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機操戦伎グレニアヴァール  作者: そのえもん


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叩き折れ、鼻っ柱④

全長二〇メートルの鋼の巨人が、戦闘母艦の甲板でクラウチングスタートの姿勢を取る。

人間よりも前傾姿勢であるが、秘める熱量と迫力は、見る者を圧倒する。

その中枢に隼人がいる。

その中枢に日菜がいる。

その中枢で二人は戦うのだ。

叩き折れ、鼻っ柱④

是非ご覧ください。

「厳重だな」


 甲板作業員の発進前の最終確認を見回し、隼人は呟く。乗ってる人間も整備している人間もかつての舞台裏と同じだというのに、何倍も厳重だ。


「そりゃそうだよ。今は舞台の頃より出力あるし、武器も本物だし、この周りにはまだ人も住んでるんだ。舞台のミスも死人は出るけどそれでも数人だ、今のミスは何十人死ぬか判んないだろ」


 死人を数字の大小で比較する辺り、日菜の感性も随分と麻痺している。その数字におそらく自分も含まれているのだから、いよいよ狂っているのだろう。いずれ自分もこうなるのだと、隼人は鼻から息を抜いた。


「それもそうか……なんだ、まだ確認してるのか」

「今度は武装だね。確認してる人の襷を見なよ、赤い炎紋だろ?」

「どういうことだ?もしかして仕事別に色分けしてるのか?」

「そうだよ。さっきの確認は緑の松葉だから機体整備班だね。赤は武器、黄色の星紋は誘導、紫の藤紋は燃料担当だね。

 これなら誰が何の仕事か一発だろ?」


 ぐるりと甲板を見渡すと、確かに一人の例外もなくその割り当てで動いているのが見えた。隼人は素直に感心し、感嘆の声をあげた。


「おお……こりゃ頭良いな。わかりやすいし、間違いも起きないわけだ」

「アメリカ式なんだってさ。タカハシ中尉が持ち込んで、宇津木大佐が即取り入れたらしい。誰かがいないから仕事ができないじゃなくて、それぞれがいれば現場が回るようにって事らしい。だから整備班も個体で休憩が取れるんだとさ」

「へぇ……交代で休憩か、待遇良いな」


 常在戦場。それこそ体調不良でもない限り飯を食ってようが便所にいようが夢の中にいようが引っ張り出される舞台裏とは随分違うようだ。まあ、戦場は舞台と違って幕間もなければ休演もないのだ、ところ変われば仕組みも変わるのだから、これが自然な事なのかもしれない。

 単純にし、合理化することで無駄に頭を使わなくて済む。この発想は技術ではなく頭の使い方の問題だ。八幡颯天の修理技術やらゴーグルやらも驚いたが、隼人はこれに一番感心したかもしれない。


「アメリカ……賢いなぁ」


 もしもバクダが現れず、アメリカとの戦争が続いていたら……日本は負けていたかもしれない。流石に軍艦の上でそれを口にするのは憚られて、隼人はひっそり腹の中で思うだけに留めた。

 そうしている間に最終確認も終わったらしく、星紋襷の手旗での誘導を受け、八幡颯天は飛行甲板の中央へと歩みを進める。


「踏むなよ隼人」

「判っとるわい」

「鐘が三回鳴って、あの黄襷が『いけっ』って指したら出撃だ。思っ切り突っ走って真っ直ぐ跳べ、市街地には降りるなよ、海岸に着地して、そのまま海岸線に沿って進め」

「真っ直ぐでいいのか?」

「うん、私らは廿日市を抜けて宮島方面だからそのままでいい。微調整は私がするし、蒼鉄ノ誉が先行してるから、見つけたら後に続いて」

「了解」


 隼人と一緒に八幡颯天が歯切れよく頷いた。この甲鉄の武神と一体化していると、自分が強くなったような気がして、気が大きくなる。

 いや……実際自分はそこそこ強いのではないだろうか?榊浦剣楼、砲園の最強であるはずの二人、これを下した金色の飛竜騎士を曲がりなりにも撃退したのだ。隊長にこそ後れを取ったが……あれは生身の話、機操戦伎ではまた話が変わってくるはずだ。


「……ふふん」


 いい気になって口元を歪める。機操戦伎は表情まではトレースできない、おそらく日菜すらそれには気付けなかったろう。誘導に従った先には、陸上競技と同じ――だが、バカでかいスタートブロックが据え付けられている。

 武器を背負った全長二〇メートルの鋼の巨人が、戦闘母艦の甲板でクラウチングスタートの姿勢を取るのはどこか現実味がない。人間のそれよりもやや前傾姿勢だが、そこに秘める熱量と迫力は、見る者を圧倒する。


「準備できたぞ」

「よし――こちら八幡颯天、準備完了。概ね問題なし」


 聞こえる声は頭上、指示席の日菜。どうやら無線で外部とやり取りをしているらしい。大方艦橋だろうが。


「問題ですか?ええ、昨日の今日で人形遣いがまだ素人なんですよ。ええ、まだ毛も生えてません」


 日菜の軽口に、無線の向こうから笑い声の気配が漏れた。


「ま、その辺は私が指導しますので。ええ、よろしくお願いします。

 準備……完了です」


 日菜は基本的に傲慢で乱暴な性根であるが、それは身内に向ける砕けた姿勢にすぎない。若手ではあるが役者なだけあって、対外的に猫を被るのはお手のものだ。それでも嘘をつくようなことはない。誇張はするが、根も葉もある。常に巻き込む側の隕石のような少女に支えられる側になる日が来るなんて、昨日まで夢にも思わなかった。


「……見とけよ、この野郎」

「ん?隼人なんか言った?」

「なにも」


 鐘が三度鳴って、黄襷が甲板の遥か先を指した。


「第ニ哨戒部隊、八幡颯天出撃します。隼人、突っ走れ!」

「ッシャアッ!」


 八幡颯天が駆け出す。新型エンジンの高出力とアメリカの最新技術で強化された駆動周りに、隼人の操演が一気に嚙み合い、巨体の隅々から火花を散らせた。その重量をまるで感じさせないスタートは影のように軽く、獣のように力強い。その名に恥じぬ颯となって、八幡颯天は広島の空へと跳び立った。


ここまでお読みいただきありがとうございます、感謝感激でございます。

気に入っていただけたら、お気に入りやブックマークで応援してもらえると本当に励みになります。

あなたの一言が、次の物語を紡ぐ燃料になります。


隼人と日菜のコンビが動きます。感想、コメントお待ちしております。


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