八幡颯天堕つ②
そりゃいいや、一騎打ちに拘ったらぶん殴るところだった。
実戦の乾き方ってもんがが判ってきたじゃないか。
いい傾向だ、俺好みの兵士に仕上がってきてる。意外と順応性が高いな。やっぱ若えや。
隼人の答えに葵斗が笑う。
戦場は思ったより早く隼人を蝕むようだった。
八幡颯天堕つ②是非ご覧ください
「海へ飛び込んだんですカ?
信じられナイ……どうかしてる。その瞬間に止まってもおかしくないし、多少持っても一酸化炭素中毒で死んでたかもしれない……よく動いたものデス」
幽霊でも見たような顔で呟くタカハシであるが、隼人は平然と言い返した。なにより無茶があるのは二人とも存分に知っている。
「向こうが火を吐いてきたんです、こうでもしなきゃなければ俺達は黒焦げで死んでました。焼かれて死ぬくらいなら、一秒でも耐えて、一匹でも巻き添えにしたい……いけませんか」
「防水性の向上を希望します。このままパクダが海に隠れるなら、今後も水に潜る可能性もあるかもしれません」
二人して矢継ぎ早にそう言い返したのは、死にかけた実感がまだ背筋に突き刺さったまま残っているからだ。実際、今日死んでもおかしくなかった場所はそれだけではない。一歩間違えば何度死んでいたことか。今回は隼人と日菜が生き延びるホンが辛うじて通った。ならば次もそのホンが通るようにしたいではないか。死にたくない、それに理屈をつける、生き抜くためなら屁理屈なんぞいくらでも出てくるものだ。
「別に泳げるようにしろとは言いません。三分、いや、一分でも構いません。少しの間耐えられれば、戦える可能性が広がります」
「仮に……八幡颯天が完全防水だったら、銃也は銀色の奴を仕留められたか?」
「可能性はあります」
「そうかい、銃也は?」
葵斗の質問に力強く即答する日菜であったが、反面隼人は少し考えた。隼人も自身が短慮で悲観的な自覚がある。頭の中身を一度反芻して、勢いとか感情とか鮮度の重要そうな内容を抜く。そうして残ったものを一旦胸の中で平たくしてから口を開く。
「多分……難しいです」
「なぜそう思う?」
「銀色のあいつは強い。怪攻撃は金色の方が上ですが。身のこなしや攻撃の重さは銀色の方が優れていました」
昨日辛うじて撃退した金色がやたらと強敵と聞いて、隼人は明らかに慢心していた。苦戦したとはいえぶっつけで撃退したのだ、なればと心の底では、自分がこの戦争を終わらせてやれるとさえ思っていた。しかし現実はそうはいかない。儚い妄想であり、細やかな夢想であった。現実世界というものを囲っていたのは、思っていたよりも遥かに分厚い壁。実戦というものは、思っていたよりずっと幅広く、奥深く、根深く、性根が悪く、しんどい。それもそのはず、なにしろ全員が自分の命を賭けた死に物狂い、甘いことで勝ち抜けると思うのが大間違いである。
「金色の強さは……なんというか、賢い匂いがするんです。
だからやることが幅広くて、色々な怪攻撃や格闘の組み合わせで戦ってくる……んです」
疲労で回らない頭から懸命に搾り出す言葉はまとまりがない。しかし、それはありのままに一番近い情報でもあった。小突いて止めようとした日菜を掌で制して、葵斗は続きを促す。
「続けてくれ」
「銀色はそういうのとは違う。なんとなく……得意技に絞って磨き上げて、そいつ頼りで押し切ってくる感じです」
隼人のまとまりない言葉に、葵斗はふぅんと頷く。それでいいのだ、現場から、前線から、戦場から、死地から推敲して練り上げられた結論などが出てくるはずがない。そんなものは指揮官の、指令所の、将校の仕事ではないか。隼人はそう割り切って、腹と頭の内側を洗いざらいぶちまけた。
「次ぶつかったらどう戦う?どうすりゃ勝てそうだ?」
「少なくとも正面からぶつかるのはまずい。別に勝負じゃないんだ、勝つ方法なんかどうでもいいんです。単純だ、複数人で囲んで袋叩きです」
明確な回答が出せず、窮した隼人が無理に絞り出した返答。花も誉もあったものではない、数と暴力に任せた策ともいえない泥臭い答えであったが、存外葵斗はあっさりと頷いた。なんなら笑っている。この顔に隼人は見覚えがある。子供や孫の奇行にかつての自分を重ね、思わず駆け巡る懐旧と追憶に口の端を吊り上げる、年寄りの笑いによく似ている
「そりゃいいや、一騎打ちに拘ったらぶん殴るところだった。いいね、実戦の乾き方ってもんがが判ってきたじゃないか。よしよし、いい傾向だぜ、俺好みの役者……失礼、兵士に仕上がってきてる。意外と順応性が高いな。やっぱ若えや。そっちはそれでいいだろう。
そんでだ、防水の件はタカハシ中尉に検討していただくとしましょう。つっても、どうせ一日二日でどうにかなることじゃない。差し当たっては哨戒小隊は頭数を増やしましょう。班が減る分は航空隊で補えませんか?」
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