上陸⑤
天空から降り立つ空色の鎧武者。
その名は八幡颯天。
巨大な槍を手に飛竜騎士に敢然と立ち向かう。
その声には聞き覚えがあった。
「うぉわっ!」
轟音と衝撃に数メートル吹っ飛ばされ、何が起きたのか理解するのに時間がかかった。
流星のように天から落ちてきたそれは、落下の勢いそのままに、飛竜騎士に飛び蹴りを浴びせーー豪快に蹴り飛ばしたのだ。
気づけば隼人は、巨大な背中を見上げていた。全長およそニ〇メートル、豪奢な鎧武者を模した巨大な人型。機操戦伎である。
校庭に刻みつけたクレーターから、それはゆっくりと立ち上がった。じゃらりとなるのは各部の隙間を幾重にも埋める鎖帷子と鋼線である。何度も見た背中だ。本来舞台用なだけあって、白と空色をベースに金色のラインが入った大鎧とド派手。旋風を模した兜はあまりに大仰で左右非対称なのだが、それが強烈なケレン味となっている。顔より大きな大袖は鱗のように鈍く輝き、風神の袋を思わせる母衣は鋼線を幾重にも編み込んだ錦。伝統工芸品をそのまま戦場に持ち込んだ、恐れ知らずの兵器であった。
紛れもない、八幡颯天であった。
機械人形の中でも一回り大きく、飛び抜けて派手でありながら、動きはしなやか。見上げても届かぬ高さから飛び蹴りをかましておきながら足腰がイカれてないのは、操演者の高い技量のなせる技だ。
「下がって!」
拡声器を通して広がるのは、割れた若い女の声であった。
「こちら帝国海軍、九二三空、唯鶴戦隊!
飛竜騎士を迎撃します!建物へ逃げろ!」
紛れもなく、日菜の声であった。
八幡颯天が槍を構える。朱塗りの柄の先端に青白く光る鋼の穂先、そこから横向きの鎌が生えた十文字槍だ。鋼の武者が歯を剥いて相手を睨みつけるのが、隼人には見えた。
自分の倍近い機械人形を相手にしているというのに、飛竜騎士は怯まない。飛竜は狂ったように激しく咆哮し、上に跨る騎士も鋭く槍を構えている。
八幡颯天は睨み合いに応じず、既に仕掛けていた。長大な槍を振りかざすと、恐るべき力で殴りつけたのだ。圧倒的な質量を持った暴力は、弾丸すら弾く飛竜騎士の輝く防御膜をぶち抜いた。
「ガァアアッ!」
鎧ごと叩き潰さんとする純粋な暴力。これには流石の飛竜も悶え苦しみ、後ろ飛びに距離を取る。
しかし八幡颯天はそれを読んでいた。巨体の重さを感じさせぬ軽やかさで踏み込み、離脱を許さない。続け様に繰り出した渾身の刺突こそ外れたが、攻撃はそこで終わらなかった。
刺突と同じ速さで引き戻された十文字槍は、先述の鎌が鎧の首関節に食い込んでいた。そのまま首を引っ掛け、力任せに地面へ引きずり倒す。暴れ回る飛竜を腕力で抑え込んだまま、頭を踏み潰さんとぐいっと脚を振り上げた。
しかし相手もさるもの。太くて長い尻尾に軸足を払われ、八幡颯天は大きく体勢を崩す。跨った騎士が何かを叫ぶと、槍の穂先が閃光を放ち、八幡颯天を火花が包む。
しかし八幡颯天も怯まない。体勢を立て直すことを諦め、倒れ込む勢いのままのしかかる。その手には、いつのまにか抜き放たれた短刀が握られていた。
短刀と言っても使い手がデカい。刃渡りだけで隼人の身長を超える巨大な刃に切り裂かれ、飛竜の首からは青い血が噴水のように吹き出す。振り落とされた騎士が武器を構えるより早く、八幡颯天の足は騎士を蹴り飛ばす。そのままわき目も降らずに悶え苦しむ飛竜の喉笛を掻き切って、止めを刺す。続け様に青竹を踏み潰すのに似た鈍い音は、飛竜の延髄を握り潰した音だ。
気づけば蹴り飛ばされた騎士は校舎に激突し、物言わぬ肉誡になっていた。
戦いは一分にも満たない短いものであったが、既に八幡颯天は全身真っ青、返り血塗れの凄惨なものに変貌している。足元には血溜まりが広がり、舞い散ったそれが街路樹や周囲の建物を青く染める。なにか成分が異なるのか血の匂いが殆どしない。そのせいか凄惨さよりも、どこか幻想的な光景に見えた。
八幡颯天は鋭く身を翻すと、天へ向けて槍を構える。そのとき既に上空からは、惨殺された仲間の姿に逆上した飛竜騎士、その追撃が降りかるのが見えた。
騎士の放つ雷光が、飛竜の吐く炎が襲いかかったとき、八幡颯天の姿はそこにない。空を駆け抜けるように高い跳躍で、急降下する飛竜騎士の上を取っていた。雷光を鎧で受け流し、炎を薙ぎ払って飛竜騎士を叩き落とす。押し寄せる飛竜騎士がその背後を突こうと回り込むが、肉薄する戦闘機と高射砲がその隙を埋めていた。
飛べぬ人型が中心でやっているとは思えない立体的な空間戦闘であった。
「す、すげえ……」
八幡颯天と日菜の戦いに目を奪われ呆然としていると、ぐいと襟首を掴まれ、そのまま校舎に引っ張り込まれた。勝三と沼田である。
「隼人!お前なんて命知らずな!」
「運が良かったな、あの機械人形が来なければ食われてたぞ」
「逃げよう、飛竜騎士はあいつにかかりっきりだ。
ここにいたら巻き込まれる」
二人の意見は至極もっともであった。こんなところにいたら命がいくつあっても足りない。
だが、隼人はもっと見ていたかった。ほんの数ヶ月で見違えるようになった日菜の動きを、この目に焼き付けたかった。
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