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機操戦伎グレニアヴァール  作者: そのえもん


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19/61

四 新京戦線

機操戦伎が再び兵器となる。

それま名誉であるが、同時に恐怖でもあった。

一座はこれからどうなるのか?

是非ご覧ください。

 打診の翌日、剣楼は一座を二つに分けた。無論、従軍する者とそうでない者の二つだ。

 まずは八幡颯天とその搭乗員。指揮役の榊浦剣楼戦伎太夫と、人形遣いである砲園。

 そして蒼鉄ノそうてつのほまれである。こちらは刃衛門と爪十郎の二人が乗り込む機械人形。以上二機と四名、そして数名の整備員が従軍することとなった。

 数だけで言えば大したものではないように見えるだろう。しかし八幡颯天のパワーと柔軟性は国内でもトップクラス、その上巨体に見合わぬスピードまで持ち合わせた怪物である。ずんぐりとした蒼鉄ノ誉はスピードこそ劣るが、その名に恥じぬ重さと分厚さは、八幡颯天を超える頑強さを誇る。

 花形の機械人形二台と、役者が四人。一座にとっては大黒柱と屋台骨を同時に引き抜くのに等しい大打撃であった。


「待って下さいよ太夫!流石にそれは……一座はどうするんですか?」


 剣楼の発表に真っ先に噛みついたのは剣之丞であった。


「なあに、戦争に行くのはオッサンの仕事さ。

 若いのは行かせられない、それは全員が思ったことだ」


 剣楼がけろりとした顔で言うと、横で砲園は頷いた。この二人の意見が揃うなら、もはや決まったようなものなのだ。そうと分かっていても今日ばかりは引けない剣之丞である。


「しかし……ベテランが四人も抜けちゃ、舞台が回りませんよ!

 俺が行きます、太夫は残って下さい」

「バカ言っちゃいけないよ剣之丞、お前の飛麟児は細身だ。尻尾の一撃で膝が折れちまうよ。改修するより、最初から頑丈なので行くべきだ」


 機操戦伎が戦場から離れている時間が長過ぎた。剣之丞の乗る飛麟児は、最も身軽で美しいものであったが、それは取っ組み合いをするような頑丈さと引き換えに得たものであった。


「お前には華がある。私達が帰って来るまでは、お前が一座を背負うんだ」


 その肩に剣楼が手を置くが、剣之丞は首を左右に振った。


「それは出来ません、お嬢がいます。私にそんな、一座を乗っ取るような真似は出来ません!」

「日菜……いや鉾蘭はまだ駆け出しだ、それこそ背負わせられん。

 そうだな鉾蘭?」

「はい。私は修行中の身、一座を背負うには未熟です。勉強しながら、剣之丞兄さんや、弓江姐さんを支えさせていただきます」


 日菜はさらりと返した、それが当然だと言うように。

 だが隼人には判る。自分にもっと実力があれば、誰もが認める役者であれば看板を背負ったのに……と日菜は思っているに違いない。

 だが、日菜は自分の力不足から目を逸らす程弱くはない。暴れることも、出しゃばることもしない。ここで自分が背負うようなら、七光以外の何者でもないと誰もが思うことも判っている。呪うのは自分の力不足。日菜はそういうヤツなのだ。


「そういうことだ……なぁに、すぐ戻って来る。それまでの代行だ、これも修行だと思え。いいな?」


 そこまで言われて断るほど、剣之亟は野暮な男ではない。姿勢を正し、頭を下げた。


「承知しました。太夫が戻るまでの代行……謹んでお受けします」

「ありがとう、精進しろよ」


 短なやりとりであったが、交わされた使命は重い。もはや御託は不要であると、その日はささやかな壮行会が開かれた。


「さあ皆、呑んでくれ。

 我らが失った武人の矜持が帰って来るのだ、めでたいじゃないか!」


 そうは言うものの……皆どこかギクシャクしている。ありていに言えば何を喋ったらいいのか判らないのだ。

 機操戦伎が芸能から武芸へ返り咲き、武人としての誇りを取り戻すのは素晴らしい、それは間違いない。だからと言って、身近な人が今この世で最も危険な戦地へ赴くのを祝う気にはなれない。まして隼人は、その中に自分の親が含まれているのだから。

 複雑な心持ちで料理を腹に詰め込んだ隼人は、押し黙って茶を啜っていた。


「隼人」


 会の最中、隣にすっと腰を下ろしたのは砲園であった。


「父さん……あの……ご武運を」


 砲園は頷くと、隼人の肩を叩いた。こうしてまじまじと見るのは久しぶりかもしれない。こめかみのあたりに白髪が混じっていた。


「暗い顔をするな。あの映像の機械人形と、大夫と俺が乗る八幡颯天、どっちが強いか……お前なら判るよな?」

「八幡颯天です」


 即答、掛け値なしであった。

 役者としては再起不能でも、そばで舞台を見てきた隼人の目はそこそこ肥えている。

 映像で見る限り、新京で暴れた機械人形、その役者の練度は恐らく並程度。従軍する四人と比べれば一段劣る筈だ。


「そういうことだ。心配するな、あっという間さ。

 頼んだぞ……一座もそうだが、お嬢……いや、日菜ちゃんを支えてやってくれ」

「……大丈夫だろ、日菜は。やる気もあるし……あの顔は、自分の力不足を自覚してる顔だ」

「ンなことぁ俺も見えてる」


 肩を軽く小突かれた。


「力不足を自覚してる、だから支えが要るんだよ。絶対に背伸びする……成長にゃ背伸びが必要だが、無理な背伸びは毒だ。暴走したり、無理したりしないようにな。

 今はわからなくても、心に刻んどけよ」

「……はい」

「……頼んだぞ」


 頷く。と、砲園は席を立った。ふっと目線でその後を追うと、日菜が目に入った。こちらは剣楼となにやら言葉を交わしているようだった。

 これが最期かもしれない。冷静を装ってはいたものの、この事実は流石に精神に響いたのだろう。その日はその後、誰と何を喋ったのか、あまり記憶に残らなかった。


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