八幡颯天墜つ⑭
操演席で何かをさがしているのだろう。日菜がジタバタしている。あちこち虚空を撫で回しているのは、計器類をいじっているのだろう。
「どうしましタ、鉾蘭上等兵?」
「中尉……アレが見当たらないんだけど……どこです?」
八幡颯天墜つ⑭是非ご覧ください。
横文字はよくわからないが、エンジンに余裕があるならそれだけで有利というものだ。なるほど、最初から単座で機体を作るなら、存外悪くないのかもしれない。これが理に適っている、合理的というやつか。
「あと、そうですね。違和感……というほどではありませんが、関節が少し、ごりっとします。
骨同士が擦れるような、妙な手ごたえが」
違和感と呼ぶにはかなり小さなものだ。感じ取れる隼人も大概であるが、それを感じさせるブシドー・ストライカーの同調もかなりの精度だ。隼人の言葉を聞いて、その横で屈伸していた日菜機はぱちんと指まで鳴らしてみせた。
「あー、言われてみればそうかも。
今すぐどうこうってのはないけど……ちょっと膝が硬いかも。
地面の硬さがわかりやすいのはいいけど……揺れ続けるからしんどいんだよね」
甲板の上でブシドー・ストライカーが、日菜の声と一緒に暢気に跳ねる。金属の塊だと言うのにその重さを感じさせないのは、日菜の身体操作が柔軟で軽やかだからに違いない。おそらくその技量は、隼人と大差ない。
「ふむ、足回りのクッション性デスか。この辺は少し調整する必要がありそうですネ。しばらくは市街地でショウし、余裕を持たせた方がいいかもですネ」
タカハシは懐から小汚い手帳を取り出すと、何やら書き込んでいる。技術者として、やはり現場の声は重要なのだろう。
「なんかあれかね、膝軟骨がすり減ってくるとこうなるのかね……あれ?……」
操演席で何かをさがしているのだろう。日菜がジタバタしている。あちこち虚空を撫で回しているのは、計器類をいじっているのだろう。
「どうしましタ、鉾蘭上等兵?」
「中尉……台本のパンチカードを入れる場所が見当たらないんだけど……どこです?」
露骨に首をひねる日菜にタカハシは鼻で笑った。口に出さないだけでお前は何を言っているんだと、まあ雄弁に語っておる。
「あるわけナイでしょう。ブシドー・ストライカーは兵器、舞台用の機能は外してあります」
ぴしゃりと切り捨てたタカハシであるが、泡を食った日菜が食い下がる。さっきまでの傲慢な暴言ではなく、真摯な現場としての意見であることが、口調から滲む。
「いやいやいや、あれ結構使うんですよ。
技だけじゃなくて銃弾装填とか、ただ単に走るだけとか。操演は全身の動きが常に出る、図体がでかいから何やってるか一目瞭然なんですよ。これじゃ一息もつけないじゃないですか。ほら、判るでしょ」
日菜の操る機体はだらしなく座り込んでメシを食う仕草をしてみせた。元が役者なだけあって仕草が妙に上手い。隼人の目には巻き寿司を齧って喉に詰まらせ、慌てて水で流し込む日菜の姿が透けて見えた。
「戦車や戦闘機とは違うんですよ。いちいち動きの同調切ってたら、対応に遅れます」
「なるほど……これは少し考えておきますかネ」
タカハシは一応そう答えたものの、どうにも苦い顔であった。彼は隼人や日菜と違い、軍人であり技術者である。舞台の台本を仕込むだなんて、やはり無駄にしか感じないのだろう。ただでさえ骨格が重いのだ、ギリギリまで削りたいだろうに、クソ重いパンチロールとそれに付随する制御系など不本意の極みに違いない。
表情などないはずの日菜の機体が、どことなく顰めっ面をしているのがわかる。これ以上機嫌を悪くしたら面倒だと、隼人は話に割り込むことにした。
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