八幡颯天堕つ⑨
バカ特有の第六感を持つ日菜は、一気に勢いで押し切るべきだと、全身に力を込めた。
見るからに体温が上がって、髪がふわりと逆立つ。
日菜は流れを掴むと一気にノる。
それは愚かなところであり、美しいところであり、愛しいところでもあった。
八幡颯天堕つ⑨是非ご覧ください。
「中身はそれどころじゃナイよ。
エンジン内部と駆動系の洗浄だけは、無理矢理明日にねじ込んだ。そこが錆びたらおしまいだからネ」
「……ありがとうございます」
「やらなきゃ黒焦げだったんです……ご理解いただければ」
隼人はいたたまれなくなると敬語を使うクセがある。ただ単に気が弱いのかもしれないが、処世術というには余りに幼稚で粗雑、ある意味彼の誠実さなのかもしれない。それが伝わったのか、仕事だからと強引に飲み込んだのか。タカハシの顔にはわかっていると書いてあった。明日に洗浄をねじ込んだのはその表れだ。
「しかし……参ったな。
これじゃ、俺たちしばらくタダ飯ぐらいになっちまうのか?」
「そうなんだよなぁ」
隼人が苦々し呟くと、日菜は大袈裟に相槌を打つ。真っ向から戦った結果であるとはいえ、配属二日で乗機をやっちまったというのは、なかなか肩身が狭いものだ。整備なりなんなりを手伝うくらいのことはできるが、それがどれだけの穴埋めになるのか、それが戦隊として意味があるのかは疑わしいところである。
「アタシらじゃ小銃持って飛竜騎士に突っ込んでもなんの役にも立たないしなぁ」
「それこそ秒で死ぬわ。しばらくは稽古漬けかねぇ?まあ、年単位で乗ってなかった俺には悪くないが……それこそ実際乗りたいとこだなぁ」
「そりゃ稽古も大切だけどさぁ。隼人よぉ、仲間が命がけで戦ってる横で、畳の上で稽古してられるか?」
「いいや気まずい……と言うか歯痒い。稲若丸は?」
「一座に返した、流石にあれまで持ってきたら舞台が回んないよ」
それもそうかと納得はするが、それで隼人の状況が変わるわけでもなし。苦々しい物言いに日菜はぐるりと上半身をひねると、タカハシの視界に割り込んだ。
「そうなんですよ、すげえ気まずいんです。中尉わかります?歯痒いって日本語。
みんなが戦ってるのに私たちだけ役に立てないのは気まずい……もっと言えば辛いんですよ。どうにかなりませんかね中尉。
隊長の機体とか空いてません?どうせ乗ってないでしょ?借りれません?こっそり」
「自転車みたいに言うな」
背後から突き刺すようにぶっきらぼうな隼人の物言いにタカハシは噴き出した。もちろん冗談だと判っているが、戦いたくても戦えないことの無力感と苛立ちの予感は、既に二人の胸の内で膨れつつある。
「流石に隊長の機体を回すのは無理デスが……一応機体はあるんダ」
「おっ!マジですか?」
期待していなかったところからアタリがきたと、日菜の目がくわっと見開いた。こいつは本当に見ていて飽きない。顔が筋肉痛になったりしないのだろうか。
「デモ、大佐の承認はこれからだし、色々と違いもある。実戦に耐えるかどうかは君たち次第なところが大きイ」
タカハシの口調は考えながらの色合いが強い。色々と問題があるのか、本来はあまり出したくないようにも見えた。それが判っているのかいないのか、あるいは判って無視しているのか、既に日菜は全てが解決したような晴々とした顔をみせる。
「流石ぁ!そう言ってくれると思ってましたよ中尉!」
「……しかしあれはネ」
何か言いかけたタカハシであるが、バカ特有の鋭い第六感を持つ日菜は、ここで一気に勢いで押し切るべきだと感じ取ったか、ぐいっと全身に力を込めたようである。見るからに体温が上がって、髪がふわりと逆立つ。役者だからなのか、そういうヤツだからなのか、日菜は流れを掴むと一気にノる。それは愚かなところであり、美しいところであり、愛しいところでもあった。
「大丈夫!私と隼人ならなんとかなる!
八幡颯天はかなり繊細な部類なんです、中尉ならわかるでしょ?だからアタシらなら大概の機体は乗りこなせます!
なんですか、この土壇場で出てくるってことはアレですか、秘密兵器ですか?それとも新兵器ですか?アメリカのなんかすげえやつですか?おいおいおい、そんなの隠しちゃって人が悪いなぁもう!」
次が見えれば他に用はないと、それにぐいぐい突き進むのが日菜だ。隕石のような少女は、いつものようにあらゆる障害を跳ね飛ばすつもりなのだろう。
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