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機操戦伎グレニアヴァール  作者: そのえもん


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22/60

新京戦線④

果たして彼らの舞台は機体に応えているのだろうか?

その疑問に答えは、意外な形で出ることになる。

 追い詰められていると知っても、否、知ったからこそ翌日からの公演、日菜は気合い十分で臨んだ。

 最初は奇跡の噛み合いであった呑竜大返しも、二度三度と繰り返せば自分のものになっていく。

 これは才能などという曖昧なものではない。気合いと根性で積み重ねた猛稽古が、舞台という緊張の極限で花開く、血と汗と涙が努力を核に染みついた結晶であった。

 だから、一度コツを掴めば二度と離さない。積み重ねの中で、日菜はあらゆる失敗を噛み締めた。その上で掴んだコツは、決して揺るがない頑強な技術に昇華していた。


「すげえ……みるみる上手くなってく……」


 舞台袖から隼人はそれを眺めていた。じわじわと、だが確実に上達していく様は、日が昇るのを眺めているようであった。

 眩しい。一緒に舞台に立てていたのなら、きっと自分も……そこまで考えてしまったところで、首を左右に振って続きをかき消した。

 未練がましい。潰えた未来に縋っていては、いずれ整備も追いつけなくなる。

 今はただ、全力で支えなければならない。自分のいるべき場所をもう一度胸に刻み、自らの頬を叩いた。


◆◇◆◇


「はいお疲れ」


 その日の昼の公演を終え、戻ってきた日菜に握り飯をひょいと投げつける。

 ここは格納庫の片隅。本来なら日菜は楽屋にでもいるべきなのだが、隼人と機械人形をいじっていることが多いせいか、公演の合間は大概ここにいた。


「掴んできたな。力の入れどころも、抜きどころも」

「そだね。慣れてきた」


 初公演から数日もすれば、日菜は幕が降りた後も倒れることなく、余裕でロビーまで見送りに行けるようになっていた。整備の合間に付き人の真似事を押し付けられている隼人は、自然とその様子も目にしていた。


「意外だよ、日菜が子供相手にしゃがんて握手するなんてさ」


 率直に言うと、日菜は頬張っていた麦飯の握り飯を麦茶で流し込み、うんざりした口調で返した。


「アタシをなんだと思ってんだよ。子供だって立派なお客様だろ?

 それにあれだ、ここでアタシを刷り込んでおけば、この先一生舞台を観にくるようになるかもしれないだろ?投資だよ、投資。初恋を奪ってやんのさ」

「台無しだよ」


 肩を揺らして笑う日菜であったが、その笑いもすぐに引っ込んだ。


「……減ってるよね、観客」

「ちょっとな」


 舞台から観客を見渡せる日菜に嘘をついても仕方ない。隼人は素直に答えた。

 日菜をはじめとした役者は頑張っている。もちろん裏方だって負けていない。皆、今できる限界をやっている。

 だが、その舞台の出来栄えが太夫達がいた頃に匹敵するのか、観客が納得するのかは別の話。同じ金額を取っている限り、言い訳は許されないのだ。


「そう簡単に敵うわけない。舞台の華としては、見どころが半分欠けてるんだからさ。

 頭じゃわかっちゃいるんだけど……こう、露骨に見えると……腹立たしいね」

「可愛くねえなぁ。素直に悔しいって言えよ」

「うるせえ。アタシは怒りを力に変える性根なんだ、なんにだって噛み付いてやるさ」

「なんだよ、闘犬でも見せるつもりか?」

「冗談。こんな美人な闘犬、いてたまるかよ」


 そうしてまた二人で笑った。結局は、目の前の公演に全身全霊を打ち込むしかないのだから。

 厳しくなりそうだ。

 と思っても口に出さないのが、せめてもの抵抗であった。


 しかし、連日の奮闘努力の甲斐もなく、客足は一向に……と思った矢先、ある日を境に観客が増え始めた。最初こそ戸惑っていたが、その理由はすぐにわかった。


「こりゃ……来るわ」


 観客を増やしたのは新聞である。もちろん広告などではない。一面に踊った『機操戦伎・大戦果』の大見出しである。記事には『榊浦剣楼戦伎太夫、新京ニテ飛竜騎士ヲ撃破。帝国軍新兵器、機械人形、怪攻撃ニ耐フ』とある。

 新京へ渡り、出撃した二台の機械人形はかなりの戦果を叩き出しているようだった。

 戦車でも戦闘機でも対空砲でも殆ど歯が立たなかった相手に対する快進撃。これだけでもここ数年なかった朗報であるというのに、更に中身が凄い。

 新兵器は伝統芸能・機操戦伎。

 機械人形、戦場に返り咲く。

 兵器転用大成功。

 戦伎太夫榊浦剣楼、戦場を支配す。

 殆どの新聞の見出しが連日大きく踊り、飛竜騎士相手に大立ち回りする八幡颯天の写真がでかでかと載る。

 そりゃ、見に行きたくもなるというものだ。元来日本人は熱しやすく冷めやすい。機操戦伎の一大ブームが巻き起こった。日本中に点在する機操戦伎の劇場に人が詰めかけたのだ。

 もちろんピンキリはあるのだろうが、その中で最も沸いたのが、実際戦場で闘う八幡颯天と蒼鉄ノ誉のいたここ呉の劇場である。


「現金なもんだ。こっちは真っ当に努力して呼ぼうってのにさ」


 あからさまに不機嫌そうな日菜であるが、差し入れの餅菓子はぺろりと平らげていた。


「あんまりぶーたれんなよ。お客さんには見せんなよ」

「あったり前だろ、むしろ逆だ。ノリで見に来た連中を、一人残らずフアンにしてやる。

 見ろよほれ、アタシの会心のキメ顔」


 こちらに向けてきゅっと顔を引き締める日菜。鋭くも強い目力に、優雅に弓引く眉、形の良い朱唇に、瑞々しさの伝わるような肌と、黒々と美しい髪。見慣れている隼人さえ、思わず胸が高鳴る。


「顔だけはいいよな、日菜」

「知ってる」


 舞台の間は見えないが、機械人形の迫力に当てられたところに、最後の口上や見送りにこんな美貌を、しかも上気して汗まみれのところを見せつけられ……あまつさえロビーで握手や会話でもしようものなら、心の一つや二つ奪われるのも当然だろう。

 連日の満員御礼、跳ね上がる八幡颯天と青鉄ノ誉関連商品売り上げは、一座の経済面では喜ばしいことであったが、自分たちの努力の成果ではないというのは、複雑な心境であった。


「戦場の手柄の余波で売れたなんて、父さんに言えないよ」


 日菜がぼそりとそう言った。一座の皆も似たような心境だったのだろう、浮かれる者が誰一人いなかったのは幸いであった。



ここまでお読みいただきありがとうございます、感謝感激でございます。

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船上からの望まぬ七光り、一座はこれで食いつなぐのでしょうか?

でも、あったら見に行っちゃうよね、ぶっちゃけw

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※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・出来事とは一切関係ありません。


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― 新着の感想 ―
物凄く今更だけど、この演目、20メートル級の超巨大な物体が大立ち回りしてるのよね。 歌舞伎とかイルカショーなんて目じゃないレベルの大迫力や(実物大ガンダムを思い出しながら)
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