八幡颯天堕つ⑪
呟く隼人の胸ぐらを掴むのは、やはり日菜であった。
もうこいつ躾の出来できていない犬じゃなくて狂犬だろ。もうやだこいつ、どっからこんなバカ力が湧いてくるのか、うんざりした隼人は朝だというのにぐったりしてきた。
「隼人!お前どっちの味方なんだよ!」
「計算されタ曲面装甲は牙や槍を受け流します。灰色の塗装は君タチには味気なく見えるかもしれませんガ、防錆と市街地に溶け込むことだけを考えた灰色の塗装です。体格自体も強力なエンジンを積み込めるように大きくしてあります、更に試験的にモジュール構造を導入しているのデス。これはいずれ部品の規格を統一し、ユニットごとで入れ替えるようにする事で修理期間を短縮するプランでもありマス。
まだ手探りではあるが、これが戦うために洗練されていく技術の進化なのデス」
「ほおん、なるほど……うおっ?」
思わず呟く隼人の胸ぐらを掴むのは、やはり日菜であった。もうこいつ躾の出来できていない犬どころじゃなくて狂犬だろ。もうやだこいつ、どっからこんな馬鹿力が湧いてくるのか、うんざりした隼人は朝だというのにぐったりしてきた。
「隼人!お前どっちの味方なんだよ!」
「騒ぐな、お前が喧嘩売ったんじゃないか」
少しの間とはいえ、稲若丸の調整を担当していた隼人にとって、タカハシの言葉は十分以上な魅力があった。何しろ機操戦伎というものは、一つ一つが特注品だ。部品一つ手に入れるのも面倒だし、市販品で入手したものを加工して使うことも珍しくない。修理期間の短縮は、響きだけで垂涎の価値がある。
「中尉、モジュール構造というのはどういう意味ですか?アメリカの空母はブロック毎に作ると聞きましたが、それのことですか?」
隼人の質問に、タカハシは少しだけ機嫌を直したようである。小さく頷くともう少しだけ語ってくれた。
「ヨク知っているね。純也二等兵は少々工業の話がわかるようだ。
空母の話はブロック工法ダ。空母を一定の塊毎に作り、それを一気に繋げて仕上げる工法だ。最後に繋げばいいだけだから、工期が短く、大きなドッグがすぐに空くわけダ、イメージできるカナ?」
「なんとなくは。賢いもんです」
短期間だが造船所にいた隼人には、その恩恵の素晴らしさがよく分かった。この考えは一座にいたら想像もつかなかったに違いない。誇らしくはないものの、経験が増えれば視点を増やし、視点を増やせば理解する切り口が増えていくようだ。
「モジュール構造はその更に一歩先の考えダヨ。
腕が壊れたら腕を、頭が壊れたら頭を、簡単に取り外して交換できるように、最初からそう作ってあるんだ。極論、上半身が壊れた機体と下半身が壊れた機体を繋いで一つを作ることもデキル……まだ計画段階だけど、数が揃えばそういう運用ができる」
「そんなの無理だ」
日菜が噛み付く。横暴ではあるが、彼女が言いたいことは、隼人も知っている事だ。
「中尉は知らないのか?機操戦伎は発掘された金属の外骨格が中心になってる。言ってみりゃ生き物を使ってるワケだ。
だからみんな大きさが違う、個体差があるからパーツもバラバラなんだ。それでパーツ毎に交換なんかしてたら、手足がちぐはぐになって、まともに歩けなくなっちまうよ」
巨大な外骨格は恐ろしく強く、軽い。これがあるからこそ、機操戦伎は誕生したと言える。ある意味、作られる前から一点ものの存在だと言えるのだ。だから機操戦伎は数が少なく、それに携わる技術者も希少であるのだ。しかし、タカハシはそこもわかっているとばかりに大きく頷く。
「それは大昔の話ですネ。
そりゃ江戸時代の日本では無理だったでしょう。鉄や陶器では重すぎるし、木では耐久性が足りない。
だが今は違う。先の戦争の航空機にも使われた超々ジュラルミンや超高純度のマグネシウム合金なら可能です。本当はそれでも少々重いのデスが、エンジン出力でカバーできる範囲にはなっているはずデス」
タカハシはおそらく心の底でアメリカの、もっと言えば人類の技術の進歩に誇りがあるのだろう。それをなんとなく嗅ぎ取れた隼人は肯定的に頷き、そうではない日菜は鼻で笑う。
「へぇ、そりゃ知らなかった。つまり、アメリカも機操戦伎欲しいんですかね?」
「ゴマ擦ってんじゃねえよ隼人、偉そうに言っちゃいるけど、アタシの耳は誤魔化せねえよ。結局は骨が重いから軽くするのにまだまだ必死なんじゃねえか。地味なワケだよ、飾らないんじゃない、飾る余力がねえんだ」
あまりに棘のある、イガグリの如き日菜の暴言であるが、おそらくはどちらも当たっているのだろう。両者のコメントにタカハシは複雑な表情をしていた。
戦前の日本の技術体系は、現代とはずいぶん違うんじゃねえかなぁ。
なんとなくそう思っています。調べ方が判らんので何とも言えませんが。
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