叩き折れ、鼻っ柱⑬
短慮を悔いるのは口先だけ。
短慮を悔いるのは一瞬だけ。
短慮を悔いるのはもう終わった。
ああせねば二人は焼け死んでいた。死ぬのを先送りにしただけ価値がある。
既に隼人は開き直って戦うことを選んでいた。
「違う……」
対して日菜は冷静であった。指示席には無数の計器が並び、八幡颯天の全身の状況を常に伝えている。それぞれを確と見て、彼女の知識と統合すれば、どこで何が起きているのか全てが見通せる。ネジが一本緩んでいるのだって判る自信が日菜にはあるのだ。
「多分、エンジンに海水が入った」
「げぇっ……」
賭けが裏目に出た。海に飛び込むという一か八かの暴挙は、二人を火炙りの運命から救ったが、また別の死線を与えたのだ。
「クソッ……しくじったか」
短慮を悔いるのは口先だけ。
短慮を悔いるのは一瞬だけ。
短慮を悔いるのはもう終わった。
ああせねば二人は焼け死んでいたのだ。死ぬのを先送りにしただけ価値がある。それだけ相手を仕留める機会を得たのだから。そう、既に隼人は開き直って戦うことを選んでいた。
「だったらもういい、押し潰してやるよ、トカゲ野郎!」
八幡颯天は刀すら捨て、銀色の飛竜騎士に覆い被さるようにとびかかった。エンジン出力が足りなくとも、機体が軽くなるわけではない。銀色がその無謀な動きを隙と見たか、自暴自棄と見たか、それはわからない。だが、見逃すほどのバカでも、逃げるような臆病者でもなかった。
長大な突撃槍、その手持ち側を地面に固定し、切先をこちらの胸へ向けた。機操戦伎の自重を使ってその腹を貫こうという、捨て身の戦法であった。
「お前は勇敢で頭のいい戦士なんだろうさ。
だからよ、こうすりゃ逃げねえと思ってたんだ」
金属同士の擦れる耳障りな高音と火花を散らして、突撃槍が八幡颯天の右胸を貫く。中にいる隼人は、ギリギリのところで身を捩って串刺しを回避した。
「こうすりゃ、丸腰だよなぁ……」
隼人も捨て身であった。機体が槍に自分ごと貫かれるギリギリを攻め、鈍重なおもりとなりつつある八幡颯天の体を使い、強引に相手の武器を奪う。肉も骨も斬らせて魂を穿つ、狂気じみた戦法であった。
飛竜騎士が機操戦伎をなんだと思っているかは知らない。しかし、流石に胸板をぶち抜かれた巨人が、その勢いのまま圧し潰さんと迫ってくる姿には恐怖を感じたか、大きく飛び退いた。
「すばしっこいッ!」
「今だッ!」
日菜が無線に怒鳴る。
それを待っていたとばかりに、銀色の飛竜騎士めがけ、無数の火砲が一斉に火を吹いた。
その砲撃は、二隻の駆逐艦と蒼鉄の誉だけのものではない。
「やったぞ隼人……十分、持ち堪えたんだ!」
広島港から駆けつけた唯鶴とその護衛艦隊による艦砲射撃が始まったのだ。
満身創痍の八幡颯天に大して、銀色の飛竜騎士には目立った損害がない。しかし、八幡颯天のそれよりも遥かに強烈な艦砲射撃が降り注ぐ中で戦うのは、流石に無謀だと判断したようである。そのまま大きく飛び退くと、パクダの背、その向こう側へと戻っていく。
流石のパクダも艦砲射撃は堪えるのか、全ての飛竜騎士が戻る頃には潜水を開始した。駆逐艦を超える巨体であるのに、恐ろしい速さで海中に姿を消すと、もはやどこにいるのか水面からは全く分からないのであった。
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辛うじて生き延びた二人ですが、この先どうなることやら。
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