九 復帰
辛うじて飛竜を撃退した隼人は父に駆け寄る。
酷い火傷を押して、父は笑った。
是非ご覧ください。
追撃は出来ない。物理的にも届かぬし、古来手負いの獣というものは極めて恐ろしい。
隼人はいつまでも槍を構えて、飛竜騎士が雲の向こうに姿を消すのを見上げることしか出来なかった。
すっかり飛竜騎士の姿が消えて暫く。ようやく頭上で日菜がつぶやいた。
「遅えんだよ、馬鹿野郎。何ヶ月待たせるつもりだ」
「悪ぃ……役に立てると、思ってなかったんだ」
「馬鹿野郎が。本当に隼人は大馬鹿野郎だ」
「ああ……最近やっと自覚したとこだ」
「隼人ぉーっ!こっちだ!」
響いたのは勝三の声であった。振り向いた先は校庭の片隅にある小さな井戸小屋であった。勝三と沼田、そして砲園の姿がある。勝三と沼田は二人して井戸のポンプから水を汲み、砲園にざばざばと浴びせていた。酷い火傷を負った彼への応急処置としてはこの上ない。
引き上げる蒼鉄ノ誉と鎖分銅の機械人形を尻目に、八幡颯天が駆け寄り跪く。ゴーグルや胴輪なんかの操縦装置を脱ぎ捨てると、隼人は飛び出した。
「父さん!生きてるか?!」
「おう隼人、なかなかいい湯加減だぜ」
滝行か、あるいは花まつりの仏像の如く井戸水を浴びる砲園は、口調だけは元気である。
「なにを呑気な……」
「はは、萎れたって治るわけじゃないからな。見てたぜ隼人、乗るのは何年振りだ?」
肩から足にかけて走る巨大な火傷は大きく、深い、何よりまだ鮮やかなくらい赤い。しかし、幸いにも意識ははっきりしている。
「……二年と、少し」
「ほう。サボってた割には、そこそこ動けてたじゃないか。
ぶっつけで飛竜騎士相手に後の先を取ろうだなんて、バカなんだか大胆なんだか」
口だけはヘラヘラと笑っているが、その苦痛は酷いものであるはずだ。
「なんでこんなとこにいんだよ、一座から抜けたのか?」
「いる意味、なくしちまったからな」
「そりゃそうか……そうだよな、屈辱だもんな」
この親子の身の回りは生まれたときから……否、隼人に至っては生まれる前から機操戦伎の世界に浸っていた。その世界での評価が、人間の全ての基準であった。隼人はそれを、自分にはどうしようもないことで奪われたのだ。それを呼ぶなら屈辱が一番近い。今の隼人なら、受け止められた。
「悔しかったか?乗れないのは」
「……当たり前だろ」
砲園はかかかと笑ってみせると、流れる水でばしゃばしゃと頭を濯いだ。この火傷でどうしてそんな余裕があるのか、隼人には理解ができなかった。
「だが、俺たちの知らない世界を、お前は知ったと見える。ちょいと遠回りだったが、無駄にはならなかったかもな」
「……はい」
隼人が頷くと、砲園は自分に水をかける勝三と沼田に向き直った。その場で姿勢を正すと、深く頭を下げた。
「お二方……どうやら、ウチの倅が随分世話になったようで。
この通り、親子揃って世間知らずでして……ご迷惑をおかけしております」
何が何だかわからない。沼田と勝三は肩をすくめるも、井戸のポンプから手を離すことはなかった。
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隼人と日菜の戦いはこれからです。まだまだ続きますので是非お付き合いください。
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