八幡颯天堕つ③
「ついでに機操戦伎を飛ばしたり出来ませんかね?」
葵斗の発言が作戦室に緊張を走らせる。
ふざけてもいないし、思い付きでもない。
葵斗は常に考えているのだ、一人でも多くの若人を戦場から生還させる術を。
八幡颯天堕つ③是非ご覧ください。
葵斗の言葉に宇津木は頷き、机に広げられた地図に目を落とした。瀬戸内海近辺の詳細な地形に、艦隊の船舶が更新した情報がびっしりと書き込まれたそれは、存在だけで戦略資源と言うべき密度がある。もっとも、宇津木の頭には殆どそれが入っているのだろうが。
「なんにしろパクダが直接確認できたのは収穫だ。今後はここを中心に哨戒を広げる」
先端まで薪のように太い宇津木の指が、地図の現在地周辺をくるりと囲う。押し込めば机にめり込みそうな荒々しいものだというのに、その動きは滑らかで柔らかい。
「幸い瀬戸内海は浅く、相手はバカでかい。範囲を絞れば駆逐艦や潜水艦の捜索網に十分引っかかるはずだ。流石に航空機で飛竜騎士を撃退するのは困難だろうが、足の速さでは負けん。哨戒だけなら十分だ」
「早期発見と足止めが出来れば十分でしょう。機操戦伎が駆けつけるまで連中が広がらなきゃ十分。
海上で発見したなら交戦しなくてもいい、場所さえわかれば十分です。水際で叩きます」
葵斗の言葉は極めて楽観的であるが、宇津木も異論は無いらしい。切株のように太い首がこくりと頷くと、小さく鋭い目がくるりと動いてから、首が後を追う。それから反対側のタカハシに話を振る、質問と言うか、念押しと言うか、やはりそこにはやれという温度が強い。
「タカハシ中尉、防水は可能かね?」
「水中でバクダと取っ組み合いで戦えるようにしろと言われれば厳しイ。ですが、数分潜ったあとでも地上で活動できるようにしろ、という程度なら……なんとかメはあるとだけ。
実際、渡河能力のある戦車もありますからね。頭まで泥水に潜っても戦える戦車がいるのですから、その辺を参考にすれば、多少はできるかもしれませン……相手が塩水なのは、整備班に苦労を強いるでしょうガ」
「それなんですがね、だったらついでに機操戦伎を飛ばしたり出来ませんかね?」
無理なのは葵斗の話への割り込み方だけではない、その内容もだ。あの鋼の巨人が跳んだり跳ねたりしているだけでもどうかしているというのに、それを飛ばせろだなんてどうかしている。あまりの無茶振りに無言のまま目を剥き口を半開きにした宇津木の顔に、日菜は吹き出すのを堪えているようだった。
「そんな顔しないでくださいよ特務大佐殿、口に吸い込まれちまいそうだ。
だって考えてくださいよ、火炎から身を守るのに海に飛び込んだのは、仲間の到着を待ってたからだ。もっと早く合流出来れば、八幡颯天の被害は抑えられたわけですよ、上空に逃げたっていい」
葵斗の指摘は間違っていない、だが間違っていないのは指摘だけだ。その内容はまるで夢物語。隼人は思わず口が半開きになり、新富一等兵曹は溜息をついてやれやれと頭を振っている。
「無茶だ、機操戦伎が何トンあると思ってるんですカ、葵斗少尉は。
飛行機は飛ぶための設計で、他を削ぎ落として今がある。格闘しようなんていう機械人形とでは、根本の思想が近い過ぎル」
「別に羽を生やせってんじゃない。なんなら片道でもいいんですよ。飛行機に吊るして飛ばすでも、砲に乗っけて打ち出すでもなんでもいいんです。
贅沢言えば唯鶴を飛ばせとか、もっと速くしてくれとかですよ。そのへんよりはいくらかマシでしょう?」
「言いたいことハわかります。それが出来れば効果的でしょう。
しかし……あまりに無茶だ、思いつきをぶつけられても限度があります。五十年の未来の技術を持ってきても無理だ」
夢から覚めろと言わんばかりのタカハシの言葉に、葵斗の眉がきゅっと跳ね上がった。おむすびころりんが始まるくらいの斜度はある。
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