復帰⑪
二天一流は柔軟だ。幅広い対応力と攻め手の多彩さは剣術の中でも類を見ない。
掠めれば致命をとりに行く。
触れれば鱗を打ち砕く。
そういう葵斗の物騒な戦闘哲学と合わさるのは厄介このうえない。
「顔の割に、やる事に華がない」
ぼそりと吐き捨てた隼人の言葉に、葵斗は痛いところを突かれたと笑い飛ばす。
「見破ったか。そうなンだよ。最近は飛竜騎士との殺し合いが多いンでね。悪いクセがついちまった。
空振り以外はみな当たり。掠ったところから殺せるように、受けも流しもさせたかねえ、ってな具合だ。
当てて抉って、こかして踏みつける。これが一番手っ取り早くて確実だ。だから俺は今日も生きてる。
地味で花がないのは困りもンだが……花はまた咲くさ、生きて舞台に戻りゃあよ」
二天一流は柔軟だ。幅広い対応力と攻め手の多彩さは剣術の中でも類を見ない。
掠めれば致命をとりに行く。
触れれば鱗を打ち砕く。
そういう葵斗の物騒な戦闘哲学と合わさるのは厄介このうえない。
隼人の打ち込みは速く、鋭い。舞台であればもちろん葵斗の呼吸に合わせて殺陣を回すのだが、今は敢えてその逆をいく。
「はン、なかなか性根が悪いな。
舞台稽古だったらぶん殴られる呼吸を狙って仕掛けてきやがる。初対面の人間相手に、よくできるもんだよ」
字面は賞賛であるが、絵面は散々である。なにしろ、未だに隼人の一撃は葵斗の鼻を明かすには至らないのだから。
「気づいたか?お前の攻撃じゃ取れねえのさ、俺も、金色も」
自覚があるから一層腹が立つ。怒りは焦りを呼び、焦りは油断を呼び、油断は隙間を呼ぶ。
紙を一枚挟めるかといった僅かな隙も、攻撃の全てから致命を狙う葵斗にとっては十分なのだ。毛ほどの傷も、小刀がその隙を抉って広げれば致命傷に至る。
「このっ……!」
ムキになった瞬間、葵斗の小刀が隼人の木刀を絡めとる。取られまいと気を取られた瞬間、既に葵斗の姿はそこにない。横合いから荒々しく引っ掛けた小刀は、ひとっ飛びに隼人の死角に回り込んでいた葵斗である。それを裁こうと思ったときに、同時に足払いが仕掛けられている。見えない角度からの足元への攻撃など、実質不可視の一撃ではないか。隼人は軽々と転ばされた。
「クッ……!」
それでも隼人は横に転がって距離を取ろうとしたが、木刀を踏みつけられてしまった。
「……まだやるか?」
隼人は答えずに畳を蹴った。葵斗の懐に飛び込んで肩を叩き込み、流れるように身を翻しては脇の下を肘で狙う。当たれば悶絶、外れば木刀を拾えると思ったが、葵斗は既に木刀を他所へ蹴り飛ばしていた。その上で身を捩って肘を受け流し、間合いをとって……構えを解いた。
完敗である。最早切り込む隙もなくなった。不意を突いた悪あがきすら読まれていた。
「……参りました」
頭を下げる。畳を眺める視界にばちぱちと拍手で割り込んだには、他ならぬ葵斗であった。
「やるね銃也。
金色の飛竜騎士を撃退したってのも本当なンだな。いいだろう、八幡颯天の人形遣いはお前に任せる。
いいよな、新富一等兵曹?」
「了解しました。私から報告をあげておきます」
「なンなら隊長も変わってもらっていいんだけどさ?」
「葵斗少尉、それ以上は冗談では済まされませんよ」
「怖い顔すンなって」
眉間に皺を寄せる新富一等兵曹に、葵斗は大袈裟に肩をすくめた。幾度も繰り返されているのだろう、顔色一つ変える者はいない。
「腕は問題ない。一等兵からでいいかな?」
「構いませんが、特例措置なので書類が増えますよ」
新冨一等兵曹がそう言い切るより早く、葵斗は腕でバツを作っている。率直で、素直で、浮薄な、総巣であったが、どうにもそれが愉快に見える、不思議な男、それが葵斗少尉という男らしい。
「やっぱナシ。榊浦銃也は二等兵だ」
なんと適当なものだ。晩のおかずじゃあるまいし、というのが滲んでいたのか、隼人の顔を見て葵斗は笑ってみせた。
「そんな顔すンなよ。昇進なんて手柄をたてりゃすぐだからよ。まずは生きて帰ってこい」
なんとも大雑把であるが、隼人が機操戦伎部隊へと正式に配属されたのはこの瞬間と言っていい。仮にも軍隊とは思えない大雑把さであるが、どうやらここはそういうものなのだろう。極めて特殊な技能集団であり、極めて粗雑な戦闘集団。隊長は席を譲りたくて仕方がないくせに、書類仕事がイヤで適当に流すどうしようもない有様。
それが罷り通るのは、彼らが戦況を大きく左右するからだ。なんとも、とんでもないところに飛び込んでしまった。だが、もう逃げない。他に生きる場所がないと知っているから。
隼人は頭を下げ……ようとして新冨一等兵曹に言われたことを思い出し、敬礼し、短く、力強く言い切った。
「了解。よろしくお願いします」
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