クリスマス⑤
結局、洋子姉さんは俺の昔話を得意げに語っていた。
俺が初めて掃除をした時の話や、洗濯をした時の話、そして料理をした時の話、と俺の家事についての話が主であった。
「それでね、私は思ったのっ! こんな優良な男はいないって! 私は克人を養って、ヒモとして育てていくんだって!」
「なるほど、志島君の女子力は小さい時から形成されていたんですね」
「確かに克人さんは良い男っすよ! おいしいご飯を作ってくれるっすから」
おいおい。俺の魅力は家事能力だけですか。……あながち否定できない自分が悔しい。
既にせっちゃんは酔いつぶれており、部屋の隅の方で寝っ転がっている。そして、寝ぼけ眼を擦るせっちゃんから許可をもらった洋子姉さんはせっちゃんの日本酒をぐびぐびと飲み始めていた。
「そうよー! 克人は良い男なんだから! それで、克人はどっちかの子と付き合ってる訳?」
だいぶ酔いが回っているらしい洋子姉さんが急に話を振ってきた。身内に褒められることほどむず痒いことはないが、もう酔っぱらいの戯言だと聞き流すしかない。
だが、そうやら酔っぱらいの相手に慣れていない美樹と悠陽は真剣に言葉の一つ一つを真剣に受け取ってしまっているようだ。
「俺は誰とも付き合ってないし、誰とも付き合うつもりもないから」
酔っぱらいに対しての言葉。別に深く何かを考えていた訳ではない。しかし、これが俺の正直な気持ちだった。
「俺はこの三人で適当に過ごしてるくらいが楽しいんだよ」
別に何かを偽っているつもりもない。確かに、俺は美樹のことが好きだし、文化祭のあれ以来、ずっと意識はしてきた。そして、俺の希望的な観測なのかもしれないが、それは向こうも同じ。……だと思っている。
しかし、俺たちがそう言った関係になれば悠陽と気まずくなるのは目に見えていた。
「そ、そうですよね」
どこか詰まるようにしていった美樹。ほら、やはり美樹も同じ気持ちらしい。
「ありゃまっす。これは本当にキツそうっすねぇ」
何か悠陽が言っている気がするが意味が分からない。悠陽のことだから大したことではないのだろう。
なんか、悠陽が俺の方を睨んでいるような気がしてならなかった。
「克人さんって本当に気遣いばっかで自分のことは蔑ろにするんすね!」
「おいおい。どうしたんだよ急に」
「なんか私がばかみたいじゃないっすか。一人で燃えて、折れて、諦めて、悟って。なのになんにもなかったみたいに二人は過ごしてるっす!」
本当にどうしたんだ? なんか、さっきと見比べると顔が赤くなっているような気がするし。後は少しばかり呂律が回っていないような気がしてきた。なんというか、せっちゃんがつぶれる前の話し方に似ている気がする。
「お前、まさかと思うが飲んでないよな?」
「まさか、お酒なんて飲むわけないじゃないっすか」
「そうだよな……いや、少し待て。お前の目の前にあるそのチョコの箱は何だ?」
「ん? これっすか? なんかよく分からないけど、おいしかったっすよ」
俺はそう言ってはにかむ悠陽から箱をひったくって確認した。
『冬季限定 ウイスキー入り』
「まさかお前これ全部食ったのか?」
「……食べちゃったっすよ?」
「これな。お酒入りなんだよ」
「マジっすか。ってことはこれが酔うって感覚なんすかね」
「だろうな」
俺もこのチョコ自体は食べたことがある。勿論、すべて一気に食べたわけではないがその時は特に変わったことはなかったっはずだ。悠陽は——
「確かに言われてみれば酔っぱらってるのかもしれないっすね! なんか気分が良いっす」
効果があったようだ。まぁ、気持ちよくなっているくらいなら良いだろう。
「克人さん! なんか、すごく走り回りたくなってきたっす!」
「やめろ。余計に酔いが回るぞ」
流石にこの状態で走り回ってこいとは言い難い。
顔を赤くしている悠陽はやはり、少し目が虚ろな気がしてくる。流石にこの状況でここにいたら、せっちゃんと洋子姉さんの雰囲気にのまれてしまうだろう。
俺がこんなことを考える必要なないのかもしれないが、なんか教育上よろしくないような気がしてくる。
「なぁ、悠陽。そろそろ帰った方が良くないか?」
「分かりました。そうするっす」
案外、すんなりと受け入れてくれたな。まぁ、とにかく家まで送り届けなければ。このまま外に放り出すというのは危険だし、こんな状態で家に帰ったら悠奈さんも心配してしまうだろう。
「じゃ、俺は悠陽を家まで送っていくから。飲むのも良いけど、ほどほどにしとけよ」
「分かった。あんたは兄さんに似てしっかりもんだねぇ」
「ごめん。この酔っぱらいの相手、美樹に任せても良い?」
「え!? あ、悠陽さんが帰るのであれば私もおいとました方が良いのかと思ったのですが……」
「あ、帰りたかったら帰っても良いけど」
「い、いえ。志島君が良いならもう少しお邪魔していようかと」
「そっか。じゃ、悠陽を送っていくから少しそこの酔っぱらいの相手を頼むわ」
「了解しました」
「おー、美樹ちゃんは残ってくれるのかぁ! ほらほら、何か欲しいものがあったら言ってごらん! 私のことを捨ててどこかに行っちゃう克人はほっといて、私と二人っきりで良いことしましょ!」
「同級生にセクハラすんなよ?」
「はーい」
俺は、渋々といった様子で返事をした洋子姉さんを美樹に任せ、悠陽と共に家を出た。




