クリスマス③
何とも言い難い空気が流れること一時間。
俺は料理を完成させ、美樹たちは部屋の飾りつけを終えたようだ。
「ちょっと、克人さん。一回、外に出ててもらってもいいっすか?」
「なんで、寒いから嫌なんだけど」
「そうっすか。これからせっかく美樹さんにこの衣装を着てもらおうと思ったのに、克人さんがここから出て行かなかったら着替えられないっすね。はーあ。残念っすね」
「わ、私は志島君がいる前で着替えても良いけど」
「ちょ! 美樹さんそれは流石に大胆になりすぎって言うか、ただの痴女っす」
「悠陽? なんか言ったか?」
「な、何でもないっす! とにかく、克人さんは一旦部屋から出て行ってくださいっす!」
追い出されてしまった。まさかこんな寒空の下、自分の家の前で待ちぼうけを食らうことになろうとは。とは言え、美樹のサンタ姿も興味が無い訳ではないので、ちゃんと待とう。
数分待っていると、悠陽が中から呼ぶ声が聞こえ、俺は玄関を開けた。
するとそこには、どや顔で四つん這いになっている悠陽トナカイの姿と、その上に座る美樹サンタの姿が。
「いや、サンタが乗ってくるのはソリであってトナカイには乗らないだろ」
「確かにそうっすね。じゃ、美樹さん降りてくださいっす」
上下赤色の服を着て、頭にも赤色のサンタ帽子をかぶった美樹は、顔を赤くしながら悠陽から降りた。
肩が出て、そしてミニスカートのサンタ衣装。悠陽の上に座っているときはスカートの中が、大変危ないことになってしまっていた。
「寒くないか?」
「最初の感想がそれですか!?」
「そうっすよ、克人さん! こういう時には言うことってものがあるでしょっす!!」
「メリークリスマス?」
「確かにそれもそうっすけど! 他には無いんすか!?」
「分かった分かった。美樹、似合ってるよ」
「あ、ありがとうございます」
そして、また赤くなる美樹。なぜ、断らなかったのだろう。
「似合ってる以外にもなんか言うことないっすか!」
大声を上げた悠陽は俺の耳元まで寄ってきて、何を言うべきかをこと細かに俺へと伝えてくる。
「えーっと、なになに。かわいいよ、美樹のサンタコスプレを見れるなんて、俺は幸せだなー」
「すごい言わされている感! そして、コスプレって言わないでください! なんか恥ずかしくなってきました!」
「ごめんごめん。でも、実際可愛いと思うぞ」
「あ、ありがとうございます……」
「おい。私の前ではリア充プレイ禁止だ」
「プレイって言わないでください!」
今日はあれだな。完全に美樹がいじられる日だ。
「じゃ、料理の準備するからちょっと待っててな」
俺は用意してあった料理たちをテーブルに所狭しと並べていく。実際にテーブルが小さいので、本当に狭い。
俺が料理したのは、クリスマスらしいチキン、リース型に盛り付けたサラダ、ポテト、そしてもつ煮だ。
最後のはクリスマス関係なくただのせっちゃんのリクエストなのだが、まぁ良いだろう。
テーブルを囲むようにして座った俺たち四人。
せっちゃんがジュースを買っていてくれたらしく、俺たちの目の前には炭酸飲料。そして、せっちゃんの前にはシャンパン。いかにもクリスマスらしい。
俺が作った料理に、美樹たちが飾り付けてくれた部屋。そして、サンタとトナカイ。
「じゃ、そろそろ開宴と行きますか」
「そうしましょう」
「みんなグラスを持って」
「はいっす」
「年長者のせっちゃん、乾杯の音頭を」
「こういう時だけは年長者扱いをするのだな。まぁ良い。メリークリスマス! 乾杯!」
「「「乾杯!!!」」」
俺たちのクリスマスパーティーは順調と言えば順調に進んだ。美樹の希望通り、おいしい料理は準備したし、悠陽の言った通りいかにもクリスマスらしい企画だ。そして、せっちゃんは一人で酒を飲み続けている。小さなシャンパンを一人で空け終えたせっちゃんは、すぐに日本酒に突入。もつ煮を作らせたのだから当然と言えば当然なのだが、流石にこれはどうなんだろう。
「おひっ! ひじま! もつ煮のお代わりだっ! ひっく」
「はいはい。大丈夫ですか? まずはこれを飲んでください」
俺は水の入ったグラスをせっちゃんに目の前に置いてから、もつ煮を取りに台所へと向かった。
「教師として流石にどうなんでしょう。というか、大人としてもどうなんですかこれ」
「美樹さん! 気にしちゃダメっすよ! それに、ほらメガネを外したらさらに面白いっす!」
「……悠陽ちゃん。そうだよね。私なんてこんな丹精込めて作られたお酒を飲むことさえも遠慮しないといけない人間だよね。はははっ。…………うわーん!!」
「ちょっと、悠陽さん! 先生を泣かせちゃダメでしょう!」
「あんまり聞いたことのないワードっすね! せっちゃん、ごめんなさいっす。はいメガネ」
「……くすん。ありがとう」
メガネを返してもらったせっちゃんはすぐに、それをかけた。本来ならば、ここで切り替わってスーパーせっちゃんになるはずなのだが、今日は流石に酔いが回りすぎているらしい。
「どうせ、私なんて! 学生同士でいちゃついているところを見ていることしかできないんだ! はぁあ! 何が青春だ! 何が友情だ! おいっ! ひゃんときいているのか志島! お前だってそう思うらろ!?」
「いや、学生にそんなことを言われましても」
俺がせっちゃんの前にもつ煮を置くと、また一気に日本酒を煽った。まさか、酒に酔ったせっちゃんがこんなダルがらみをしてくるなんて。
「ひょうかひょうか!! 志島はモテモテだもんなぁ! 青山も赤坂もお前のこと大好きらもんなぁ! 何か困ったことがあればせんせーである私に聞かないですぐ志島君、克人さんって飛んでいきやがる!」
「べ、別に私は大好きという訳では……」
「そうっすよ、私たちは克人さんのこと大好きっすから!」
「悠陽さん!?」
美樹は美樹で酔っぱらい相手にも真剣に相手をしようとするし、悠陽は悠陽でせっちゃんの空気にあてられたのか心臓に悪いことを叫んでいる。
せっちゃんももう少し節度を持って飲むのかと思っていたのだが、まさかこうも泥酔するまで飲むとは。
せっちゃんが、泣きわめき美樹が困って悠陽が暴走するというカオスな状況を収めたのは、俺の玄関扉が叩かれる音だった。
——ドンドン
「克人ー? 誰か来ているの?」
俺にとっては聞きなじみのある声だ。少しばかり大人びてはいるものの、老け込んでいる訳ではない女声。と、そんな声を聴けば、中にいる連中が焦るのも必然といった訳で。
「お、女の声がしたっす!」
「克人って呼び捨てにしていましたよ!」
「んんあ! ひじまの女か? 残念だったな青山、赤坂! 貴様らもこっちの仲間だ」
わめき散らかす女三人どもを放って、俺は玄関に向かった。そして、玄関の扉を開けようとしたその刹那。この状況はもしやよからぬ想像をされる可能性があるのではないかという点に気づく。
俺以外には女性が三人。一人はトナカイのふざけた格好だからいいとしても、もう一人はとてもセクシーなコスプレサンタ。そしてもう一人は泥酔。少なくともこちらでまともな生活ができているとは思ってくれないだろう。
「早く開けて。ねぇ、もしかして女の子家に連れ込んでいるの!? 克人! 答えなさい
!」
「分かりました」
そう言われてしまっては、俺が拒否できるわけもない。俺は素直に玄関の扉を開ける。そこに立っていたのは、やはりとても見知った顔。三〇を過ぎているにしては若く見える、俺の——。
「あら、ごめんなさいね。お取込み中だった? って、女物の靴が三つも!? 克人! 私が純愛好きなのは知っているでしょ!? 寝取りとか寝取られは嫌いなの!」
「いや、こいつらはそういうのじゃないから」
「お、お邪魔しています」
とても気まずそうな顔でまず挨拶をしたのは美樹だ。座っていればまだ普通の格好にも見えるのだが、立ってしまえばただのコスプレだ。
「まさかのコスプレ!? ちょっと、克人にこんな趣味があるなんて知らなかったわ!」
「別に俺が着させている訳ではないからね!?」
「お、お邪魔してるっす」
次に立ったのは悠陽だ。しかし、今度は安心できる。全身トナカイであれば流石に変な想像はされないだろう。
「えぇ!? もしかして、この子に跨ってあんなことやこんなことを!?」
「いや、トナカイは別に乗る物じゃないから」
そして、次はせっちゃんの番のはずなのだが、あいにく一升瓶を抱えたままテーブルにつっぷっしていらっしゃった。
「まさか女の子を酔い潰して堕とそうなんて! 克人がそんな悪い子になっていたとは!」
確かに、こいつが一番危険か香りするよなぁ。そんなこんなで、俺の評価の下がり具合が気になるところだが、美樹と悠陽はそれ以上に気になっていることがあるらしい。
「あの。そちらはどなたなのでしょうか」
「もしかして、克人さんの彼女さんだったりするっすか?」
「あらあら。お上手ねぇ。でも、私と克人の関係はもっとただならぬ関係よ!」
「嘘をつくんじゃねぇ!」
とりあえず、荷物を置かせてから、俺は二人に説明すべくテーブルの方へと向かった。




