十一 八幡颯天堕つ
軍属は辛いよ。
死に瀕した人間の恐怖を。
死に瀕した人間の興奮を。
死に瀕した人間の奮戦を。
死を掻い潜り克服した、鼻先まで漂った死の気配と香りをナマで伝えねばならない。
だから、帰ると同時に倒れて寝ることも許されない。
十一 八幡颯天堕つ
是非ご覧ください。
命からがら唯鶴に戻った二人は疲労困憊であった。これが舞台ならとりあえず腹に何か入れたいところなのだが、生憎軍隊というのはそうもいかないらしい。
「任務報告だ、行くぞ隼人」
「軍属は辛いな、ぶっ倒れて寝込むことも許されねえのか」
「うるさい、アタシだって疲れてんだ」
日菜に引っ張られて向かった先は艦橋直下の作戦室。そこで小隊ごとに報告するまでが任務なのだ。ド派手に交戦した隼人たちは報告する内容か濃くて多い分、長引くのは当然である。
「なあ日菜……もしかして、敵に合わなかったら一瞬で済んでたか?」
「まあ……そうかもね」
「報告なんて日菜が行けば良くないか?上官殿だし」
「そうもいかないだろ。アタシだって手一杯なんだ、隼人しか気付かなかったことはあるだろ。
いいのか?ハヤトが喋んなかったせいで、明日誰かが銀色の奴に殺されてもさ」
冷たい日菜の目が、隼人の横顔を貫通して胸まで突き刺さる。ここまで直球で言われては、隼人も言い返せない。死にたくないのは皆同じだし、死なせたくないのも皆同じなのだ。弾避けもよすがもクソもない愛前線に放り込まれた人間は、ありとあらゆる情報を共有して、死に物狂いで身を守らねばならない。死ぬ気で生きねば死んじまう。隼人の骨身には僅か半日でそれが染み込んでいた。
「……わかった」
日菜と隼人の火を噴くような激戦は、唯鶴をはじめとした艦隊からも確認されている。しかし、勿論それはほんの一部に過ぎぬ、外野の好き勝手な感想だ。
死に瀕した人間の恐怖を。
死に瀕した人間の興奮を。
死に瀕した人間の奮戦を。
死を掻い潜り克服した、鼻先まで漂った死の気配と香りをナマで伝えねばならない。だからこそ、発進からほぼ全てを丹念に蒸し返すような一挙手一投足を掘り返す、バカのようにしつこい報告が求められた。それが誰かの命を、いずれ自分の命を守る為につながりかねないと判っていても、死闘直後の体にはしんどかった。なにしろ二人はクタクタなのに、作戦室では立ちっぱなしなのだ。
「ふむ……銀色の飛竜騎士か」
一通り報告を聞いてこめかみを抑えたのは、机の中央に鎮座する仁王像、こと宇津木特務大佐であった。羨ましいことに椅子がある。もっとも、戦況をほぼ全て把握せねばならないその椅子の座り心地は決して良くなさそうであるが。
「身のこなしが違いました、デカいのに、鈍くない」
「はい。とんでもない手練れでした。見たことない、槍捌きだけなら金色より上かもしれません」
疲労と緊張で顔色の悪い日菜と隼人が続けざまに答えると、同じ机についていた葵斗が口を挟んだ。その隣では新富一等兵曹が議事録をつけていた。
「八幡颯天の右胸をぶち抜いたのはそいつか。
銃也、随分無茶したな」
「力負けしてました。これで相手の武器を封じるには、自分を串刺しにして奪い取るしかない。それしか思いつきませんでした」
「力負け?八幡颯天が?どんなバケモノだよ」
信じられないと肩をすくめる葵斗少尉に向けて、隼人の言葉を補足するのは日菜であった。
「その直前、相手の火炎攻撃から身を守るために海へ飛び込みました。
全身の起動力や出力が低下していたので、それもあると思います。それでも、強いのは間違いないと思いますが」
「海に?」
そこに割り込んだタカハシの声は半ば裏返っていた。内燃機関を乗っけた陸戦兵器の扱いとしては最悪だろう。タカハシが技術屋として純度が高ければ高いほど、信じられない蛮行であることなのだろう。
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