八幡颯天墜つ⑰
「諸君ら二人には、出撃禁止を言い渡す」
その一言で日菜は雷に打たれたように跳び上がる。この気と鼻っ柱の強さだけは一級品の少女がこれだけ面食らうのは並大抵のことではない。現に、横で同じ言葉を聞かされた隼人は声すら出ずに凍り付いていた。
八幡颯天墜つ⑰是非ご覧ください。
◇
「八幡颯天修理の間、二人にブシドー・ストライカーの試験運用させる……確かに許可を出した。戦力の補強は願ってもないことだからな。
それぞれを乗せるのも、動かすのも必要だろう……組手もまあ、理解できると言っておこう。
だが……ここまでする必要があったかね?」
仁王像は怒りを通り越して呆れていた。日菜と隼人の組手はあまりに壮絶で、甲板上のあらゆるものを巻き込んだ。それだけではない、唯鶴甲板は何ヶ所も隕石が降り注いだように凹み、幾つかの対空砲座はぺしゃんこである。
際限なく昂揚した二人のぶつかり合いは、もはやタカハシには止められなかった。無線を通して怒鳴りつけても聞こえていなかったのだ。このままでは唯鶴が沈む。そう判断した宇津木は巡洋艦をすぐそばへ呼び寄せ、空へ向けて空砲を命じた。その轟音が、ようやく二人を闘争の愉悦から引き戻したのだった。
「鉾蘭上等兵、銃也二等兵……唯鶴が沈めば、日本がお終いだと、判らない訳ではあるまい?」
ここは甲板の片隅。ブシドー・ストライカーから降りた二人は、宇津木の前で縮こまって正座。珍しく小さくなった日菜であるが、仁王像は眉一つ動かさない。
「……すみません」
「謝れと言っているのではないのだよ。
唯鶴の破損が日本を直接脅かすとわかっていないのか?そう聞いている。答えるんだ」
「判っています」
「ならばなぜ、こんなことをした?」
「……」
「……君は飛竜騎士のスパイか?」
その一言に日菜は息を呑み、隼人は鳥肌が立った。飛竜騎士との戦闘で父を亡くしている日菜にとって、その疑いは侮辱ですらある。
「なッ……違います!そんなわけありませんッ!」
「なら、答えられるはずだ。沈黙は疑いを呼ぶぞ、無制限にな」
もちろん宇津木とて本気で疑っているわけではない。押し黙ってしまわぬよう、喋るきっかけをくれているのだ。
「組手に……熱中し過ぎました」
「銃也二等兵、君もか?」
「……はい」
「そうか」
二人の返答に宇津木はしばらく考え込んだようであったが……やがて大きく溜息をついて切り出した。この男の大きく強力な溜息は、波の一つでも起こしそうなっ様さがあった。
「本来なら軍法会議モノだが、今回は……そうだな。諸君ら二人には、出撃禁止を言い渡す」
「ッ……!」
「そんな!」
その一言で日菜は雷に打たれたように跳び上がる。この気と鼻っ柱の強さだけは一級品の少女がこれだけ面食らうのは並大抵のことではない。現に、横で同じ言葉を聞かされた隼人は声すら出ずに凍り付いていた。ぎしりと、大気が丸ごと水晶にでもなったような重苦しさに、なんとか割り込めたのはタカハシであった。
「待ってクダサイ!
彼らが前線から抜けるのは痛手です!だからブシドー・ストライカーを投入するんデス!
データ取得も重要ですが、なにより戦力ダウンは避けるべきです!責任はワタシにあります!謹慎でも懲罰房でもワタシがーー」
放っておけばタカハシはこの件についての始末書でもなんでも束で拵えただろう。しかしその反論は、宇津木の分厚い掌に制された。
「タカハシ中尉にも無論責任はある。処分は追って伝える。だが、二人のこれはまた別だ。
これは謹慎ではない。二人はどうやら……自分の中の暴を飼い慣らせていないと見た。武人ならばその成長過程で誰しも通る道だが……役者は少し違うのかもしれん。多少似通っているとはいえ、本質は別物だからな。
しかし、見逃すわけにはいかん。この機操戦伎という大きな力に、暴走は許されぬのだ」
宇津木が何を言っているのか、隼人には意味がわからなかった。ちらりと横を見ると、日菜も自分と同じような顔をしているのがわかる。小さい頃、どっかの貧乏寺の住職の説法を聞いたときも、日菜も同じ顔をしていた。
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