上陸⑦
崩れ落ちる八幡颯天、
駆け寄る隼人、
叫ぶ日菜、
遅れること数ヶ月、隼人は遂に戦場に至った。
金色の飛竜騎士が腰の剣を抜いた。豪奢な鎧の割には随分細く見えたが、なにしろ魔法めいた術を使うのだ、刃の細さなどなんの意味もない。その細い刃が煌めきと共に塗り降ろされると、飛竜騎士は次々と急降下突撃を浴びせかける。流星のような急降下突撃の狙いはもちろん、身動きの取れぬ八幡颯天であった。
「逃げろっ!日菜!」
隼人が叫んだところで落雷のダメージが回復するわけでもない。八幡颯天とそれに肩を貸す蒼鉄ノ誉の背に飛竜騎士が襲いかかる。そこに割り込んだのは鎖分銅の機操戦伎であった。両手から繰り出される鎖がうなりをあげ、竜巻を起こすような高速回転をみせた。直撃すれば飛竜騎士の翼や骨を鎧ごと叩き潰す威力があるだろう。
リーチに優れた武器であったが、巨大な機操戦伎三機を守り切るには僅かに足りない。八幡颯天の背中を守れは脇腹が空き、そちらを守れは頭上が死角となる。狼の群れのように執拗で狡猾な飛竜騎士はすぐさまそれを見破った。嘲るように死角を突き、守りを崩していく。
眼下の戦場を眺め、金色の指揮官は悠然と獲物が献上されるのを待っていた。
鎖分銅の機体も高い練度を誇っていた。あんなアクの強い武器を両手で扱うだなんて、隼人には逆立ちしても無理だ。しかしその高い技量が判断を謝らせる。僅かに飛竜を掠めた一撃に、彼は光明を見た、見てしまった。もう一歩踏み込めば、飛竜を仕留められると確信させらてれしまったのだ。
「罠だっ!行くなッ!」
隼人の声は届かない。機械人形が見たのは光明ではなく、焦りだった。その一歩が均衡を崩した。八幡颯天たちが鎖分銅の間合からはみ出した瞬間、飛竜騎士の突撃は彼らの連携を奪った。
『うわっ!』
弾き飛ばされた八幡颯天は飛竜騎士の突撃をまともに受け、地面に崩れ落ちた。
『砲園さん!返事をしてください!砲園さん!』
機械人形のほとんどの動作は胸部に乗り込む人形使いの仕事である。だが、頭の指示役からも操演は可能である。事前に複数の基本動作が組んであるのだ。事前に登録された動作を組み合わせることで、機械人形はそれなりの挙動が出来る。
今の八幡颯天はそれを使って動いている。しかしそれは、さっきまでの人体すら超えかねない滑らかな動きはどこへ消えたのかと思わせる凡庸で単調な動きである。もっとも、八幡颯天ほどデリケートな機械人形を一人で動かせるだけで、並の腕ではないのだが。
舞台ならこれでハケることくらいは出来たろう。舞台の皆に引っ込めば、なんとかカバーもできた。しかし戦場は、そこにいる敵はそうもいかない。多数の生物相手の殺し合いにおいては、あまりに大きな隙となった。その隙を貪るように、濁流となった飛竜騎士が八幡颯天へと押し寄せる。
『この野郎ぉッ!ぶち殺してやる、かかってこい!』
八幡颯天が十文字槍を構えるが、やはり動作にキレがない。一人の限界だ。やっと繰り出した攻撃は掠めもしない。ここへ来て飛竜騎士の突撃はさらに加速していく。翼を畳んで繰り出す急降下は、重力加速度も含めてとんでもないスピードに達するのだ。その猛スピードから繰り出される打ち込みの威力は凄まじい。隼の狩りを見ているようだ。
『くそっ!くそっ!くそっ……!』
それでも日菜は悲鳴をあげなかった。飛竜騎士の突撃に突き崩されようとも踏ん張り、懸命に食い下がった。広島を、日本を、いや人類の生存を背負っているのだ。あの手のつけられないじゃじゃ馬の日菜が。それは兵器を操る武人としての誇りでもあり、兵士としての矜持でもあった。そうであったはずだ。何時ごろだったろうか?それが意地と痩せ我慢になったのは。
飛竜騎士の突撃に跳ね飛ばされ、大きく体勢を崩した八幡颯天、その背中がぐらりと、隼人達の避難する校舎へ向かって倒れてきたのだ。
「……倒れるっ!」
「逃げろっ!」
「押し潰されるぞ!」
機械人形の鋼の巨体は、コンクリート製の校舎へ叩きつけられるように激突した。
凄まじい衝撃に窓ガラスが粉々に砕け散る。床や壁が一瞬波打ち、校舎がくの字に大きく歪んだ。
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いよいよ隼人の戦いが始まります。
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