八幡颯天墜つ⑳
「お前ら別行動しろ。自分だけの答えを出さなきゃ意味がない。
それぞれ納得すりゃあ、俺にとっては大間違いでもいいんだよ」
暴と武の違いは随分とハードルが高そうである。
八幡颯天墜つ⑳是非ご覧ください。
「別にさ、ここで俺が言うのは簡単だよ。
でも、お前らがそれを丸呑みしちゃったら、自分で考えさせようって特務大佐殿の考えの意味がなくなっちまうだろ。だってそれならさ、その場であの仁王様が教えりゃ済む話だろ?」
「そんなもんですかねえ」
日菜はどうにか食い下がろうとしているようであったが、おそらくこれ以上は無駄だと隼人はガリガリと頭を掻いた。一理あるし、なにより誰かからこうだと教えられて日菜がそれを素直に飲み込んで納得するとは思えない。
「だから……お前ら別行動しろ。
これは多分、お前らがそれぞれ自分だけの答えを出さなきゃ意味がない。二人ですり合わせたようなうすっぺらい答えじゃ、いつかまたズレちまうのさ。
この手のモンはな、万人の正解なんかない。お前らがそれぞれ心の底からこうだと思うモンじゃなきゃ意味がない。お前らがそれぞれ納得すりゃあ、俺にとっては大間違いでもいいんだよ。その答えが、お前らが戦うときの土台になるんだからさ」
試作機であるブシドー・ストライカーの存在は、砲園に伝えていない。機密である可能性が高いからだ。それでも宇津木の意図を汲み取り、別行動しろと助言をしてみせた砲園の洞察力はさすがと言うべきかもしれない。
「うぬぬ……それじゃあ砲園さん、なんか軽く出いいんでお願いしますよ。ふわっと、におわせでいいんで」
それでも食い下がるのは日菜である。こういうのは実子よりも、やたらと親しく厚かましい他人の方が突破口になり得るものだ。
「軽く、ねぇ。
俺がその違いを掴んだのは……新京だったな。剣楼さんと必死になって飛竜騎士をぶった斬ってた頃だ」
「……意外と最近ですね」
ぼそりと日菜が挟んだ茶々に、砲園はうっすら笑った。
「なぁに、それまでは判ってる気になってたのさ、実戦ってのはやっぱりでかいよなぁ。
そん時の俺ぁ、飛竜騎士をとにかくぶっ殺すことしか考えてなかった。一匹殺せば日本人か……いや、この世界の人間が百人助かるって自分に言い聞かせてた。それも間違っちゃいないと思うけどな」
そこまで一息に語ると、砲園は半目になって、記憶の糸を手繰り始めた。
「そんな中でさぁ……いつだったかなぁ。
新京の街で哨戒してたらさぁ、遠くで偶然とおりがかった子供がこっちに手を振ってくれたんだ。
そしたらなんか……俺の中で変わったんだよ。俺は、俺たちはこの人たちに頼られてるんだって……そしたら、なんか……戦ってる自分に誇りが持てるような気がしたんだ。俺が違いを掴んだのは、この時だろうな」
誇り。隼人には思いもしない言葉であった。隼人が戦うのは生きる為であり、一座の仲間を死なせない為だ。自分でわかる、それは誇りとは違うのだ。失うのが嫌だという、拒絶と感傷に駆り立てられた足掻きのようなものだ……であるならそこが違うのだろうか?
今の隼人にはわからない。結論を急ぐべきなのだが、焦ると自分を騙してしまいそうだった。
「ふぅん……」
ちらりと覗いた日菜の横顔は、彫像のようにすうっと澄ましている。傍目には美しく凛とした横顔であるのだが……隼人には判る。こういうときの日菜は大体何も考えていない。
「さて、あんまり言っても先入観を固めちまう。さあ、唯鶴に戻って聞いて回れ。
できればよく知らない人に聞け。刃衛門さんや爪十郎さんみたいな顔見知りじゃ新しい発見にならねえ」
そうして砲園は乱暴に話を切り上げると、二人を追い払うようにしっしとやった。実の息子になんて奴だ。
「今度来る時は醤油を持って来てくれ、塩でもいいんだがよ。病院食は味が薄くて食った気がしねえんだ」
「いいだろが薄味で、入院中じゃ汗なんかかかないんだから」
そのあとも取り留めない雑談は続くのであったが、隼人の中には既に考えが渦巻いていた。果たして誰に『暴と武』の疑問をぶつけるべきかだろうかと。
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