上陸⑥
日菜は増援の機操戦伎を受け、本格的な反撃を開始する。
しかし、降り立つ金色の力の前には、崩れ落ちないのが限界であった。
こちらの増援はまた八幡颯天と同じように天から舞い降りた。蒼鉄ノ誉と更に見たことのない機操戦伎が一機である。数で押し寄せる飛竜騎士に対して、機械人形はここから本格的な攻勢に出た。
蒼鉄ノ誉は重装甲とパワーを活かした、掠めるだけで翼を捩じ切るような重い一撃を繰り出す。名を知らぬ機械人形は、両腕に仕込んだ鎖分銅による長い間合いを駆使した搦手を駆使する。両者とも舞台の上なら名人芸と呼ぶべき高い技巧を駆使する、華やかな戦いであった。
八幡颯天の動きはその中でも軽く、高い。羽が生えたか、あるいは空中で見えない階段でも踏むかのような軽やかな動きと、腕が伸びるような広い攻撃範囲で、次々と飛竜騎士を叩き落としていく。それはもちろん他の機操戦伎や戦闘機、高射砲との連携による連携の賜物である。飛竜騎士を追い込み、挑発し、連携を乱して切り崩す、洗練された集団戦法だ。
巻き込まれれば命はない。危険だとわかっていても、隼人は八幡颯天の動きから目が離せなかった。
稽古と本番の舞台は違う。稽古を山のように積み重ね、その上で本番の舞台を踏むことで役者は育ち、次なる次元へと昇華する。何度も言われてきたことだし、隼人自身も似たようなことを感じていた。だが、目の前で戦う八幡颯天の動きの滑らかさ、これから透けて見える日菜の成長は、それどころではなかった。
日菜と一緒に八幡颯天に乗り込んでいる人形使いは隼人の父、砲園に違いない。もちろんその技量の高さもあるが、それだけでは説明がつかないのだ。槍を鋭く振り抜き、飛竜騎士を空から引き摺り落として味方に始末させる、あるいは切り落とす。あるいは打ち抜いて青い雨へと変える。
凄惨なその戦いは美しく、紛れもなく戦場を支配していた。日菜の、いや榊浦鉾蘭の目覚ましい成長がそれを可能にしていた。隼人にはそれがわかった、誰よりも日菜を見ていたからこそ断言できた。
戦場が日菜を変えた。鉾蘭を駆け出し役者から恐るべき戦士へと変えつつある。それは本来悲しむべきことかもしれない。なにしろ幼馴染の少女が言い訳できない殺戮者になったのだから。それがわかっているのに隼人は憧れた。
その姿こそ、機操戦伎が数百年前に失った兵器、あるいは武人としての姿なのだ。機操戦伎、そう呼ばれる芸能に関わる者、その全てが追い求めていた理想像にもっとも近い姿なのだ。その光景に胸の奥が焼けた。もっと見たい。焼け死ぬぐらい焦がしてしまいたい。胸の内で膨らむ狂気に、隼人はうっすらと笑っていた。
「ッ……!」
空気が変わり、背筋が粟立つ。おそらくは実際に気温が下がり、あたりには鉄を焦がしたような異臭が立ち込める。隼人がゾッとして肩をすくめると同時に、俄かにあたりが薄暗くなった。気が付けば周辺一帯上空には暗雲が立ち込めていた。
不意に叩きつけられた冷たい突風に、空中の八幡颯天はバランスを崩し、連携を乱した。その隙に飛竜騎士は蜘蛛の子を散らすように距離を取る。何をする気だと思う間もなく、続けざまに雨が降り出した。あっと思う間もなく殴りつける土砂降りと雷鳴に、戦闘機は堪らず離脱を余儀なくされた。
異常なのはその豪雨と落雷が余りに局所的で、雨雲があまりに低いことだ。飛竜騎士には小雨程度でしかないのに、機械人形にはその姿が霞む程の豪雨が叩きつけ、絶え間ない落雷まで襲い掛かるのだ。
意志あるようにまとわりつく嵐。おそらくこれも飛竜騎士の術なのだ。
「逃げろ日菜!」
堪らず隼人は叫んだ。その声が聞こえたのか、八幡颯天がこちらを向いた気がした――次の瞬間。視界は真っ白の光に塗り潰され、轟いた雷鳴に耳が痛んだ。巨大な落雷が八幡颯天に直撃した瞬間であった。
「え……」
雷撃に撃ち抜かれた八幡颯天は全身から煙を上げていた。
八幡颯天が倒れずに槍を高く掲げる姿を見て隼人は理解した。人形遣いである砲園が、落雷の直前に危険を感じ取り、その身を避雷針としたのだ。おそらく、落雷は日菜が乗っている頭部を避け、槍から腕、腕から体、脚、地面へと駆け抜けて行ったのだろう。砲園のいる胸部は、見事に直撃したはずである。
「砲園さんッ!」
拡声器が日菜の悲鳴を振りまく。それでも八幡颯天は倒れない。地面に突き立てた槍に体重を預け、辛うじて耐えている。
嵐が止んだ。蒼鉄ノ誉が駆け寄って肩を貸すと、今度は乾いた風が吹き荒れ、頭上の雲を吹き散らした。突如のぞいた空では、態勢を立て直した飛竜騎士が陣形を組んでこちらを見下ろしている。
「バケモノ共がッ!」
隼人の目は陣の中央、一騎の飛竜騎士に吸い込まれた。他の騎士と比べて明らかに一回り大きく、鎧や武器も一段階豪奢で金色に光っていた。あれはもう武具と言うより美術品、あるいは祭事や儀式に用いるような神秘性がある。だがそんなものはオマケである。あの飛竜騎士、その身に纏う威圧感が違う。
そこには自分がこの戦場の中心であると、支配者であると、即ち勝者であると信じて疑わぬ尊大さと傲慢さがあった。だからこそ、あれは文字通り嵐を呼び戦況をひっくり返したのだ。いくら連中が魔法のような真似ができたとしても、一発や二発の閃光とは意味が違う。その力はもう人智を超えている。
加えてあれが現れた瞬間から、飛竜騎士の動きが更に一段洗練された。髪の毛一本乱れぬ陣形は、恐ろしく高い練度と、絶対的な忠誠を感じさせた。そりゃあ、尊大にもなる。
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