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機操戦伎グレニアヴァール  作者: そのえもん


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叩き折れ、鼻っ柱⑫

レシプロエンジンが水中で息が続くはずもない。

八幡颯天が機能停止するまでの間、隼人は日菜の呼吸だけを確保した。

日菜さえいれば、八幡颯天は戦える。

既に隼人は腹を括っていた。

叩き折れ、鼻っ柱⑫是非ご覧ください。

「おい!なに考えてんだ!」


 日菜の絶叫が八幡颯天の胸郭にぎんぎんと反響する。元来攻城兵器である機操戦伎、水中戦に適応なんぞしているわけがない。多少の雨くらいなら屁でもないが、エンジンに直接海水が入ろうものならお終いだ。この戦乱、この敵の只中でそんなことになれば、それは単純な自殺行為である。しかし。


「焼け死ぬくらいなら溺れる方がマシだ!」

「正気か!」


 機構が複雑な機操戦伎、根が古いだけあって確かに気密性は随分と低いのだが、とは言っても水に入った瞬間に全てが止まるわけではないのだ。極論、飛竜が炎を吐く間だけ身を守れればよい、隼人は既に割り切っていた。兎に角次の瞬間命があればいいという、やけっぱちに近いギリギリの賭け。

 既に飛び込んで数秒の間。山ほどある八幡颯天の全身の隙間からは身を隠すほどの空気があぶくとなってが抜けていく。空気が抜けた分だけ、みるみるうちに海水が侵入してくるのは当然のことだ。


「日菜っ!上見てくれ!

 俺からじゃ、水面が見えねえ」


 隼人の両手がそうしたように、八幡颯天は自らの顔を覆っている。鋼の掌に肉があるわけではないが、せめて掌で覆った分だけ、日菜のいる指示席まで水が行くのが遅くなる。日菜の呼吸さえ確保できれば、その分八幡颯天は延命できる。隼人はとっくに腹を括っている。


「ダメだ、まだ吐いてる……」


 飛竜の吐く炎が、八幡颯天の頭上で海面を撫でる。無論多少の炎を吐いたところで、水中の彼らにはその熱は届かない。しかし、こうしている間にもじわじわと水位が上がってくる。エンジンもいつまで持つかわからない焦燥を無理に飲み込んで、隼人は誰に向けたのかも判らない祈りを口走った。


「頼む……っ!エンジン、止まるなよ……っ」


 海水が隼人の腰まで上がり、操演席の中が煤煙で煤け始めたころ、日菜が叫んだ。見つけたのだ、頭上の水面で揺らぐ炎が途切れたのを。


「今だ!飛び出せっ!」

「動けぇっ!八幡颯天っ!」


 地殻を踏み抜いてやる、本気でそれくらいの勢いで海底を蹴った次の瞬間、八幡颯天は海面へと躍り出ていた。一息も突かずに空中で身を捩り、その勢いのまま飛竜騎士へ斬りかかる。巻き起こした水柱が崩れるより早く目の前の飛竜が騎士を切り伏せ、すぐさま横っ飛びに跳ねる。転がって身を起こし、次はどいつだと息巻くところに、背後から突き抜けた衝撃に突き飛ばされた。


「うあ!」

「しゃらくせえっ!」


 跳ね飛ばされても動きは止めない。多少転んでも精々骨を折る程度ではないか、反面止まったところにまた炎を吐かれば丸焼け、確実に焼け死ぬ。八幡颯天は海岸をそのまま転がり、一回転して泥まみれになって立ち上がる。


「日菜!無事か?!」

「頭ぶっけた……責任とって隼人が婿に来い!」


 軽口が叩けるならとりあえず大丈夫。しかし胸を撫でおろす隙はない。


「なんで俺なんだ、飛竜に言えよ」

「ヤだね、あんなの。今日は銀色だぜ?どうなってんだ、飛竜共は将棋でも指してんのかってはなしじゃんか」


 なるほど、八幡颯天を撥ね飛ばした飛竜は、昨日相対した金色の飛竜騎士の色違いであった。


「将棋なら銃には勝てねえよな!」

「待て隼人!今撃ったら__」

 既に隼人は銃を構えていた。銃は元々得意ではないが、この至近距離なら流石に当てる自信がある。日菜が何か言いかけたのは鼓膜を揺すっていたものの、今はかまける余裕がない。撃ってからでよかろうと、既に隼人は引き金を引いていた。


ここまでお読みいただきありがとうございます、感謝感激でございます。

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