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機操戦伎グレニアヴァール  作者: そのえもん


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叩き折れ、鼻っ柱⑦

隼人は弁当を腹に押し込む。

隼人は恐怖を腹に押し込む。

隼人は焦りを腹に押し込む。

目の前まで迫った戦場は、隼人をじわじわと追い込むのであった。

日菜も通ってきた道だ、負けてられるか。

隼人はもう一口腹に押し込んだ。


叩き折れ、鼻っ柱⑦是非ご覧ください。


「落ち着け、隼人。全力で走んなよ」


 全身の挙動に抵抗のかかる機操戦伎の操演、これに並行して声を張り上げるのはかなりしんどい。それでも隼人は反射的に怒鳴り返した。


「バカ言え、こんなの一秒でも早く駆けつけなきゃ意味ねえだろ!」

「一人で行く気か?刃衛門さんがそう言ってるぞ」

「っ……」


 八幡颯天はかなり身軽な機体であるが、蒼鉄ノ誉は逆にかなり鈍重な部類に入る。全力で突っ走れば、あっという間に離れ離れになるのは目に見えている。そうしてばらばらになった相手から各個撃破するのは、戦術の初歩である。事実、この短い時間だけでも、両者の間はかなり開いている。このまま突っ込むのは自殺行為である。


「だからって、のんびりしてられないだろ?」

「わかってる。急いでるのは私たちだけじゃない。そろそろ見えるはずだ、沖を見ろ」


 振り向くと、沖からこちらへ近づいてくる船影が見えた。あれは唯鶴戦隊の駆逐艦である。二隻並ぶようにこちらへ近づくと、高らかに汽笛を鳴らした。


「え?は?」


 首を傾げる隼人をよそに、蒼鉄ノ誉は助走をつけて飛び出すと、甲板にどしんと飛び乗った。

 鋼鉄の軋みは隼人の耳まで届く。いきなり飛び乗った荷重のに、海面は弾けるように荒れ、飛沫が飛び散る……が、船体は耐えた。


「後部甲板に乗れ、強化してある。これなら体力も温存できるし、速い。その上艦砲射撃の援護付きだ」

「そりゃいいや」


 そうして八幡颯天がもう一隻に飛び乗る。船の喫水線がぐっと上がり、鋼鉄が軋むのは背筋が冷える。その上波が甲板の上を流れていくが、水兵たちは顔色ひとつ変えずに持ち場を離れない。やがて揺れが静まったころ、駆逐艦は煙突から更なる黒煙をもうもうと吐きながら、海面を滑るように加速していく。


「案外丈夫なんだな、軍艦って」

「機操戦伎乗せられるのが唯鶴だけじゃマズいって、主砲減らして甲板を強化したんだとさ。

 ついでに対空砲を追加しときゃ、飛竜騎士対策にもなるだろって、宇津木大佐が主導して無理やり改装したらしい」

「へぇ、よく考えるもんだ。俺ぁ頭脳派の仁王像なんて初めて見たよ」


 隼人のぼやきに、日菜が頭上でバカ笑いをかました。

 駆逐艦というものは軍艦の中では小柄である。そのためかなり速力が出る部類だ。当然ながら海岸線やら足元に気を使いながら走るより、ずっと速い。

 八幡颯天は駆逐艦の後部甲板に立膝をついてしゃがみ込むと、甲板から生えた取手を握った。


「掴んだぞ」

「よし……関節固定。動作切ったぞ」


 日菜の声と同時、隼人の全身にかかっていた抵抗が消えた。一時的にトレースを解除したのだ。


「戦闘区域まで少し時間がある、弁当食っとけ。半分だけな」

「……おう」


 ゴーグルを外して汗を拭う。そこで、がこん、と硬い音が反響するのに気付いた。


「何の音だ?」

「燃料補給だよ。最低限のチェックだけ頼んだ。隼人も何か気付いたら言えよ」

「おう」


 ラックに固定した弁当に手を伸ばし、巻き寿司に齧り付く。中身は干瓢とキュウリ、更に贅沢にも卵焼きであった。本来なら飛び上がるほどのご馳走だったが、今一つ味がしない。この船は今刻々と戦場へ向かっている。その事実が重くのしかかる。こうしている間も「最後の食事になるかもしれないんだ」という出撃前の日菜の言葉が、今でも頭の中で反響しているのだ。


「……ツバが出ねえや」


 どうにも飲み込めず、水筒に手を伸ばした。水を一口すすって飲み下す。無理やり喉に落とし込んだのだが、どうにもそれ以上入ってこない。舌打ちである。


「食えたか?」

「……一割」


 日菜の声に素直にそう答えると、帰ってきたのは乾いた笑い声であった。思ったような嘲笑ではなく、存外和やかなものである。


「上出来だ。私が初めて出撃したときは、ずっとドロップ舐めてたよ。齧ることもできなかった」


 横柄で自信過剰な日菜でさえ、戦場は怖いのだろう。だからと言って、自分が怯えていい理由にはならない。隼人は無理にもう一口齧りつくと、意地で飲み込んだ。


ここまでお読みいただきありがとうございます、感謝感激でございます。

気に入っていただけたら、お気に入りやブックマークで応援してもらえると本当に励みになります。

あなたの一言が、次の物語を紡ぐ燃料になります。


ここで自分は死ぬかもしれない。そう思えば食欲の一つや二つは減衰するでしょう。戦場とは縁遠い我々には想像しかできませんが。

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