叩き折れ、鼻っ柱⑤
跳躍する八幡颯天、
この機体の素晴らしさが、それだけで隼人に沁み込んでいく。
「今度は返り討ちにしてやる」
順調に増長する隼人であった。
叩き折れ、鼻っ柱⑤
八幡颯天の跳躍力は凄まじい。巨大な唯鶴の船影が、遥か後方でぐんぐん小さくなっていく。
翼もないのにこれだけかっ飛ぶ様子は、天から糸で吊るしてあると言われた方が納得できるほどに違いない。
「おいおい!宮島まで飛んでくつもりか?」
「そうしてやりたいところだが、そろそろ着地しそうだ。舌噛むなよ日菜」
巨大な水柱をぶち上げて波打ち際に着地した八幡颯天は、その勢いを殺さぬまま転がるように走り出し、海岸線をがしんがしんと南下していく。無論、その一挙手一投足が隼人の動きである。全身の動きが鋼線で巻き上げられながら、猛スピードで走るのはそれだけで熟練の技であった。
「凄いよ隼人、このまま飛んでいけそうだ」
「だな」
日菜が呻くのが聞こえるし、実を言うと隼人も同じことを感じていた。なにしろここまで高く、遠く跳べるだなんて思っていなかったのだから。どう考えても舞台で必要とされる何十倍もの跳躍、かつて攻城兵器だった頃の勇姿を思わせる力の一片。
「エンジンの出力の力技かな?」
「それもデカいが、それだけじゃないと思う。機体のバランスが取れてるのが特に。
八幡颯天は元々バランスの良い機体だ。それをエンジン積み替えて大破から作り直してるってのにバランスが崩れてない……多分凄いことなんだと思う」
「ははん、こんなに跳べるなら、昨日八艘跳びする必要なかったかもな隼人、街から港までひとっ跳びだ」
「バカ、昨日は怪我人抱えてたんだぞ?流石に加減しなきゃだ。機体の外でこんな跳び方されたら、怪我してなくても死ねるぞ」
隼人が言い返すと、日菜が珍しく納得した気配があった。この跳ねっ返りの割には破格の素直さだ。
「あー、それもそうか。でもあの八艘跳び、踏み台にされた随伴艦大変らしいぞ」
「……やっちまったかな」
流石に父親の大怪我とあっては、隼人も冷静さを欠いていたのかもしれない。苦い顔の隼人と対象的に、日菜はあっけらかんとしていた。
「まあいいや、アタシも聞いた話だから。
んじゃ、この先に蒼鉄ノ誉がいるから、合流しよう。あんまりドタバタするなよ、こんなの競争じゃないんだ、速くても何の意味もない。
ここで突っ走って、いざ飛竜騎士と遭遇したらクタクタですとかナシだからな」
「判ってるよ。今度は返り討ちにしてやる」
「おうおう、隼人は順調につけ上がってやがる」
「早く倒す分にはいいだろ?……地元の人も喜ぶ」
隼人の視界の隅には、多くの人をぎゅうぎゅうに詰め込んだ汽車が遠ざかっていくのが見えた。
飛竜騎士の襲来を受け、広島とその周辺市街からは市民の避難が始まっているのだ。軍人や軍需産業関係者を除いて、広島からはみるみるひとけが失われていく。必要なこととわかっていても、少し物悲しい。
「そりゃいいや、ぶちのめしてやろうぜ」
頭上で日菜が笑うのが聞こえたころ、少し先に先行していた蒼鉄ノ誉のずんぐりした姿が見えた。
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