八幡颯天堕つ⑧
「だったらドッグごと日本に来てくれりゃよかったのに」
露骨に肩を落とす日菜にタカハシは大いに呆れて力なく笑う。
葵斗といい日菜といい、なぜこいつらはタカハシをおちょくるのか。
様子を眺めている隼人はヒヤヒヤしていた。
八幡颯天墜つ⑧是非ご覧ください。
「毎週?ソレは小型の護衛空母の話かな?
それだってブロック工法と造船ドッグの数で途切れなくこなしているという話でネ、工期が一週間という訳ではないんダ。技術力と言うよりも、工業力や生産力の話ダネ、一緒にしてはいけないよ」
「なんだよ、期待して損しました。だったらドッグごと日本に来てくれりゃよかったのに」
大袈裟に肩をすくめ、露骨に肩を落とす日菜。そこにもタカハシは大いに呆れたのか力なく笑う。葵斗といい日菜といい、なぜこいつらはタカハシをおちょくるのか。顔は日本人と大差ないが、アメリカ軍人だぞ。後ろでその様子を眺めている隼人はヒヤヒヤしていた。
「タカハシ中尉、実際時間はどれくらいかかるんですか?
日菜はこんなんですが、俺たちが遊んでいるわけにもいかないのも確かです」
役者というものは所詮ちゃらんぽらんであるが、その中でも隼人は少々気弱で真面目な気配がしないこともない。口先だけはほんのりと真っ当な隼人の言葉に、タカハシはとりあえず呆れこそ引っ込めたものの、決して明るい顔をしているわけではなかった。
「昨日今日の戦闘でダメージのある機体が多い。どうしたってすぐに直る軽傷の機体から直す必要がある……八幡颯天はかなり後回しダ。
部品の規格化もされていないし、設計図も残っていない。これは骨が折れルヨ。近代化改修時に図面をおこしておいてよかった。これがなければ……この前の大破同然からの大規模修理は不可能だったろうネ。テセウスの船ならもう別物だ」
隼人はその状況を話でしか知らないのだが、どうやら今回はそれに次ぐ大損害であるらしい。それでもけろりとした顔で切り返せるあたり、日菜は図太い。隼人にとっては恐ろしくもあり羨ましくもある。
「え、でもあのときは結構早く直ったって聞いてますよ、アタシ」
「あれは一座から持ち込んだ部品が豊富にあったからダ。
部品はどんどん減っていく、これからは特殊なものは造船所や町の工場で作らせなきゃならないんだ。数は多くないが、それでも時間はかかる……自分たちの目で見るといい。日本語で言うなら、一目瞭然というヤツだネ」
すっとタカハシが指差したのは、台車に横たえられた八幡颯天の巨体である。波打ち際で飛んだり跳ねたり転げ回ったりの死闘敢闘で傷だらけなのは当然。長大な尻尾による叩きつけ、怪攻撃による焦げやらで、空色と金色の美麗な甲冑はボロボロであった。
「あーあ、派手にやっちまったもんだ」
日菜が肩を落として呟いた。舞台用の美麗な装飾を実戦に叩き込んだのだから、そりゃ無事では済むまい。頭ではわかっているのだが、実際目にすると心にくるものがある。その中でも一番の損傷は、突撃槍にぶち抜かれた胸。人体で言うなら肩の関節とその周辺の大きな腱が、まとめでぶち抜かれたかのようにぐしゃぐしゃにされている。
「人間なら腕ごと切り落とすレベルだね、こりゃ」
日菜はうんうんと頷いてから隼人へと振り向いた。
「八幡颯天に風穴が開いたときはアタシもヒヤヒヤしたよ。隼人にも穴が開いたんじゃないかって」
「開いてたまるか。つっても頭のすぐ上を槍が通ったからな、生きた心地しなかったけどな。
操演してて返ってくるのは姿勢だけだ。千切れたら手応えがなくなるだけ、多少ズレは出るかもだが、一緒にぶっ壊れはしねえよ」
「そうか、よかった。こんなの舞台の頃は考えもしなかった」
「そりゃそうだ。舞台でぶっ壊すまでやるかよ」
遠い記憶を呼び起こす隼人。戦記モノ、忠国モノが多くチャンバラや砲撃を多用する機操戦伎であるが、実際に腕やら頭やらを吹っ飛ばす演出は……できなくはないが少ない。何しろ中身は複雑なカラクリ、最初からそれ用に組んだ機体でなければ負担が大きすぎる。それもそうかとけろりと笑う日菜の背後で、タカハシはもの言いたげに露骨な溜息。
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