簡単なこと③
葵斗の目は黒々して深い。
渦巻く力強さが覗けるようで、輝いてみえた。
今のそれには兵士として歪みつつある。だが、それが妙に様になる。
どうにも荒っぽく精悍な言動を含めて、こいつはモテるんだろうなと、隼人は思った。
簡単なこと③ぜひごらんください。
葵斗のそれは本能と社会の妥協点を強引に言語化した、奇抜で乱暴な理屈である。そのくせ妙に腑に落ちるのは無駄かないからなのか、あるいは彼と隼人が所詮同じ穴のムジナということなのか。親近感よりも先に胸中に乾いた笑いが風のように肚の中で渦を巻く。あるいは、この戦場で生き延びるためにそうなっていったのでは、なんならやがて自分もそうなっていくのかと思うと、屁理屈と呼ぶには妙に溌溂とした、そのくせどこか殺伐とした力強さがあった。
「つまり武とは、制御された暴力だと?」
隼人にまだ、その理屈は判らない。ただ、全く理解できないわけではないのだ、であれば今の自分にぎりぎりできる強引な、我ながら物言いである。あまりに大づかみな隼人の呟きであるが、葵斗は存外軽く頷いた。笑っている、ほんのりと、ちらりと右上を眺めたのは、きっと自身にも心当たりがあるのだ。
「根っこはそう遠くねえだろうな。
そうなると重要なのは何のために制御されるのかってことだ、自らくつわを受け入れるのか、無理くりつけさせられるのか、孫悟空みてえに言いくるめられるのか……そこは人それぞれ、お前さん次第じゃねえかな。鉾蘭なんて、銃也とドロップで気軽に釣れそうな気もするけどな。バカにしてるわけじゃねえよ、楽しそうで一本気なヤツは見てておもしれえからよ。
蛮族みてえな鎌倉武士は将軍に手綱を握られてたろうがよ、俺が思うに今の人間は自分で自分の手綱を握れるはずだ。多少器の大小はあるかもだけどよ、それを見極めるのも器の一巻さ」
そう言うと隼人の目を覗き込んできた。葵斗の目は黒々として深い。頭の中で渦巻く力強さが覗けるようで、不気味でもあり、恐ろしくもあり、それがまた魅力的であった。それは本来役者としての魅力であるはずなのだが、今のそれには兵士としての形になりつつあるのかもしれない。だが、それが妙に様になるのがこの男でもあるらしい、どうにも荒っぽく精悍な言動を含めて、こいつはモテるんだろうなと、隼人は恨めしく思った。
「結局は銃也が何のために戦うか、だな。何かを守りたいのか、何かが欲しいのか……そこまで俺は知らねえよ。
……いけね。いいか、俺はここに来ていないと言えよ」
急に捲し立てると、葵斗は慌ただしく格納庫から姿を消した。だばだばと間抜けな書き文字が見えてきそうなその様子からは、いつもの洒落男然とした雰囲気が台無しである。
「……なんだ、急に?」
「銃也二等兵、葵斗少尉殿を見なかったか?」
首を傾げていると、次いで稽古場ににゅっと現れたのは目つきの鋭い小男、新富一等兵曹であった。
仏頂面で殆ど顔を動かさないこの男が、明確に苛つきを見せているのは珍しい事だった。
「……どうかされたのですか?」
「勉強会をすっぽかされたのだ」
ああ……と納得の声が出そうなのを堪えた。機操戦伎部隊をまとめ、作戦を立て運用するには、優れた役者の目が必要だ。葵斗なら申し分ないだろう。しかし、士官学校を出ていない人間では、今度は軍人としての知識が足りない。その勉強会とやらはおそらくはその差を埋める為のものだろう。
しかし、役者になるような人間が、勉強会などというものに素直に真面目に毎回勤勉に出席するだなんて考えられない。あの手の人物は大概にして、要領よく抜け出すのが異常に上手いのだから。
「さっきまでここにいましたが……新富一等兵曹が来る直前にどこかへ行かれました」
「……遅かったか」
新富一等兵曹は真面目で真っ直ぐな人柄らしい。残念ながら葵斗のようなおちゃらけた人間にとって、最もちょろいのはこういう人物だ。堅物は正論で動くから、裏をかかれてしまうのだ。唯鶴に来て日の浅い隼人が知らないだけで、おそらくは何度も繰り返されてきた光景なのだろう。ため息を吐く新富を苦笑いで見送った隼人は、再び構えを取りながら、自分の中の衝動と向き合う事にした。
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さて、葵斗の言葉は隼人の何を変えるのでしょうか。
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