八幡颯天墜つ⑩
タカハシは胸を張る。
これは革新的な兵器であると。
これは画期的な兵器であると。
これは先進的な兵器であると。
これは進歩的な兵器であると。
しかし二人にはさして響かない。すると日菜がバッサリと口火を切る。こええよこいつ、お前世が世なら辻斬りの素質とかあるんじゃないのか。
八幡颯天墜つ⑩是非ご覧ください。
◇
翌日。所属する機操戦伎が哨戒に出払った後、隼人と日菜の姿は甲板にあった。無論操演着である。甲板の巨大エレベーターが競り上がって、じわじわとそれが姿を見せると、みるみる日菜の顔色が変わる。かつて七夕飾りでも見上げていたころのようにキラキラした目から、ゴミでもみるような不愉快極まりないと言いたげな顔に。無論それはせりあがってきた見覚えのない機操戦伎のせいである。全長二十メートル強、八幡颯天に匹敵する巨体であるが、全身が明るい灰色一色のせいか、のっぺりして大きく見える。
「なんだあれ、やたら地味だな」
日菜のしかめっ面はほんの数秒でどんどん加速していく。つい昨日まで乗っていたのが目も覚めるようにド派手な八幡颯天だったのもあって、その落差にそれはそれな露骨な落胆を見せる。お前が昨日無茶苦茶食いついてたんじゃないか、少しは隠せバカタレ。
「形も面白味がない。これじゃ足軽……いや、亀だ。そもそもこれ、立ち上がれんの?
こんなんじゃ稲若丸の方がずっとカッコよかったじゃあん」
全体的な印象は丸みを帯びた厚手の甲冑といったところか。ケレン味というか、勇ましさというか……ハッタリを利かせる様子は一切ない。巨大な鎧武者たる機操戦伎、これが職人の手による豪華で豪奢で瀟洒な一点物の工芸品であるのに対して、こちらはいかにも大量生産の工業品然としている。それが気に食わない。露骨なのは日菜だが、目立たないだけで隼人も大差ない顔をしている。
今の機操戦伎は兵器である。戦車や軍艦と同様であると考えればむしろこの殺風景に片足突っ込んだ武骨な外観は自然であり、今までが派手過ぎたのだが……物心つく前から機操戦伎を見ていた日菜と隼人にとっては、どうしても物足りない。
「まあ……ちょっとばかり、味気ないな」
装甲が日の光を照り返すのさえ虚しく見える。日菜が露骨に肩を落としていると、それと一緒に格納庫から上がってきたタカハシが二人を見つけ、こちらへ近づいてきた。
「どうダイ?
機操戦伎のデータから作った、完全人造の量産型ダ、近代兵器として作られた新たな機操戦伎。その試作機『ブシドウ・ストライカー』だよ!」
タカハシの声にはどうだと言わんばかりの、胸を張って誇る響きがあった。
これは革新的な兵器であると。
これは画期的な兵器であると。
これは先進的な兵器であると。
これは進歩的な兵器であると。
これは破壊的な兵器であると言っているのだが、二人にはさして響かない。しかしこの胸の内を直接ぶつけるのは流石に気まずい。どうしたものかと隼人が口を濁していると、日菜がバッサリと口火を切る。こええよこいつ、お前世が世なら辻斬りの素質とかあるんじゃないのか。
「名前も形も色も全部格好悪い」
「ンなっ……」
あまりにも酷い日菜のもの言いにタカハシが水でもぶっかけられたように顔を引き攣らせた。こめかみに電流でも流れたようにひりつくのだが、小娘の言うことを間に受けて怒鳴り散らすのは軍人としての自尊心に障ると思ってくれたのか、ギリギリ踏みとどまったのは大人な証拠である。もはやいちいちひやひやしていられるかと、隼人は目を逸らすことに決め、潮風にあたる。
「理屈で言わせてもらえバ、派手な舞台装置のまま戦場に出る方が信じられナイよ。
余計な装飾は可動域を狭めるし、なによりただのオモリだ」
「なんだとこの野郎?アタシらの芸事に文句あんのか」
食ってかかろうとする日菜の襟首を、既に隼人は掴んでいた。躾のできていない犬の散歩をさしている気分。もっとも、武芸で仕込んだ技術をつかってこれを外そうとしないあたり、日菜もまだ完全に逆上しているわけではない……筈だ。
「芸事と言うかショウビズ、見世物なら文句はないよ。今は兵器の話をしているんダ、戦場は君たちが得意とする舞台ではない。兵器に装飾など不要だと言っているんだ、おかしいかい?
戦い、相手を倒す。そのためだけにリソースを割き、存在の全てを捧げる、それこそが兵器にあるべき機能美というものだ、英語ではスタイリッシュと言うんダ。
鳥の体に空を飛ぶのに余計なものは殆どないだろう?それと同じダ」
「おうおうおうおう、それっぽい事抜かしやがって。横文字でアタシをけむに巻こうってか」
面白くなさそうに毒づく日菜のすぐ後ろで、隼人はそういう考えもあるのかと内心ほんのり感心し、それからもう一度白っぽい巨人、ブシドー・ストライカーとやらを眺める事とする。
兵器に外連味や美しさを求めるのと、工業製品としての機能美を求めるのは、どこかに境目があったのでしょうね。
もしかしたら日本では幕末ごろなのでしょうか?だとしたら、室町からアップデートされていない伝統芸能がいきなり当時の工業に触れればこういうギャップがあったかもしれないと考えました。
ロボもんか?これ?自分でもうっすら思っているので、お手柔らかにお願いします。
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