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機操戦伎グレニアヴァール  作者: そのえもん


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おてんば姫③

闇に紛れる日菜、その行く先は果たして???

 アメリカと戦争をしていた頃、夜中はどこもかしこも灯火管制で真っ暗だった。しかし今の戦争相手であるバクダと飛竜騎士は違う。対面性能こそこちらの兵器を上回るが、海の向こうからこちらまで空襲して来るほどの戦略的な行動はとらない。

 そのため今は深夜であっても、軍港や鎮守府にはそこそこ電灯がある。点在する光と、そのせいでむしろ強調される闇の間に日菜は身を隠した。


「お嬢ォーッ!」

「鉾蘭ッ!どこ行った?!」

「裏口から鎮守府へ行くつもりだ、先回りしとけ!」


 一座の人間が懐中電灯を持ち出して日菜を探し回っているのが聞こえた。

 軍港は確かに広いが、目的地は割れている。有利なのは、追っ手。

 そのころ隼人は捜索には加わらず、一人稽古場にいた。

 ずきずきと痛むのは、日菜の回し蹴りを喰らった脇腹と、胸の奥である。


『裏切るのか』


 日菜の言葉が何度も頭蓋に反響する。隼人は絶対に自分の味方だ、日菜は頭のてっぺんから爪先までそう信じていた。だから、あんなにもペラペラ喋ったのだ。


「いいんだ。これでいいんだ。


 日菜はまだ見習いで、若い娘だぞ。そんな奴があんなバケモノと戦ってみろ、殺される。

 万が一攫われでもしてみろ、どんな目にあうかわかったもんじゃない。

 これが正しいんだ。日菜の為には、これが一番いいんだ」

 ブツブツと自分に言い聞かせる。


「……そんな目で見るな……」


 よほどの衝撃だったのだろう。回し蹴りを喰らう瞬間はスローモーションであった。

 だからこそ見えた、今でも鮮明に思い出せる。回し蹴りを放つその瞬間、日菜はとことん悲痛な顔を浮かべていた。

 胸の痛みに振り回されていると、遠くから誰かの声がする。


「いたぞ、こっちだ!西側の倉庫!」


 声の聞こえた方角は、明らかに鎮守府への最短ルートを大きく外れていた。


「なんでそんなとこに?」

「裏を突かれた!引っ掻き回して撒くつもりだったんだ!」


 日菜を追う皆の声が聞こえる。流石の日菜も捕まるのは時間の問題だろう。


「……あのバカ」


 隼人には手に取るように判る。日菜が妙なところにいたのは、追っ手を撒くためではない。単純に迷っただけだ。なんとなくの印象と、やり取りがハキハキしているものだから賢く見える日菜であるが、その実酷い方向音痴である。呉に来て随分経つが、普段用のない軍港、しかも闇の中で日菜が道に迷わない可能性は、今思えば極めて低い。

 いつもなら隼人が道を教えてやるのだが、生憎この有様。暗い中をがむしゃらに逃げ回れば、とんでもない方向へ逸れるのは当然であった。


「……本当に、俺が来ると思ってたんだな」


 隼人は深く息を吐くと、ついっと踵を返した。


◆◇◆◇


 日菜は追い込まれていた。

 苦し紛れに窓からこの空き倉庫に忍び込んだが、気配からして包囲されつつある。


「絶対暴れるぞ!噛まれないように気をつけろ!」

「力はそこらの娘の比じゃないぞ!刺股かなんかないのか?三人がかりで手足掴んで抑え込め!」


 壁の向こうから聞こえる声は、まるで野犬でも捕まえるような物々しさであった。


「あたしゃ野生動物かっての」


 忌々しく呟いた。おかしい、劇場から鎮守府の裏口なんて目と鼻の先、目を瞑ったって着く距離なのに、いくら走っても見えてこない。知らない間に鎮守府が引っ越したのだろうか?


「まあいいや、とにかく行くしかないか」


 夜明けもそう遠くない。このまま明るくなってはさらに見つかりやすくなってしまう。一か八か、飛び出すぞ。


「ぃよ……っと」


 手近にあった木箱を担ぎあげると、渾身の力で投げつけた。積み上げられた木箱がガラガラと、騒音と共に埃を巻き上げて崩れると、それに巻き込まれて窓が割れたようだ。


「あっちだ!逃がすな!」

「ガラスの割れた音がしたぞ!鉾蘭、怪我はないか?」


 追手の気配がそちらに向いたとき、既に日菜は割れた窓と反対側から飛び出していた。

 もう、どっちが鎮守府なのか見当もつかない。だが、このまま捕まるのだけは絶対に嫌だ。それくらいなら死んでやる。

 馬鹿なのは判っている。危険なのも十分知っているのだ。

 だが、ここで八幡颯天が立ち上がらなければ、父の死が無駄になる。ここで戦わなければ、仮に機操戦伎の誇りが戻ってきても、それは誰かの立てた手柄のついでである。

 それが辛かった。一万分の一、百万分の一でいいから、榊浦剣楼の功績を残したかった。自分の父は勇敢であったと語れる証拠を残しておきたかったのだ。


「どっちだ?ちくしょう……隼人の野郎、なんで判ってくれないんだよ」


 歯ぎしりしながら、日菜はただ明るい方へと突っ走った。前を見ているかも怪しい、つむじを地面にこすりつけるかのような無茶苦茶な走り方であった。

 追手が一人二人ならそれでどうにかなったかもしれないが、日菜を追いかけている人数は両手に余る。足音はみるみる近づいてきていた。

ここまでお読みいただきありがとうございます、感謝感激でございます。

気に入っていただけたら、お気に入りやブックマークで応援してもらえると本当に励みになります。

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果たして日菜の運命や如何に……

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