表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機操戦伎グレニアヴァール  作者: そのえもん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/60

おてんば姫⑤

「隼人、それでいいんだな」

その言葉は、隼人の心に深く刺さっていた。

せめてまともに戦えれば、また違う未来もあったろうに。


 跳躍は高く、長い。機械人形が人間の十倍を超える大きさだとしても、異常なまでの距離を一足飛びにすると、稲若丸の巨体は鎮守府の裏口へと降り立った。

 軍港での騒ぎと突然の機械人形の出現に、鎮守府は既に臨戦態勢。武装した兵隊があちこちに散見し、無数の高射砲がこちらを睨んでいる。

 稲若丸は空いた方の手を上げ、もう片方をそっと差し出した。ゆっくり開くと、そこには三つ指ついて深々と頭を下げた日菜の姿があった。


「鎮守府の皆様、お騒がせして大変申し訳ございません」


 稲若丸の掌の上で、日菜は口上を述べる。凛としたその声は、俄かに殺気だっていた鎮守府全ての人間の鼓膜を、どきんと一つはね上げた。


「私榊浦鉾蘭は、父、榊浦剣楼の遺志を継ぐため、ここに参りました。修行中の身ではございますが、父なき今、八幡颯天を最低限動かせるのはこの世で私一人。

 どうか戦場の役に立ちたいと、馳せ参じました。どうぞ、門をくぐるお許しをいただきとうございます」


 まるで公演後の口上であるが、舞台の世界しか知らない日菜にとっては、これが最大限の敬意であった。

 剣楼の名は流石に効果があった。銃を構える兵隊の間にも僅かな、だが明らかな動揺が走る。あちこちで「剣楼の娘だって?」「ブロマイドの娘だよ」「本物だ……」「意外と小柄だな」だのと困惑の声が這い回っている。

 全長二〇メートルの機械人形を引き連れて門を叩く。この光景はおそらく、室町時代以降数百年ぶりの事態である。近代日本にとっては、初めて経験する珍事であった。


「銃をおろせ」


 庁舎から姿を現したのは、森川少佐であった。


「よくお越しくださった、鉾蘭さん。

 軍港の騒ぎに口出しせずに、待っていてよかった。

 婦女子ということで一度は目を瞑る機会を与えましたが、それでもと仰るのであれば、もう撤回は聞き入れられませんよ、よろしいですかな?」

「承知の上です」


 力強く言い切る日菜に森川は頷いた。


「では、手続きを進めておきましょう。

 沢本司令にも軽く話してあります……ところで、お一人ですか?」

「いえ。私ともう一人、取材のとき後ろにいたのがおります。

 隼人、出てこい。お前も挨拶をしなくちゃ……おい、隼人」


 そこで日菜は首を傾げた。隼人のやつが一向に姿を現さない。


「お前なぁ、人見知りなのか知らないけどよくないぞ!べらべら喋んなくてもいいから、せめて頭を下げろ。一座の品が疑われる……あれ?寝てんのか?隼人?」


 日菜が中を覗き込むと、既に稲若丸の中に隼人の姿はなかった。

 日菜の涙は見たくない、それは事実だ。しかし隼人には、役立たずの自分が戦場に行くほどの覚悟は決めかねていたのだった。

 日菜の背を押す。それが今の隼人にできる精一杯であった。


「隼人……馬鹿野郎、お前どうするつもりなんだよ」


 東の空から差し込んだ朝日が、苦々しく吐き捨てる日菜の顔を白く照らす。

 涙こそなかったが、笑顔からは程遠い。歯軋りを隠しもしない顔であった。

ここまでお読みいただきありがとうございます、感謝感激でございます。

気に入っていただけたら、お気に入りやブックマークで応援してもらえると本当に励みになります。

あなたの一言が、次の物語を紡ぐ燃料になります。


今回の主人公の決断、皆さんならどうしたと思いますか?

ぜひ感想で教えてください。


よろしければ拡散、趣味の合うお友達におススメしていただけると幸いです。

Xで更新情報、他作品の更新なんかも呟いておりますので、よろしければフォローいただければと思います。

https://x.com/YYKDdLD5z64pjhq


※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・出来事とは一切関係ありません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ