六 おてんば姫
従軍する。
日菜の発言は一座を揺るがした。
だが、それに賛同する者は一人もいなかった。
日菜と剣之丞の言い合いは平行線であった。森川がいなかったら取っ組み合いを始めていただろう。これではもはや取材のできる状態ではないと、森川は早々に切り上げることにした。
「では、写真を何枚か」
流石に役者というべきか、レンズを向けられると二人は和かに笑ってみせる。
「それでは……まず今回。剣之丞さんにお話いただいた件は新聞社に公開します」
「私もいいですよ、記事にしてもらって」
けろりと言ってのける日菜に、森川は肩をすくめた。
「鉾蘭さんの意思は尊重したいところですが、私どもとしても一座の皆さんと喧嘩をしたいわけではありません。一度皆さんと話し合って、それから鎮守府へお越しください。流石にここで志願されるとは思っておりませんでした。
お話いただいたことの記録はとってありますが、公開するのは鎮守府にお越しいただいてからにしましょう」
「ありがとうございます」
不満そうな日菜が口を開くより早く剣之丞が頭を下げるものだから、その場は一旦収まった。
さて、大変なのは森川が帰った後だ。
日菜は部屋に立て籠もるし、剣之丞は広間に一座の皆を集める。
取材中に大声で怒鳴っていたせいで、役者も裏方も殆どが両者の意思を知るところとなっていた。
「皆が知っているなら話は早い。鉾蘭が従軍すると言い出した。身内で言うだけならまだしも、軍の広報の前で言いやがった。こっちが引っ込みつかなくなるのを判ってやってる、タチが悪い」
忌々しげな剣之丞の物言いに、側で聞いていた弓江は溜息をついた。
「そこまで思いつめてたか……無茶するね、あの子」
その言葉が全てであった。
「一応聞くが……この場に、鉾蘭の従軍に賛成するやつはいないよな」
口調こそ全員への確認であるが、半分隼人に名指しの質問であった。
「俺に言ってますよね、兄さん」
「まあな。一番鉾蘭に弱いのは、誰が見てもお前だ」
はっきりと言われて一瞬言葉に詰まるが、それでも隼人は何とか切り返した。
「日菜の気持ちは理解はできます、ですが賛同はできない。戦地へ送るわけにはいきませんよ……これじゃ疑わしいですか?」
隼人がこう言うのであれば、その場に日菜の従軍に賛成するものは一人としていない。誰もがそう確信しただろう。
「ならいいんだ。確認だよ、確認。
さて、流石に鉾蘭は若い娘の身空だ。ありがたいことに軍も一度は話し合ってこいと引っ込めてくれた。しかし、流石に鉾蘭が鎮守府に駆け込んだら、それこそもう取り返しがつかない。
八幡颯天が戦場に、しかも前任者の娘を乗せて復帰するだなんて、軍にしちゃ願ったり叶ったり、中身の腕が未熟でもお涙頂戴としちゃ最高だ。十年後には新作の演目に加えたいくらいだね」
頭を抱えた剣之丞の皮肉な物言いは、弓江に小突かれて止まった。
「本来ならじっくり説得したいんだが……なにしろあの娘は、天地がひっくり返っても自分を曲げない強情モンだ。説得すればするほど思いつめて飛び出す。だから、全員で見張って鎮守府へ行かせないのが一番だ。
今は小松っちゃんが相手してくれてるが……なにしろ爆弾娘だ、いつまで素直にしてるかわからん。全員目を光らせてくれ」
全員が頷いた。無論、誰一人として日菜のことを憎く思っていない。家族同然に思い、可愛がっているからこそ止めたいのだ。
「そうだよな……止めなきゃだよな」
隼人は一人呟くと、迷いを振り払うように首を振った。
生憎、一体自分が何に迷っているのか、それすらも判らなくなっている事には気付けなかったが。
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