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機操戦伎グレニアヴァール  作者: そのえもん


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簡単なこと④

「特務大佐殿、お茶をお淹れしました」

「意外だな。君がお茶を淹れるのが上手いとは思わなかったよ、鉾蘭上等兵」

「ありがとうございます」

特務大佐の部屋に潜り込んだ日菜、彼女の目的は?

簡単なこと④是非ご覧ください。

 流石に長門や大和といった、連合艦隊の顔とも言える船には及ばないが、唯鶴の司令官執務室もそれなりに豪華であった。床こそリノリウムであるが、立派な書棚と将官公室から流用された調度品があり、部屋の隅には応接セットも設えてある。この部屋の主は別段こういうものが好きではないが、立場を考えれば必要なものだと理解する程度の柔軟性はある。

 部屋の主である宇津木は、その巨体に見合う重厚な机で書類を片付けていた。半分くらいは流し見しても支障のない書類もあるのだが、手の回る限りは把握しておきたいというのが、この図体の割に気の細かい男の性分であるのだ。


「特務大佐殿、お茶をお淹れしました」


 ことり、と愛用の湯呑みが目の前に現れ、甘く爽やかな茶の香りが漂う。そこでようやく宇津木は手を止め、書類から目を離した。


「ふむ……」


 湯呑みに手を伸ばし、一口すする。彼の好みと比べれば少々濃いのだが、これは旨味と甘味の均整が取れている。及第点である。


「意外だな。君がお茶を淹れるのが上手いとは思わなかったよ、鉾蘭上等兵」

「ありがとうございます」


 本来宇津木の身の回りの雑務は、それ専門の兵がいる。茶を入れるのもその者の仕事なのだが、どういう訳か日菜に入れ替わっていた。


「妙な事をする、出撃できぬと暇つぶしか?」

「滅相もない、アタシは一秒でも早く復帰したいんですよ。その為に手段は問いません。

 そこで、是非とも宇津木特務大佐殿にお話を伺いたいと思いましてね。いやいや、とは言ってもゴネようってんじゃないっすよ、そういうのは好かないんで。

 つうわけで、雑用役の兵には眠ってもらいました。そのうち目を覚ますと思います」


 日菜の手刀がスパッと空を切る。侮れない小娘だ。機操戦伎の役者連中が武道に長けているとはいえ、そこまでやるのはどうかしている。


「……他の艦隊なら大問題だぞ」


 露骨に眉を寄せる宇津木に、日菜は微笑みを返した。顔だけは良いこの少女、相手が堅物の仁王像でなければ、多少のあれこれはねじ伏せてしまうだろう。


「ありがとうございます。そりゃつまり、この艦隊なら平気ってことですよね。大丈夫ですよ、一発なので、変な怪我はさせてませんから。

 ま、女の身じゃ他の部隊なんて用無しですから、配置換えは縁遠い筈です」


 この大胆さは若い娘特有なのか、日菜個人がぶっ壊れているのか、宇津木には見当がつかない。どちらにしろ胃が重くなるのは確実なのだが。


「もう判ったのか?暴と武の違いが」

「いいえ、全然。検討もつきません」


 ケロリとした顔で言い放つ日菜に、宇津木は頭が痛くなってきた。こいつら役者共は本当になんなんだ、曲者しかおらんのか。


「ならば何の用だ?」

「判らないから調べてるんです。暴と武の違いを知ってそうな人に話を聞いて回るつもりなんです、アタシは質より量のタイプなんで。

 特務大佐なら絶対に判ってるはずなので、ご教示願おうかと」

「これを私に聞いては意味がないだろう?」

「そんな事ないですよ。

 ある人から、こういうのは自分の中の答えを出さなきゃ意味がないと教わりました。

 ってことは、逆に言えば大佐のお考えも唯一の答えじゃないって事です。それなら参考にする分にはいいだろうと思いまして」


 なんと大胆な小娘か、あまりにその動きが派手で、宇津木は呆れを通り越して面白くなってきた。


「ふむ……ここで帰れと言ったら?」

「何度でも繰り返します。私はしつこいので」


 宇津木はやれやれと肩を落とした。仁王像がこんな表情を見せたら、運慶と快慶の作品がもう一つくらい増えたかもしれない。


「給湯室に来客用の湯呑みがある、君の分の茶を淹れてくるといい」

「え?……い、いいんですか?」


ここまでお読みいただきありがとうございます、感謝感激でございます。

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