復帰③
軽やかに舞い、駆け抜ける。
八幡颯天の向かう先には、巨大な軍艦があった。
広島市街を駆け抜ける八幡颯天。駆け抜けながら周囲を見渡すと、いくつか小火が上がっているようだ。
「……少し、被害出ちまったか」
「いや、今回は軽い方だよ。福岡は激戦をだったから……こんなもんじゃなかった」
歯噛みする隼人に対して、日菜の声は落ち着き払っている。どれだけの光景を見てきたのかと、想像するだけで背筋が凍る思いであった。
混乱冷めやらぬ街道を、八幡颯天の巨体がその名の通り颯の如き猛スピードで駆け抜ける。極端な前傾姿勢と、大きなストライドが生み出すスピードは人間の常識を破るスピードでありながら、その姿勢は極端に上下のブレが少ない、しなやかで重さを感じない。
「父さん!聞こえるか?!」
辛うじて意識はあるようだが、砲園に返事をする余力はないようだ。巨大な八幡颯が雷鳴のような足音を轟かせて疾走するこの状況、砲園の心臓がこの瞬間もまともに動いているか確かめている暇はない。一刻を争う事態は、飛竜騎士と対峙するよりも精神を蝕む。
残された唯一の肉親を目の前で失うのは、流石に想像したくない隼人である。
「砲園さん、頑張って!もうすぐだから!」
日菜が叫ぶ。だが、決して取り乱してはいない。取り乱すことが、今一番の命取りに繋がるとわかっているのだ。だからこそ、隼人のナビも抜かりはない。
「日菜!基地ってのは呉の鎮守府か?」
「違う、軍艦にも医者がいる!このまま真っ直ぐ進め!
ほら、見えてきた!」
市街地を駆け抜けると目のまえには広島港が広がっている。スコープ越しに見る港には、多くの軍艦が浮かんでいた。
「どれだ?」
「一番大きい、平たい船!」
港には大小さまざまの軍艦が並んでいる。その中でも最も大きいのは……あった艦橋を除けばテーブルのように平たい大型勘である。あれは空母というやつではないか。
「こんなでかい軍艦、日本にまだ残ってたのか?」
アメリカとバクダの連戦で、日本の航空戦隊は壊滅的な打撃を受けた。その結果、大型の主力空母は軒並み轟沈しているはずである。
これは空母ではない。ベースは極秘裏に建造された翔鶴型空母三番艦、それに大幅な改装を施した、機操戦伎母艦、言わば『戦母』である。
「戦母・唯かく(ゆいかく)。あれが今の私達の母艦だ」
基調は灰色、赤や黒のラインが入った船体が、陽の光に白く光って見える。
全長は目測250メートルを悠に超える大型艦である。これほどの船を造る力が日本にあったのかと、隼人は驚くばかりであった。
「どっから乗るんだ?階段でもあんのか?」
「いや、甲板からクレーン下ろしてる、あれにぶら下がって吊り上げてもらうんだ。
怪我人の報告はしてある、譲ってもらおう」
「待ってられるか!艦隊の船、借りるぞ!」
「は?」
こちらは一刻を争うのだ。八幡颯天は更に加速すると、その勢いのまま空へ跳んだ。
「こちら八幡颯天!榊浦砲園が重傷、緊急事態なので唯鶴に強行着艦します。近い船はご協力よろしく!」
既に日菜は隼人の意図を汲み取っている。無線に向かって声を張り上げていた。
空中に躍り上がった八幡颯天は手近な軍艦の甲板に飛び降りた。数十トンの重量物がいきなり飛び移れば、本来軍艦とてただでは済まない。真っ二つにへし折れるか、バランスを崩して転覆したっておかしくない。
が、その着地は不気味なくらい静かであった。人体に比肩するか、あるいはそれよりも複雑な関節を極限まで使った柔らかな着地は、泡や綿毛が着艦するように柔らかな着地を実現しているのだ。その重さが軍艦のバランスを崩すより早く、八幡颯天は甲板を駆け抜け、艦橋を跳び越えて再び宙を舞う。その踏み切りもまた静かであり、その動きは文字通り一陣の風であった。風切音すらたてぬまま繰り出す軽やかな動きは、みるものにフクロウの狩りに似た印象を刻み付ける。
こうして数隻の軍艦を次から次へと飛び移った八幡颯天は、やがて唯鶴の甲板へ、これまたふわりと着地するのだった。
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