叩き折れ、鼻っ柱⑦
日菜の戦術は至極単純であったが、その分力強い。
何があっても止まらない。
何があっても歪まない。
何があっても怯まない。
少女の据わった肝が鋼の巨体に染み込んでゆく。一緒に隼人まで肝がしんしんと据わっていく。
叩き折れ、鼻っ柱⑦
是非ご覧ください。
八幡颯天にも燃料補給を済ませ、隼人は無理に心を落ち着かせた。心とかいう不安定なものがどこにあるのか知らないが、おそらくは脳か胸か、肚に違いない。それなら心は肉体の一部と言っていいだろう。であるなら腕が動くように、であるなら目が開くように、多少なりとも自分で調節できなければ筋が通らないではないか。隼人は自らに無理やり言い聞かせることで手の震えを握り潰した。
やがて、遠く背後から近づいてきたエンジン音が頭上を追い抜いていくのが見えた。見上げれば、それは編隊を組んだ戦闘機であった。
「唯鶴からの応援か……」
「そゆこと。あれで頭を抑え込んで引き摺り落とすわけさ。まあ、昨日と同じだから、隼人がやることはは昨日と同じだ。さて、そろそろ見えてくるんじゃないかな。動作連動戻すぞ」
「よしきた」
隼人は全身の力を抜くと同時、全身の鋼線が巻き上げられていく。甲板にしゃがみ込む八幡颯天の姿勢に自らを合わせ、隼人はこれを構えとした。
さあ、戦場が近い。
遠く海岸線を白く縁取る波の上に、黒い影が群れているのが見えた。あれは鈍く輝く鱗が光を反射して、空がちらついているのだ。
「見えたぞ!」
ゴーグルが映すのはその波打ち際、上空から包囲し攻撃を仕掛ける無数の飛竜騎士と、それに抵抗する二機の機操戦伎の姿である。
機操戦伎のうち片方はまだ武器を振り翳して抵抗しているようだが、もう片方は既にどこかに損害を受けたのか、かなり動きが鈍く、幾筋かの白煙を上げている。
不利なのは誰の目にも明らかだ、先行した戦闘機編隊がどうにか引き剥がそうと宵の口にコウモリのごとく旋回しながら機銃をばら撒いているが、さすがにそれだけでは埒があかないようであった。
「ありゃあ、片足をやられてるな。一人じゃ動けない」
日菜は随分と目が良い。日菜は随分と勘が良い。ちらりと見ただけで戦況を掴むと、恐らく既に頭の中でこちらの動きを組み立てているようだった。
「なるほど、奇襲でも食らって逃げられないのか……どうする?」
「どうするもこうするもあるか。アタシらが突っ込んで助ける」
日菜のアタマの中にあった戦術は、戦術とも呼べないくらいに至極単純であったが、その分力強い。 何があっても止まらない。
何があっても歪まない。
何があっても怯まない。
まるで日菜の心根が滲んでいるようではないか。毛ほども怯む様子を見せない物言いが、この隕石のような少女の据わった肝を、鋼の巨体に染み込ませてゆく。機体と一緒に隼人まで肝がしんしんと据わっていくのがわかる。
「八幡颯天が先行して突っ込む。無事な方と連携して蹴散らしてやる。
蒼鉄ノ誉は駆逐艦と一緒にギリギリまで海岸線に近づいて、二機を回収して即離脱。
離脱を確認したら、八幡颯天も離脱する。刃衛門さん、いいですか?」
「ようし、乗った」
伴走する駆逐艦の甲板で、蒼鉄の誉が頷くのが見えた。蒼鉄ノ誉の機動力では、切り込むのがどうあっても遅れる。ここは重装甲を活かして、駆逐艦を守りながら回収に当たってもらう方が丸い。
駆逐艦二隻分の対空砲による援護射撃があれば、八幡颯天は飛竜騎士の攻撃も凌げる筈だ。厳しいが、不可能ではないギリギリのところ。日菜の見積もりは、隼人の考えと大体同じであった。
「八幡颯天、仕掛けます」
日菜が無線の向こうの誰かにそう告げた。駆逐艦か、蒼鉄ノ誉か、あるいは唯鶴のブリッジか。そんなものはどこでも構わない。火蓋が切られれば隼人と日菜は文字通り、地獄の底まで一連托生なのだ、二人の肝さえ揃って据われば、あとのことは些事である。
「いくぞ隼人!」
「おうっ!」
答えると同時に八幡颯天は跳ねるように立ち上がる。鋼の巨体には狭い甲板がぐらりと揺れると、人間を弾き飛ばすくらいに跳ね上がる。隼人はその揺れを利用して、反動を踏み台として跳び出す。戦闘機と飛竜騎士が繰り広げる空中格闘戦に、空色の機操戦伎が金色の残光をなびかせるように乱入する様は鮮烈であった。
鋼の巨体が閃光を弾き返し、莫大な重量が吹き寄せる突風をぶち抜いて戦闘機を護る。お返しとばかりに抜いた巨大な刀で切りかかる光景は、まるで絵巻物の一幕であった。
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日菜と隼人、二人の戦いが始まりました。
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