クリスマス➆
*
「いやぁ、美樹ちゃんは本当にいい子だねぇ」
「そんなことないですよ」
「そうだ。昔の克人の話は私がしたわけだし、学校での克人の話を聞かせてくれないかな」
「えぇ、分かりました」
私は志島君の叔母に当たる洋子さんと、テーブルを挟むようにして座っていた。志島君は悠陽さんと共に悠陽さんの家に行ってしまった。どこか、胸がチクチクする気がする。
「そうですね。学校の志島君は——」
私は洋子さんに学校での志島君についてを話した。
人の恋愛相談に乗って、先輩に聞き込みまでしたこと。
定期試験突破のための合宿をしたこと。
夏休みにせっちゃんの家でバイトをして、修学旅行に行って、理事長と共に学校全体を巻き込んだ大立ち回りをしたこと。そして、奨学生部の三人を助けてくれたこと。
学校のみんなからお母さんと呼ばれていること。そして、学校のみんなから頼られていること。
志島君と過ごしてまだ一年も経っていあにはずなのに、すらすらと志島君に関するエピソードが飛び出してくる。
洋子さんは先ほどまで酔っていたはずなのに、突然真剣なまなざしになって私を見つめ始めた。
「そうか。克人はやっぱり克人なんだなぁ」
「そうなんですか?」
「あぁ、さっきも話したけど克人は昔っからそうなんだよ。自分のことは隅に置いておいて、ずっと人のことばっかり考えてる。そのせいで何度も危ない目に合ってたしね」
「ふふっ。志島君らしいですね」
「ほんとだよ。何度注意しても聞かないんだから」
「そうなんですね。最近の出来事で言うなら、志島君は私のわがままにも付き合ってくれましたから」
去年までの私は父の言いつけを守ってあまり学校行事に対して積極的ではなかった。しかし、志島君はその呪縛から私を解き放ち、そして体育祭でも、文化祭でも私のわがままを聞いてくれた。
「美樹ちゃんは克人のことが好きなんだね」
「ど、どうしてそうなるんですか!?」
「いやね。克人のことをそんなに楽しそうに話してくれているんだから、誰だってわかるよ」
「そ、そんなに楽しそうでした?」
「うん。とっても。特に『私のわがままにも付き合ってくれました』あたりは、特にね」
「そ、そうですか」
気を付けなくては。確かに私は志島君のことが好きなのだが、それは胸の内にしっかりとしまってあったはず。まさか、こんなところでボロが出てしまうなんて。
「克人のことを頼んだよ」
「ちょっ、なんで急にそんなことになるんですか!」
「克人は周りのことばっかり気にして自分のことは全くと言っていいほどに気にしない子だから。きっと、美樹ちゃんの気持ちには気づいていても、絶対に向こうからは手を出してこない。女の子にこんなことを言うのもあれだけど、ガンガン行った方がいいよ。それが克人攻略のカギだ」
「攻略って」
でも、確かに志島君ならありえる話だ。私から行くしかないのかもしれない。
「うん。克人も美樹ちゃんのことは好きみたいだから安心して良い」
「なんでわかるんですかそんなこと」
「これでも克人の育ての親だからねぇ。克人の目は悠陽ちゃんとここの酔っぱらいに向けるものと、美樹ちゃんに向けるものでは少し違っていたから」
「そ、そうですか」
「それじゃあとにかく自信をもっていきなっ! 私はこの酔っぱらいを家まで送ってから帰るから。おーい、自分の家はわかるかー?」
「わ、分かりまひゅ……」
「だから、君はここで克人を待っていると良い」
「わ、分かりました!」
志島君の家族から太鼓判を貰えると流石に勇気がわいてきた。というか、せっちゃんは本当に大丈夫なのだろうか。別に体調面を心配している訳ではない。保護者の前で、生徒の家で酔いつぶれて、社会的に大丈夫なのだろうか、という心配だ。
「ほら、さっさと起きてくれ。私も独り身の気持ちは分かるから飲むこと自体には反対しないけど、このままいくと変な男にひっかかるぞー?」
「き、きおつけまひゅ!」
「うん。分かればいいんだ」
とりあえずは学校に報告されるようなことはないだろう。学校へのクレームがあったら、あの理事長でさえも庇い切ることはできないはずだ。
「それじゃ、私たちはここらで失礼するよ」
洋子さんはそう言うとせっちゃんを担いで玄関の方へ向かった。
「あの!」
「どうしたんだい?」
「あ、ありがとうございました!」
「良いよ。私にとってもかわいい甥だからね。そんな奴にこんなかわいい子がくっついてくれるなら大歓迎さ」
「はい! 頑張ります」
「それじゃ、良き聖なる夜を」
そう言うと、玄関を開けて出ていく洋子さん。私がどうやって気持ちを志島君に伝えようかと悩んでいると、もう一度玄関がバタンと開き、そこには洋子さんの姿があった。
「あれだよ? 聖なるっていうのは、神聖の『聖』であって、性交の『性』じゃないからね?」
「わ、分かっています!」
わざわざそんなことを言うためだけに戻ってきたのか。洋子さん……せっかく良い人だと思っていたのに、これじゃあただの酔っぱらい。……あれ? もしかして、今までのもただの酔っぱらいの戯言なのではないだろうか。
急に心配になってきた。
でも、あの時の洋子さんの目は真剣そのものだった。きっと、大丈夫。
私は志島君の帰りを待ちながら、気持ちを落ちつけるのであった。
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