クリスマス④
「初めまして。克人の叔母で育ての親の志島洋子です」
丁寧に頭を下げる洋子おばさんは先ほどまでの雰囲気を打ち消して、しっかりとした大人の対応をしている。
「それで、こちらのお嬢さん方との関係は? ねぇ、克人?」
睨まないでほしい。別に、悪いことをしていた訳でもないのだが、どういう訳か洋子おばさんは俺に鋭い眼光を飛ばしている。
「こいつらは、俺の友達だよ。奨学生部に入ったって連絡はしただろ? そこの部活仲間……とその顧問」
「えっと。彩華学園はそれで大丈夫なのかしら?」
へべれけになっているせっちゃんを見て洋子おばさんが心配そうな表情を浮かべた。
「大丈夫だよ。今日はこんなのだけど普段はしっかりしているから……?」
「なんで疑問形なのかは聞かないけど、本当に大丈夫なの?」
そりゃ心配にもなるか。生徒の家でべろべろに酔っぱらう教師。保護者として、これほど心配になるものは無い。
洋子おばさんはまぁ、良いかと楽観的な結論を出したようで、すぐに美樹と悠陽の方へと向き直った。
「ごめんなさいね。克人のお節介に付き合わせてしまって」
「い、いえ。こちらこそ、志島君にはいつもお世話になりっぱなしで」
「そ、そうっす。克人さんが居なければこんな盛大なクリスマスパーティーなんてできなかったすから!」
「あら、そう? まぁ、あなたたちが良いなら良いけど。克人は昔からほんとに人にお節介をかけてばっかりで」
「ちょっと、叔母さん!? 何を言い出そうとしている!?」
「誰がオバサンじゃ! 私のことは姉さんもしくはお姉ちゃんと呼びなさいといつも言ってるでしょうが!」
「いやいや。にしては流石に歳離れすぎてるから!」
俺たちの関係性は叔母と甥で間違いないので、俺が「叔母さん」と呼ぶのは至極まっとうな気がするのだが、洋子おばさん、もとい洋子姉さんは昔からこの呼び名を嫌う。確かに二十台の女性に向かっておばさんという呼び名はいかがなものかとも思っていたが、もうそろそろ良い歳のはずだ。
叔母さんであり、オバサンなのだから何が不満なのかと顔を見てみると、額に分かりやすく怒りマークが浮かんでいた。
「洋子おば、姉さん? 小皺がまた増えるよ?」
「なにが、おばねぇさんよ! それに小皺が増えているのはあなたのせいよ!」
「うるさいなぁ! それで、突然何しに来たんだよ」
「っと、そうだったそうだった。今日、克人にも言わずに突然来たのは理由があるのよ」
今までふざけていたはずの洋子姉さんは、柄にもなく真剣な表情になって俺を見据えた。その空気から、美樹と悠陽までもが固唾をのんで見守っている。
「いや、クリぼっちのかわいそうな甥のためにクリスマスプレゼントをって思ったんだけど…………」
「思ったんだけど?」
「やっぱりあげるのやめたわ。腹立つから」
「なんでだ」
「だってそうでしょう!? クリスマスに三人も女の子を連れ込んでパーティーって! 私だってそんなことしたことないのに! 今日も私はどうせぼっちですよ! 早めに仕事が終わったと思って家に帰って、クリスマスだからって一人でシャンパンを開けて! そしたらね、寂しくなってきたの!」
「そんあ理由でわざわざ電車を乗り継いでここまで来たの!?」
「そうよ! だって、私には克人しかいないのよ! 兄さんもいなくなっちゃったし! それで、寂しさを紛らわせるために克人を引き取ったのに、克人まで家を出てっちゃうし!」
「ちょっと、待って。俺は愛玩動物を飼う感じで引き取られたの!?」
「べ、別にそれだけじゃないけど」
「それに、俺が姉さんの家を出てこっちの学校に行くって言ったときは喜んで学費とか出してくれたじゃん!」
「そ、それは! 私だって、出て行ってほしくなかったわよ! でも、克人は仕事が遅くまでやってる私のために家事も全部やってくれてたし、そういうのが疲れたのかなって」
「いや、俺が出て行ったのは姉さんの婚活に支障が出るかなと思ったからであって、家事が嫌とかそういうのじゃないんだけど……」
「…………え?」
「っていうか、こんな混み入った話をお客さんの前でするのはやめようよ」
「そ、そうね。ごめんなさい。あなたたちも大切なパーティーの邪魔をしてしまって申し訳なかったわ」
俺との口論で周りを見ていなかったらしい、洋子姉さんはやっと美樹と悠陽と酔っぱらいの存在を思い出したようだ。
ヒートアップしていた思考を落ち着けて、美樹と悠陽に頭を下げた。
「い、いえ。大丈夫です」
「そ、そうっすよ! 全然大丈夫っす!」
若干引きつったような笑みを浮かべている美樹と悠陽。本当に申し訳ない。
というか、この人も酒が回った状態でここに来たのか。
「ごめんなさいね。それじゃ、私はそろそろ帰るとしますか」
そう言って洋子姉さんは俺たちに背を向けて玄関へと向かっていった。
「あ、あの!」
しかし、それを呼び止める声。ここは無理やりにでも帰した方が良いに決まっているのだが、流石にそれもかわいそうか。いままで散々お世話になってきている訳だし。
「あの、私たちと一緒にパーティーやりませんか?」
優等生の美樹らしい最適解だ。だが、それは俺にとって悪夢の始まりのような気がしてならない。
「え、いいの?」
「は、はい! 勿論です! し、志島君の昔のお話とか聞きたいですし!」
「分かったわ! 昔の克人の話ね! いくらでもしてあげるわ!」
「お、なんすかそれ! あたしも興味あるっす!」
「そうねぇ、あれは克人がまだ小学一年生の時なんだけどね」
俺のことなどお構いなしに、テーブルの方へと戻って行く洋子姉さん。いや、おしゃべり好きのオバサン。だが、美樹と悠陽が興味を持ってしまったために、もう俺一人でどうにかするのは無理だろう。
俺は色々とあきらめて、食器棚からもう一人分の取り皿と箸、グラスを用意するのであった。




