復帰④
凱旋した隼人であるが、
それを迎えたのは歓声や感謝ではなかった。
それは仕方のないことだ、
しかし、爆弾娘がそれを是とするはずがない。
これではどちらが新入りなのかわからないではないか。
隼人はそっと笑いかけてやった。
駆けつけた軍医に砲園を預ければ、もはや隼人にできることはない。担架で運ばれていく様子を眺めていると、頭上から日菜の声。
「大丈夫だよ。ここは下手な病院より設備いいから」
「そうか……そうだな」
だからって平気でいられるか、と言い返す程隼人は愚かではない。彼女は自分の父の死に目に会う事すらできなかったではないか。日菜は鎮守府からの通知でそれを知ったわけだが……隼人が知る限り、恐らく骨すら帰ってきていない筈である。
ならばと砲園のことは、もう天を運に任せるしかない。考えても仕方がないことだと、それを頭から締め出す。それが、今目の前にいる日菜への最大の気遣いでもある。
とりあえず降りよう、ここには機操戦伎と一緒に従軍した裏方がいるはずだ。
十文字槍を手放した八幡颯天は甲板に片膝をつき、降着姿勢をとった。
「ちょ……おい!アンタら何のつもりだ?八幡颯天が見えないのか?」
どうにも頭上が騒がしいのは、やはり日菜である。本当にこいつは、どこへ行ってもやかましいものだと感心してしまう。
「お前はいっつも楽しそうだな、日菜」
「隼人!降りるな!」
「何言ってんのさ、やっと着いたのに。
いやあ、しかしすげえな。こんなでっかい船、俺初めてだよ」
ぼやきながら八幡颯天の昇降ハッチに手をかけたところで、ほんのり漂う違和感。どうにも空気が重い……しかし、もしかしたら軍艦はいつもそんなもんなのだろうか?首を傾げながらハッチを開いた隼人を出迎えたのは、無数の銃口であった。
「……え?」
「動くな」
黒詰襟に鉄帽姿の兵士がおよそ十名。小銃を構えてビタリと隼人を狙っているではないか。なるほど、日菜が今も騒いでいるのはコレか。
「ふっざけんなよ!お前ら艦内警衛分隊だな?
何のつもりだ!隼人がいなけりゃ、私らは今日死んでたかもしれないんだぞ!銃を下げろ!今すぐ!聞こえねえのか!」
おそらくこめかみがはちきれんばかりの日菜。腹式呼吸で吼えるように怒鳴り散らすが、彼らは眉一つ動かさない。
「鉾蘭一等兵。それは出来ない」
答えたのは詰襟のうち一人、士官らしき髭の男であった。どうやら分隊の長らしい。
「なんだとこの野郎……いや、何故ですか。返答によっては、八幡颯天が許しませんよ」
声色でわかる。日菜の怒りは明確に次の段階へ進んでいる。さっきまでのような派手な炎はなくとも、導火線が燻っている。
「今の八幡颯天は帝国海軍の決戦兵器である。
正規操演者以外の者が乗り込んでいた以上、確認せねばなるまい。
現場判断で拘束する、話を聞かせてもらう」
「お前らに……」
地の底から響くような日菜の声。それに答えるように八幡颯天は甲板の槍に手を伸ばす。それに気付いた警衛分隊に緊張が走り、銃口は益々隼人へ突きつけられる。
「隼人の何が判るんだーー」
「日菜ッ!」
爆発寸前の日菜に水をぶっかけたのは隼人の一括であった。爆発こそ堪えた日菜であるが、限界を行き来する怒りの震えは未だ収まっていない。
「なんだよ隼人、このままここで殺されてえのかよ。せっかく来たのに」
「ここで暴れたら、俺はお尋ね者だ」
露骨に舌打ちする日菜に対し、隼人は無理に笑ってみせた。心底跳ねっ返りの日菜は、上から何か言っても止まらない。笑いかけて、大丈夫だと見せてやる必要がある。
「心配するな、今度は何処にも行かない」
分隊長へ振り向くと、両手をあげてみせた。
「さて……ええと、警衛分隊ってのは憲兵みたいなもんだよな?抵抗するつもりはない、連れて行ってくれ」
張り詰めた空気の中、警衛分隊が隼人の両手を縄で拘束する。今にも背後で暴れ出しそうな日菜に気圧されてか、警衛分隊は皆冷や汗を浮かべていた。
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ということです。拘束された隼人はどうなることやら……
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