八幡颯天墜つ⑮
「なんだよ日菜、遊んで欲しいのか?」
「隼人も聞いたろ?少し暴れて欲しい。中尉はそう言いたいはずだ。じゃあ丁度いい、組手しようぜ、隼人」
武人に由来を持つ役者であるという日菜の根底が疼くのだろう。おそらくそれは、隼人も例外ではない。
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「中尉、武器は同じものが使えるんですか?」
「モチロン使えます、指の数と動きが同じです。背中と腰にマウントがあるので、そこに武器を保持できマス。移動も楽になる筈デス」
「あ、そりゃありがたい」
人間の動きを模倣する構造上、機操戦伎は人体から大きく逸脱した形や動作は出来ない。手を塞がずに武器を持ち運べる機能は地味にありがたいのだ。
「なるほどね……うん、いい感じだ」
「単純なヤツだな隼人は」
「単純でいいよ、喧嘩っぱやいよかマシだと最近気づいたからな」
こんなものをあっという間に作れるのだから、アメリカという国は恐ろしい。休戦にならなかったら日本はどうなっていたのだろうか?あまり明るい未来は想像できない。
「何をジタバタしてんだよ、日菜」
「中尉、この足元の銀色の風呂敷包みはなんですか?」
チラリと横を見ると、日菜が乗り込んだ一号機が足元の虚空をゴソゴソしている。なるほど、操演席の足元には確かにそうとしか形容できないものが固定されている。弁当箱より一回り大きい程度のものだ。
「フロシキ?……ああ、それは救命キットですネ」
「救命キット?」
日菜が聞き返したのは"なんでそんなものを?"という意図だ。日本帝国軍において兵士は"生還する"あるいは"死ぬ"の二つに一つであった。戦闘中に逸れたり、撃墜された後の備えは殆どない。戦闘機乗りに至っては、脱出用パラシュートに小便をして度胸を示す者までいると聞く。だからこそ、アメリカ人であるタカハシにはその思想が理解できない。その価値観がブシドー・ストライカーに救命キットを無理やり積み込んだのだ。中身がどうのうというより、その存在自体が異例。
「銀色のフロシキではなく、アルミの蒸着シートです。薄い毛布のようなものです。他にはナイフ、防水マッチ、携帯食、鏡、信号弾、水筒が入っています」
ありがたい。などと口にすることは許されない。帝国軍でこんなことを口走れば、戦う前から負けるつもりの軟弱者と取られかねない。しかし今の隼人にはこの物資から"機体を失っても生還しろ"という無言の意図が見えた気がした。アメリカの考えが開発に携わっただけでこんなに変わるのかと、感心してしまうが、無論顔には出せないが。
「それでは……特に問題がなさソウなら、ちょっと派手に動いとてもらいタイのですが、出来ますか?」
「ええ、それじゃあ少しーー」
そこでガツンと機体が揺れた。どうやら腕が動かない……のではなく掴まれているのだ。機体の動きは同調しても、流石に肌の触覚は伝わらない。だから一瞬反応が遅れた。その腕をぐいと捻られ、隼人の姿勢が崩れる。反射的に踏ん張った瞬間、膝を押し込まれて体が浮き上がる。こちらを投げ飛ばすつもりだ。
「おもしれえッ!」
吐き捨てたとき、既に隼人は反応していた。押し込まれるさらに先へと体重を落とし込むと、掴まれた腕を支点にして膝を高く振り上げる。逆上がりの要領で自分の背後に蹴りを叩き込んだ形である。蹴足がそれを捉える前に、背後の気配は飛び退いていた。隼人は自由になった腕で床を叩くと、姿勢を持ち直した。身を捩る。背後にいるのは一人しかいない。
「なんだよ日菜、遊んで欲しいのか?」
「隼人も聞いたろ?少し暴れて欲しい。中尉はそう言いたいはずだ。じゃあ丁度いい、組手しようぜ、隼人」
無論、腕を掴んだのも崩そうとしたのも投げ飛ばそうとしたのも日菜だ。やはりこいつもこいつで、ブシドー・ストライカーを試したいのだ。武人に由来を持つ役者であるという日菜の根底が疼くのだろう。おそらくそれは、隼人も例外ではない。
「そういうのは先に言えよ」
「あ?隼人は飛竜騎士にもそう言うつもりなんか?」
日菜はゆるやかに腰を落とすと、軽く握った拳に身を隠すように半身で構えた。やや前傾で足の前後の広い、攻撃的な構えである。
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