八幡颯天堕つ⑤
「隼人……お前調子乗ってたろ」
痛点を突かれて、図星を突かれて、心根を暴かれて、隼人は肩をすくめた。
もちろん積み上げた稽古量には自信があったし、腕に自信はある。
それが隼人を増長させたのだと、自分でもわかっている。
八幡颯天堕つ⑤是非ご覧ください。
◇
ざっとシャワーで汗を流して甲板に上がる。軍艦のシャワーというものはろ過した海水らしくて渇きが悪く、べたつくし、なんか臭う。それでも汗まみれ埃塗れ煤塗れよりは幾分マシなのだと自分に言い聞かせて不満と一緒に洗い流した。多少渇きが悪くても、全身を洗い流して風身をさらせば心地よいのが嬉しい。肺の中身と一緒に一日のあれこれを吐き出しきったころ、夕暮れが海と甲板を赤く染めるのが一望できた。
「なに食ってんだ?」
声に振り向くと日菜。こちらも汗を流してきたのだろう、肩までの濡れ髪を汐風に晒す姿が眩しい。思わず目を奪われないように、隼人は齧っていた巻き寿司の残りに目と意識を無理やり向けた。
「弁当の残りだよ、半分も食えなかったからな
「……痛んでないか?」
「大丈夫だ。ドヤのすいとんはちょっとくらい痛んでも食えた」
半分冗談のつもりだったのだが、日菜はくすりとも笑わない。それどころか不愉快そうに眉根を寄せるばかりである。こいつこんなに複雑な顔ができるのかと一瞬だけ気が逸れた。
「隼人、ドヤ基準はやめて。もう、その頃の隼人とは決別して欲しいんだ。
少しでも痛んでたら……怪しいと思ったら食うな。いざって時に腹壊して乗れませんなんてことになって、そのせいで誰か仲間が、街の誰かが死んだらどうする。そうならないために軍艦の烹炊所は苦労してるんだ。お前がしてるのはそういうことだ。
アタシたちは変えが利かない、戦闘機乗りよりもう一個特殊な技術が乗ってるからね。肩に乗ってるのは自分だけの命じゃない、下手すりゃ万単位の命だ。怪しいもん食うなら一食抜いたほうがまだマシだ」
そう言った日菜は巻き寿司の残りを奪い取ると、甲板から投げ捨てた。あっと思うより早く、巻きずしは残飯となって海に広がっていく。これが一座の舞台裏なら取っ組み合いの大喧嘩だが、今は何もかも違う。隼人は日菜に言い返せず、ぐうの音も出せないと頷いてやった。どうやら、まだ自分は甘かったらしい。
「隼人……お前調子乗ってたろ」
痛点を突かれて、図星を突かれて、心根を暴かれて、隼人は肩をすくめた。もちろん積み上げた稽古量には自信があったし、腕に自信はある。その上でブランクをものともせずに強敵である金色を撃退した、それは事実なのだ。しかしそれが隼人を増長させたのだと、自分でもわかっている。
「そうだな。自分が強いと……勘違いしてた」
伏せた目の向こうで、日菜が露骨に嘲笑うのが目に浮かぶ。夕立ちみたいな量の暴言が降り注ぐのかと思ったが、いつまで待っても始まらない。妙だと思って顔を上げると、この顔だけは良い性悪ちんちくりんは真顔であった。
「ああ……それはいいんじゃない?否定はしない、アタシから見ても隼人は強いよ。人形遣いとして一級品にスジがいい、スジだけは、な。いつだか父さんもそう言ってた」
「太夫が?嘘だろ」
信じられないと目を剥く隼人に、日菜は肩を落として露骨に嘆息。バカがと呻いて隼人のケツをどかんと蹴った。
「なんだよ忘れてたのか?お前昔からスジがいいって言われてたろ。父さんだけじゃない、たしか剣之丞の兄さんも言ってたろ」
そうだったか?と記憶を遡れば心当たりはなくもない。しかし、あんなのは半分茶化すような、下手すりゃ嫌味のような言い草であったはずだし、数えるほどのことだった筈だ。
「あんなの誰にでも言う……というか冗談だろ?」
「バカ言え、みんなプロなんだ、そんな冗談言うわけないだろ。
砲園さんは面と向かって言わなかったけど、アタシは聞いてた。ついで言うとアタシは誰からもスジを褒められたことがない、褒められたのは根性だけだ」
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