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機操戦伎グレニアヴァール  作者: そのえもん


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上陸⑩

八幡颯天が金色の飛竜騎士と対峙する。

明かな強者である。

明かな窮地である。

明かな死線である。

それでも戦ったのは、勝機が見えたからだ。

是非ご覧ください。

 意識が飛びかけたのはほんの一瞬。隼人は踏ん張らず、素直に校庭をすっ転んぶと、余計に一回転した勢いで立ち上がった。


「日菜ッ!生きてるか?」

「うう……なんとか……なんだ?いまのは?」

「油断した。二段構えで突っ込んで来やがった」


 槍で打ち払った飛竜騎士のすぐ後ろ、その影に隠れるようにもう一匹の飛竜騎士が突っ込んで来ていたのだ。体勢を立て直すと同時、息を入れる暇もなくその飛竜騎士が間合いを詰めて飛びかかってくる。

 そこは既に槍の間合いの内側。爪や牙を払うのは槍の柄であった。


「この野郎ッ!ケンカ慣れしてやがる!」


 ぐいぐい押してくる巨体との間に脚を捩じ込むと、隼人は足裏を叩きつけるようにしてようやく距離を取った。


「日菜、こいつ……さっきまで上にいた親玉だよな?」

「うん。痺れ切らしたんじゃね?

 コイツ強いんだよなぁ、油断すんなよ……」


 いつのまにか金色の飛竜騎士と切り結んでいた。数度切り結ぶわずかな時間に、隼人の神経は今までの何倍も削れるのが判った。


「こりゃ、手練れだな」


 一回り大きな飛竜の体躯が繰り出す攻撃はその分重く大きい。脅威でもあるが、デカい分隙が大きい。その瞬間こそがこちらの橋頭堡である。

 尻尾の薙ぎ払いやぶちかましをいなし、崩れた体勢を更に崩す、あるいは呼吸を戻す前に追撃を叩き込む。それが後の先の常套手段なのだが……攻撃の後隙に雷光が迸ったり、攻撃そのものに突風の塊が付加されて追撃が阻まれたりと、かなり綿密に手を打たれている。


「こいつ……相当やるな」

「そりゃそうだ。なんせコイツは榊浦剣楼を殺ったヤツだからな。大将首だ」


 ケロリと言う日菜に、隼人は耳を疑った。


「そんなサラッと言うことかよ」

「私だって砲園さんから聞いたんだ、本当かどうかは知らないよ。

 でも、どうよ?この腕なら……あり得るんじゃないか?」

「……かもな」


 剣楼と砲園が乗った八幡颯天は、隼人が知る限り最高の組み合わせの筈だ。それが本当なら、目の前の相手は隼人が逆立ちしても敵わない相手だ。


「冗談きつい。勝てる相手じゃねえよ」


 そうしてる間も飛竜騎士の攻撃と十文字槍は幾度も火花を散らす。その間隙を突く騎士の剣は、恐るべき早さでこちらを掻き毟り、ぐいぐいと追い込んでくる。


「……ん?」


 戦いの最中、隼人の直感は何かを感じ取った。飛竜騎士の攻撃は激しく、機械人形を破壊しうる程に重い。油断を見せればこちらが叩き壊されるのは間違いない。

 だと言うのに。


「気付いたか、隼人」

「ああ……なんでコイツら、こんな焦ってるんだ?」


 今この場で追い込まれているのは八幡颯天である。だと言うのに、相手の動きは何かに追われているようだった。


「なんだ?イギリス人みたいにお茶の時間がないと死んじまうのか?」

「さあね」


 日菜が鼻で笑ったのが判った。

 飛竜騎士は確かに強い、このまま押されれば不利なのはこちらだ。しかし焦りは視界を狭め、判断力を低下させる。相手がどこの生まれであろうとも、頭が一つであるならその理屈からは逃れることはできまい。

 焦るということは自らに急かされるということだ。古今、急かされて良いものが出る道理はない。勝負を急ぎ、動きが単純になれば仕掛けてくるタイミングが透けてくる。どんなに早くとも、どんなに重くとも、そこがわかるならどうとでもなる。


「日菜、ホンは何が入ってる?」

「宮本武蔵伝・宝蔵院胤舜」

「そうかい……じゃあ、少し任せていいか?」

「うん」


 日菜が頷いたのと、金色の飛竜騎士が仕掛けたのは全くの同時であった。

 隼人は既に仕掛けていた、頭の上から撃ち下ろすように槍を構えて大きく踏み込み、相手の爪先を狙うように刺突を繰り出す。攻撃の出鼻、動作の起点である足元を突かれ、飛竜騎士の動きが僅かに狂う。

 八幡颯天の体がひとりでに動く。足元に放った刺突がギラリと腹を返し、飛竜の喉を狙って真下から突き上げる。

 金色の騎士は目が効くらしい。それを見破って手綱を引き、飛竜の喉を突き上げから守った。

 しかしこちらもそれは承知の上、踏み込んだ足を軸に、右半身が捩じ込むように再度踏み込んで、今度は石突きでカチ上げる。ひっくり返されまいと相手が踏ん張ったところに、今度は渾身の振り下ろしを叩き込み、鱗と甲冑をまとめて切り裂く。

 呑竜大返し。かつて日菜が、血の滲むような努力の末に会得した槍の大技である。かつては舞台の見せ場であったこの技は、ついにその名の通り竜の攻撃を打ち崩したのである。

 十文字槍が飛竜の肩口を深々と捉えた。苦悶の声を上げる飛竜は翼を広げ、放つ咆哮が大気を震わせる。その振動に飛竜の血飛沫はあたりに青い霧となって飛び散る。

 それでも怯まないから大したものだ。巨大な翼が羽ばたくと、それは突風となって襲いかかる。八幡颯天の巨体すら煽られて、その場にたたらを踏む。


「隼人ッ!」

「しゃらくせえ、今度は俺だ!」


 このまま距離を取らせてなるものか。操演の主導権を握った隼人は、八幡颯天を低く構えさせると、地を這うような低さで刺突を放つ。その刃は飛竜の腹を突き破り、臓物をばら撒く__はずであった。

 人間を相手にしてきた槍術は、空を飛び回る飛竜なぞ想定していない。その突き上げはすんでのところで避けられ、上空へと逃げられた。


「逃げるッ!」

「させるか、大将首!」


 八幡颯天がいかに身軽であろうと、それは跳躍である。翼を持つ飛竜騎士が撤退を開始すれば、それに食い下がる術はない。

 撤退である。散開していた飛竜騎士は編隊を組みなおすと広島市街地の上空から離れた。


「逃がしたか、惜しいな」

「日菜、それじゃ悪役だ」


 この日、隼人たちは確かに飛竜騎士の撃退に成功した。それは数少ない人類側の白星であった。


ここまでお読みいただきありがとうございます、感謝感激でございます。

気に入っていただけたら、お気に入りやブックマークで応援してもらえると本当に励みになります。

あなたの一言が、次の物語を紡ぐ燃料になります。


遂に隼人と日菜のコンビが戦場で手柄を立てました。しかし、それはあくまでごく一部のこと。

はたしてどうなることか……コメント感想お待ちしております。


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