんな動きはできねえや」
「見ていたんですか?」
「機操戦伎同士の格闘戦だぞ、船ぐっらぐら揺れたわ。俺ぁ最初爆弾でも落ちたかと思ったよ。乗ってて気付かない方が狂ってる」
うんざりと、しかしお見通しだと笑う葵斗であるが、隼人はバツが悪そうに目を逸らすしかできなかった。それを見てか葵斗が更に笑うものだから、隼人としては肩身が狭い。
「三大欲求ってあるよな。食う、寝る、やるだ。
俺に言わせりゃこの三つはな、自分の強さを証明するからできるんだ。なんなら強いやつから順に満たせると言っていいだろう。
ってことはだ、言ってみりゃあ強さは欲求を満たす手段と言えねえか?そうなると強さを振るうと、欲求を満たせる、快楽が得られるという条件がついちまうわけさ。俺が思うに人間の脳とか本能ってのは、途中をすっ飛ばすフシがある。そうなると強さを解放して見せつけるのと快楽が直結しちまう。なんならこの二つは直結しやすいんじゃねえかな。
だから死闘は気分がいいのさ、それこそ女と寝るよかな」
強さと快楽を強引に直結させたとんでもない理屈に隼人は内心辟易した。これを人間の理屈と認めてよいものか、まるで獣の縄張り争いではないか。
「つまりお前ら二人は、快楽に溺れてたんだ。だから楽しくて、周りが見えなくて、誰の声も聞こえなかったんだ。盛って水をぶっかけられる犬と一緒さ、ケモノ……いや、ケダモノなんだよ。
ハタから見ちゃあからは見苦しいことこの上ないが、本人たちはもう燃え上っちまって止められない。そんなところまでそっくりじゃねえか。勘違いすんなよ、悪いなんて一言も言ってねえ、若いってのはそれがいい、そこがいいんだよ」
葵斗が笑った。下世話であっても下品にならない、さらりとした不思議な品格がこの男にはあった。
「舞台ならそれもいいんだけどな。ケダモノが放つ荒々しさ生々しさは、ちょっとすればいずれ艶っぽさに繋がるからな。
だが、戦争となるとちょいと話が変わってくる。なにしろケダモノに背後は守れねえからな。戦場に解き放たれたケダモノができることといやあ、食って、犯して、その上で眠るだけだからな。恨みを買う。
それを律すると武力のできあがり、俺はそう思ってる。言っちゃえば勝手な話さ。強者に守るべきものを自覚させて、守るためだと目くらましして制御しようとする、まあ支配者の都合だ。
鎌倉武士に御恩と奉公ってのがあるだろ。それはこうして強者に……暴れ馬にくつわをつけて乗りこなす、そういう思想や制度の原点だと俺は解釈してる。これを洗練させて、形式として発展させたのが武士道じゃないかな。
その方が、何かを守るには都合がいいだろ?」
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