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機操戦伎グレニアヴァール  作者: そのえもん


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八幡颯天堕つ⑦

「陰気な顔すんなよ。私も一緒だ、二人でもっと強くなる。

 生きて戦争から帰って凱旋公演だ。サイン書きの苦しみを味わえ」

 からりと日菜は笑った。取らぬ狸の皮算用そのものであるが、とにかく戦って勝つ、とにかく生きて帰る、その二つを胸に刻み込む巨大な皮算用であった。


 日菜が今日指示役をこなせるのは、気が遠くなるような稽古の積み重ねであった。そんなことは洟を垂れていた頃から側にいる隼人が一番知っている。


「……そんなバカな」

「バカはお前だ。

 何年かぶりに機操戦伎に乗り込んで、飛竜と連戦して生き残ってるんだぞお前。そりゃさ、泣いて逃げ回ってたならわかるけど、真っ向から思いっきり戦ってこれだぞ。普通じゃない、はっきり言やあどうかしてるよ。多少のスジじゃない、簡単に言いたかないけどさ、これが才能なのかもね。

 それだけでお前は只者じゃないよ、多分、みんなそう言う。戦国時代だったら、すげえ勢いで出世したかもな」


 隼人は呆然としてしまった。面と向かって、しかも日菜にそんなことを言われるのは生まれて初めて。

 その言葉かあまりに唐突で、その言葉があまりに強引で、その言葉があまりに直球で、あまりに実感がない。いいように煽てられて担がれて、騙されているのではないかとまだ疑ってしまう。それが真実なら、それだけに、背が伸びすぎて乗れなかった時期が惜しいのだが、こればかりは今更どうしようもない。


「そんなに大したモンでもねえよ。今日だってみんなが来なかったら死んでた、日菜ならわかるだろ」

「そりゃそうだ、一緒にいたんだからな。

 当たり前だ、それだけで勝てるもんかよ。スジの良さだけで戦争どうにかしようなんて、流石のアタシも笑っちまうよ。

 いくらスジが良くてもその程度、それでもすげえよ……でも、今度はもっと気を引き締めろよ。隼人は強いが、向こうはもっと強い、それだけのことだ」

「まあ……そんなもんか」

「陰気な顔すんなよ。アタシも一緒だ、二人でもっと強くなるんだ。

 生きて戦争から帰って……そしたら今度はデカデカと凱旋公演しようじゃないか。お客さん押し寄せるぞぉ、今度はお前のブロマイドも出してやる。楽しみにしとけよ、書いても書いても終わらない、無限サイン書き地獄の苦しみを味わってもらうからな」


 そう言って日菜が海風に向けて陽気に笑うと、隼人は自分の中にも小さく暖かいものが灯ったように感じた。こんな口先は取らぬ狸の皮算用であると充分わかっている。しかし、妄想の中でも見える未来があれば、それが幻であってもよすがにはなるではないか。それはかつて日菜がこの部隊で背負おうとしたものであるが、この小柄な少女は自分と隼人の未来を描くことでもう一個背負って立とうというのだ。とにかく戦って勝つ、とにかく生きて帰る、その二つを胸に刻み込む巨大な皮算用が、いまは異常なまでに頼もしい。

 隼人とて、日菜に背負われてばかりはいられない。日菜が背負うならその半分は自分が背負うべきなのだと、胸の中の火種に息吹を吹きかけた。


「いつになるやら……」

「なるやらじゃない。一日も早くできるようにするんだ。

 私と隼人ならできるさ。未来の戦伎太夫が言ってんだぜ?文句あるか?」

「そうか……そうだな。そうだよね、面白そうだ。

 稽古しなきゃな。飛竜に勝つためにも、凱旋公演のためにも」


 さっきよりほんの少しだけ力強くなった隼人の言葉に、日菜は満足げに頷いた。


「というわけで爆速で直して欲しいんですよ、八幡颯天を。

 明後日くらいには直りませんか?」


 八百屋で大根一本とくれと親父に言うような。それくらいの温度で日菜が声をかけるものだから、タカハシは心底うんざりしてみせた。何とも苦々しい、生まれてこの方秋刀魚のはらわたしか食わなくてもここまで苦い顔にはなるまい。


「……あれカイ?舞台関係者はとりあえず吹っかけようとするものなのカナ?海に飛び込んだだけでも大変なのに、胸に大穴まで開けて……駆動系が壊滅一歩手前ダヨ。

 これを二日で直せるなら、私は技術屋よりも手品師の才能の方があるネ」

「いやいや、中尉ならいけますよ。

 聞きましたよ。メリケンじゃあ毎週のように空母ができてるんでしょ?一週間で空母作っちゃうんなら、機操戦伎くらいどうにかなるでしょ?」


 日菜の乱暴で高圧的な物言い。本当にこいつは顔のわりにどうにも可愛げがない、おそらく日菜なりにタカハシを煽ているらしいのだが、死ぬほどわざとらしい揉み手が寸劇にさえ見えてきて、滑稽を通り越して挑発にとられやしないか。この粗雑な三文芝居でどうにかなるかもと思うあたりが、バカなのか能天気なのか隼人にもわからない。


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