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機操戦伎グレニアヴァール  作者: そのえもん


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叩き折れ、鼻っ柱⑦

退屈な哨戒任務で終わるはずはなかった。

日菜が導き、隼人が駆ける。

日菜が嘯き、隼人が猛る。

二人の戦いが、再び幕を開けようとしていた。

叩き折れ、鼻っ柱⑦

是非ご覧ください。

「こちら第二哨戒小隊、南西ニニ五度、異常なし。次の地点へ向かいます」

「静かなもんだな」


 何度目かになる日菜の唯鶴への報告を聞いて、隼人はぼやいた。

 一旦蒼鉄ノ誉と合流すれば、そこから先はわざわざ走ることもない。傍目にはただ歩くだけに見えるが、その巨体を考えれば恐ろしく静粛な、地響きの一つも起こさない繊細な足運びは、彼らの高い技量によるものだ。


「その方がいいさ。毎日命懸けなんて、ニキビできちまうよ」

「日菜はそんな繊細だったか?」

「いきなり戦闘に飛び込んでケロッとしてる隼人がおかしいんだ。アタシはしばらく震えてたぞ。

 なんなんだお前のクソ度胸。あれか?しばらく暗黒金持ちの賭け試合とかに出てた?」

「出ててたまるか、死ねるわ」

 どちらかと言えば隼人こそ繊細な方だったのだが……そういえば、あっさりこの場に馴染んでいる気がした。

 おそらくここは、隼人にとってもう見知らぬ場所ではないのだ。巡業生活で故郷を持たぬ隼人にとって、日菜と一緒に機操戦伎に乗っていることが、本来あるべき姿、乱暴に言えば、大仰に言えば実家の一環ですらあるのだ。つまるところ多少の違いはあれど、これはまだいつも通りの許容範囲であるのかもしれない。


「旅先から帰ってきたら、家が模様替えしてた。その程度ならなんともねえよ。一番重要なヒトが変わってねえからな」

「は?」

「なんでもねえよ。

 ところで日菜よう、海軍はメシが美味いって噂は本当なんだな」

「あはは、そういやそうかも。一座でも芋ご飯とか大根めしだったからねぇ」


 自業自得とはいえ白湯のような雑炊や小便臭いすいとんで食い繋いで来た隼人にとっては大根めしも立派なものであったが、造船所の「腹が膨れりゃ良いだろう」と言いたげな献立から軍艦の飯への変遷は驚きであった。

 何しろ白米に焼き魚、たっぷり具の入った味噌汁までついてきているのだ。最初は自分の歓迎会でも開かれているのかと目を疑うほどであった。


「アタシが海兵に聞いた話じゃ、大型艦ほど美味いらしいよ。

 だから……今の日本海軍じゃ唯鶴が一番美味いかもね」

「え?差が出るのか?」

「らしいよ?古株の水兵が言うにゃ、長門は茶碗蒸しが名物らしい」

「茶碗蒸し!優雅なもん食ってやがんな軍人さんは」

「でもさぁ、メインのおかずだから丼いっぱいあるらしいんだ。

 どう?隼人茶碗蒸しで米食えるか?」

「うーむ。食えなくはないが、米が進むぜぇ!とはならんかなぁ」


 隼人が首を傾げて頭を掻くと、無論八幡颯天も追従する。巨大な鋼の武人が茶碗蒸しに悩まされているようで、少々間抜けな絵面であった。


「だよなぁ。あんまり味が濃いと茶碗蒸しとしてもなんか違うだろ?

 士官はもう一品あったりするんだろうけどな」

「え?士官は献立違うのか?……あ、それで食堂も別になってるのか?」

「隠れて食ってるわけじゎないと思うよ。というか、飯時も打ち合わせとか会議とかしながらってことらしい。

 食った気がしねえ、って葵斗少尉が新富一等兵曹にこぼしてた」

「うへぇ、大変なんだな士官は」

「指揮するのが仕事なんだろ。

 極端に言えば、隊長は機操戦伎の話がわかれば、そこまで強くなくてもいいのかもしれないな」

「でも相当な腕だろ、あの人」


 葵斗が軍人として有能かどうかは判らない。しかし役者としての腕は一流であると、隼人は確信している。

「昨日ぶっ飛ばされた隼人が一番わかってるだろ。

 葵斗少尉は強い。昨日のあれも本気ではないだろうしね」


 ここなら誰にも聞かれまいと、隼人は疑問を口にした。


「個人の強さってのは……意味があるのか?」

「あ?」


 なんだそりゃ、と眉根を寄せる日菜の顔が目に浮かぶ。機嫌が悪ければどかんと足くらい踏み鳴らしたかもしれない。


「刃物だろうが弾丸だろうが、結局当たりゃ相手は死ぬわけだろ?

 そりゃ強いのは当てるのが上手いのも含まれるだろうさ?だが、昨日みたいに空から集団戦法でこられたり、嵐をぶつけられたらどうすりゃいいのさ」


 隼人の疑問を、日菜はばっさりと切り落とした。


「そのための艦隊だろ。

 昨日も見たろ?戦闘機。唯鶴戦隊の戦力は機操戦伎だけじゃない。

 唯鶴の格納庫には戦闘機だっている、艦隊なんだから巡洋艦やら駆逐艦やらがついてる。機銃や戦車砲は弾かれても、艦砲射撃は文字通り弾が桁違いだ。それこそ今も沖を哨戒してるんじゃないかな。よく知らないけど、潜水艦もいるらしいし。

 飛竜騎士の集団戦法が厄介なのはみんな知ってる、だからこっちも集団で切り崩すのさ。

 戦闘機や対空砲で引っ掻き回してやればいい。唯鶴の巡洋艦やら駆逐艦は、対空砲をバカみたいに盛ってハリネズミみたいにしてるらしい」

「艦砲射撃が飛竜に当たるか?あれは船とか要塞とか撃つ用のもんだろ?」

「アタシもそう思う。ほぼ当たんないだろうね。風呂桶に浮かぶゴミを拾うようなもんだ。

 でも、避けてるんだから足並みは崩れる。戦闘機と砲撃で制空権をとって、飛竜の連携を乱して低空まで引き摺り下ろす。引き摺り下ろしたら地上付近で機操戦伎が叩き殺す、それが基本戦術なんだと」

「荒っぽいな」

「そんなもんだろ、戦なんて。舞台じゃないんだからさ。隼人が言うところのホンのぶつかり合いってやつは、半分くらい即興芝居なのかもね。命懸けのぶつかり合いに細かいルールなんかないだろ。負けたら死ぬんだ、誰も守らないよ」


 人の言ったことをよく覚えているものだ。横暴なクセにへんなところがマメな日菜に隼人はうっすら笑えた。

「まあ、それもそうか」


 次の地点へ向かおう。と言いかけた口を留めたのは、割り込んだ無線のノイズであった。

「こちら八幡颯天、どうしました?

 一番小隊がバクダと遭遇?了解、応援に向かいます!」

「どっちだ?!」

「このまま西へ、山口方面!」


 日菜の声を聞いて、隼人は既に駆け出していた。八幡颯天と蒼鉄ノ誉が海岸線を抉って駆け抜けるのは、蒸気機関車よりもずっと速かった。


ここまでお読みいただきありがとうございます、感謝感激でございます。

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あなたの一言が、次の物語を紡ぐ燃料になります。


隼人と日菜の新たな戦場はすぐそこです。

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