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機操戦伎グレニアヴァール  作者: そのえもん


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叩き折れ、鼻っ柱⑪

隼人は再び、八幡颯天と溶けた。

日菜は再び、八幡颯天と踊った。

二人は再び、八幡颯天と命を共にすべく、戦乱へと、一直線に飛び込む。

刺す、抉る、薙ぎ払う。掴む、引き裂く、叩きつける、投げ飛ばす。

大混戦に二人が何を見るのか、ぜひご覧ください。

 その煮えたぎる脳内に冷水を注いだのは、頭上から降り掛かる無粋な電子音であった。


「なんの音だ?」

「海中に反応!すぐそばにいるぞ!バクダだ!」


 海面が割れた。波を蹴立てて海底から現れたそれは、全長こそ駆逐艦とほぼ同じくらいであるが、ずっと大きく見える。そもそも軍艦というものは速力や国際条約、戦術目的など様々な理由で、結果笹の葉のようにシャープな形になる。

 それに対してバクダ=グラン=スルヴァーンの体型は亀に例えられる。丸く平たい盆のような胴体から、無数の首が生えた化け物である。


「亀なんて可愛い顔してねえな、ありゃ」

「アタシも近くで見たことあんまりないんだけどさ。これじゃ頭の数もわかんない、バケモンだね」


 岩をノミとガッツだけで強引に削り出したような荒々しい肌に、辛うじて目や口と思しきものが開いた、何処か歪んだような不気味な頭がずらりとならび、胴体につながる長い首がゆらゆらと揺れている。丸いものやら尖ったものなどと共通点も見受けられない。怖いとか不気味とか、それ以前にアレが何なのかもわからない不気味な存在がそこにあった。

 飛竜も化け物であるが、バクダはそれに輪をかけた異形の化け物。形がうっすらそれっぽいだけで、断じて亀や、それにつながるものではない。一目でわかる。無理に亀だと断ずれば、浦島太郎にぶん殴られるだろう。平たく巨大な背中に火花が走ると、その背が大きく歪み、やがてぶぅんと耳障りな音と共に鏡のような光の膜が貼られた。


「……ん?」


 光の膜がちらつくと、その奥に何やら影が見えたのだが、目を凝らす余裕はない。既に頭上から降り注ぐ電子音が神経を掻き毟るからだ。今度はさっきよりずっと大きく、耳障りであった。


「げぇっ、歪曲形が振り切れてる……」


 言っている意味は判らなくとも、日菜のこの声色は知っている。部屋に蛾が入ってきた時や、二日連続で偉いさんの接待に駆り出されて嫌々地方の有力者にお酌するときの、心底うんざりしている時の声色を煮詰めたような、怒りと、焦りと、うんざりと、ろくでもないものに遭遇してしまったという後悔。


「ヤな事でもあったか」

「これからだよ。向こうにも造園だ」


 バクダの背中の光の膜を通って、無数の飛龍騎士が現れる。それは咆哮と金属のきらめきを纏った軍勢である。

 真っ赤に煮える戦意をむき出しにしている。

 真っ黒に染まる殺意をむき出しにしている。

 それが濁流のような勢いで押し寄せる。

 それが乱流のような勢いで押し寄せる。

 これで最終にすべく勢いで襲い掛かるのだ。


「増えるのかよ……っ」


 血を吐くような隼人の呟き。凍えるようなつま先をぐいと地面にねじ込んで、ここに踏みとどまるべく腹をくくる。


「他の小隊と唯鶴もこっちへ向かってると連絡があった……十分、十分耐えれば私達の勝ちだ」

「復帰二日目の人間に言うことかよ」

「……逃げたいか?」


 ここで全てを放り出して逃げれば、命は助かるだろう。

 しかしそれは背後の二機の機操戦伎を見捨てるということだ。

 しかしそれは背後の二隻の駆逐艦を見捨てるということだ。

 しかしそれは背後の僚機の蒼鉄ノ誉を見捨てるということだ。


「ここで逃げたら……」


 深く息を吐いた隼人は、銃剣を構えてさらに低く構えた。死地に入るとは、きっとこう言うことなのだろう。舞台では絶対に至れない本物の戦場に胸が熱いのか冷たいのか、自分でもわからない。


「俺には、日菜と口を聞く資格がなくなるんだろな」

「そうだな。一生口きいてやんね」

「それも静かでいいんだけど……物足りねえや」


 隼人は再び、八幡颯天と溶けた。

 日菜は再び、八幡颯天と踊った。

 二人は再び、八幡颯天と命を共にすべく、戦乱へと、一直線に飛び込む。

 刺す、抉る、薙ぎ払う。掴む、引き裂く、叩きつける、投げ飛ばす。跳び上がる、叩きつけ、踏みつけ、砕く。撃つ、撃つ、撃つ、刺す、蹴り飛ばす。

 隼人の闘いぶりは壮絶であり、血みどろであった。そのくせ動作の合間にいちいちハッタリマシマシのケレン味が光る。無駄に睨みつけ、無駄に足を踏み鳴らし、無駄に戦果を掲げて大仰に見得を切る。舞台稽古の名残は、呼吸のように自然に染みついている。それは確かに隙なのだが、これを消す方が頭を使う。頭を使う分酔いが覚める気がして、隼人は開き直った。

 体に染み付いた武と舞は、とっくの昔に隼人の中で溶け合って一つになっている。ならばそのままぶつけてやるのが手っ取り早い。そうでなければ、直上からの不意打ちを避けながら砲弾装填などできるものか。

 頭上から襲いかかる飛竜騎士へ向けて撃つ。どうやら頭より先に手がこの銃の扱いを覚えたらしい、もはや目をつぶったままでも操作ができるような気がしていた。この銃連射は効かないが、銃剣で突いたり銃床でぶん殴っても歪まず、どんなに粗くぶん回しても大きく精度が落ちる事もない。きっとこれはそれなりに良い銃なのだろう。こんな事になるなら、もう少し銃剣の扱いを学んでおくべきだったかもしれない。どこかで冷静にそんな事すら思った。

 脳裏にうっすらとそんなことがよぎったものだから気づくのが一瞬遅れた。

 少し離れたところにいる飛竜が、大きく胸を張って反り返っている。その口の端から、赤い炎がちらちらとはみ出しているのを。


「まさか……」

「火を吐くぞ!逃げろ!」


 日菜が叫んだとき、既に隼人は駆け出していた。一瞬たりと迷うことなく、そのまま海へ頭から突っ込んだ。然程深くはないが、少し屈めば頭まで水に潜る程度の深さはある。


ここまでお読みいただきありがとうございます、感謝感激でございます。

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