↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女子力に優れた俺は、学費が免除されました。  作者: 土星めがね
家庭の情事

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/75

家庭の情事②

 建物の中を恐る恐る進むと、一本の長い廊下が出現した。その廊下の右側には個室へとつながる扉が何枚も設置されている。どうやら、どの部屋からも川のせせらぎを感じられるようだ。とはいっても、俺に癒されているような余裕はない。

 廊下を見ると、手前から緑川様、青山様、赤坂様という紙が張り出されていた。

 隣の会話が聞こえないようにという配慮か、部屋はすべて一つ飛ばしで配置されている。というか、貸し切りらしい。せっちゃんすごいな。

 俺はまずせっちゃんに言われた通り、青山様と書かれた紙のある扉をノックする。帰ってきたのは美樹の声だ。それも、気の抜けた声、といことはまだ茂さんは来ていないということだろう。

 扉を開けるとそこは畳の張られた和室であった。低いテーブルに座布団が三枚。そのうち二枚の側の一つに美樹は正座していた。想像通り、正面の窓の向こうにはきれいな川が流れていた。


「おはようございます。……似合ってますよ?」

「おいその妙な間と疑問符はなんだ」

「スーツで来させると緑川先生が言っていましたが、まさか本当に来るとは。彼氏の紹介が結婚前提の挨拶みたいになってますね」


 美樹はいつも通りの制服姿であるため、俺の格好は浮いているとしか表現のしようがない。


「もうすぐお父様が来ると思います。よろしくお願いしますね」

「はいよ。聞いてるとは思うけど俺は途中で抜けることがあるからフォローをよろしくな」


「失礼」


 ドアを軽くノックし、茂さんが静かに入室をした。俺と美樹はスーツ姿の茂さんを立って迎え入れる。俺と同じ種類の服のはずなのに値段の差なのか、それとも来ている人間の年季が違うのか、どうも雰囲気が違って見える。


「やぁ、志島君久しぶりだね。それで、話というのは何かな? 志島君がずいぶんと気合の入った格好をしているように見えるのだが。まさか、付き合っているなどということはあるまいな? あれだけ、くぎを刺していたのにまさか、な」


 にこにことしながらではあるものの、その裏側には手を出したら分かっているよな? というオーラ。最近疲れているからか、茂さんの後ろに般若が見える。

 

「それで、話とは何だい?」

 

 茂さんは俺たちとテーブルを挟んで座る。隣の美樹の出方を伺っていっると、美樹は意を決したように口を開いた。

「いえ、私の下僕がお父様にどうしても会いたいと言うものですから」


 こいつ、ビビりやがったな。美樹の表情を伺うと妙な汗を額に浮かべている。


(おいっ! どういうことだよ)

(ごめんなさい。私にはどうしても言えなくて……)


 アイコンタクトで美樹と意思疎通を図ると、美樹は心底申し訳ないといった感情をこちらに伝えてきた。


「そうか、志島君の誘いとあらば、来ないわけにはいかないな」


 茂さんはがははと豪快に笑う。俺の好感度はどこでそんなに構築されたのだろう。ギャルゲーでいう、誰の好感度も上げきれなかった場合の救済キャラみたいなものなのか?


「そうなんですよ、実は茂さんに少しお話がありまして」


 俺はあくまでも笑顔を崩さぬように、細心の注意を払って言葉を紡いだ。いつまでも、このままではだめだ。美樹のためにも。

 この前、学園長室で涙した美樹は誰がどう見ても友達に飢えていた。勿論、決して悪い意味ではない。これまで、小、中、高と同級生から隔離されたような生活を送っていた美樹。表面上は冷静を装っているものの、やはり美樹も一人の女の子で、一人の高校生なのだ。

 俺はもう一度、美樹を見る。俺を試すような、からかうような表情を浮かべているものの、 内面はきっと俺に言ってほしいに違いない。

 美樹には友人が必要だと、普通の高校生らしい生活が必要だと。

何かを察したようでこちらを睨んできた茂さん。一瞬、臆してしまいそうになるが自分の腿を抓って耐え凌ぐ。

 そして、俺は意を決し茂さんに美樹の思いを代弁——。


——ヴゥ―、ヴゥ―、ヴゥ―。


 ポケットに入れていた携帯が静かに震え出した。茂さんがこちらを不審げに見ているが、どうやら俺はこの場を脱しなければいけないらしい。


「どうしたんだい、志島君?」

「すみません、急にお腹が痛くなってしまって」


 まさか、こんな低レベルな仮病を高校生になって使うことになろうとは。心配そうに俺の顔を覗き込む茂さんに対し、隣に座る美樹は「だいじょぶでちゅかー」とアイコンタクトでこちらに伝えてくる。その眼は明らかにニヤついていた。腹立つなこいつマジで。


 茂さんに断りを入れてから廊下に出る。メールの差出人はせっちゃんだ。


『とりあえず入ってこい。一分以内に』


 メールの受信時間を見ると、すでにその時刻は一分以上前を指している。俺がメールに気づいて、確認して、違和感なく部屋を出て、移動する、という行動を瞬時に行えるとでも思っているのだろうか。敢えてゆっくり行ってやろうかとも思ったが、何をされるか分かったもんじゃない。俺は出し得る最高速度をもって、せっちゃんの待つ部屋の前まで移動した。

 扉をノックすると、中からせっちゃんの声が聞こえてくる。


「失礼します」


 俺は今日何度言うことになるか分からない言葉とともに、部屋に入った。

 部屋のつくりは美樹がいた部屋と変わらない。変わるのは、そこにいる人物のみだ。

 不審そうな表情でこちらを見ているのは三十代そこそこ、せっちゃんよりも少しだけ年のいっていそうな男性であった。


「君は?」


 ごもっともな疑問をこちらにぶつけてきた男性は、明らかに敵意をむき出しにしながらにらみを利かせている。


「さっきから言っているだろう? 私の恋人だと」

「まさか、こんな少年がですか? 冗談はやめてください」


 真面目そうな男性は鼻で笑うように俺からすぐに視線を外し、せっちゃんの方へと熱いまなざしを向けていた。俺は隣に座るせっちゃんの方を見ると、せっちゃんはよろしくな、と腹立たしい笑みを俺に向かって浮かべていた。こんな女のどこに惚れるんだ? あぁ、そういえばこの人が惚れているのは眼鏡を外したバージョンのせっちゃんか。


「私はあなたの女性らしい部分が好きなんです。もう、無理をすることはない。ほら、そのメガネを外して以前のあなたに戻ってください」


 どうやら、男性は俺をいないものとして扱うと決めたらしく、せっちゃんへのアピールを再開した。

 隣にいるせっちゃんは嫌そうな表情を隠そうともしていない。こちらに向けて、早く何とかしろという視線を送ってくる。さてと、そろそろ役割を果たしましょうか。


「口をはさむようで申し訳ないんですが、せっちゃんは俺の——」

「申し訳ないと思うのであれば黙っていてくれませんか?」


 こいつマジか。慣用句というか常套句というか、口をはさむ際には枕詞のように使う言葉だと思うのだが……。この人はどうやら、何か一点を見つめると他のものが見えなくなるようだ。


「全く申し訳なく思ってないので、口を挟みますね。人の女に手ぇ出してんんじゃねぇぞ?」


 多少キザなセリフになってしまったが、許容範囲だろう。おい隣の教師。笑ってんじゃねぇ。


「そうだ。私はこの人と正式に付き合っている。それに、もう家の借金の話も片付いているし、私があなたと結婚するつもりも必要もない」

「確かにそうかもしれません。貴方の家の借金はもうない。ですが、何度も言っているように私はあなたの人間性に惚れたんです」

「人間性に、惚れた……? これの?」

「君は黙ってくれませんか。君は知らないかもしれませんが、、節さんがメガネを外した時は、この世の中で一番女性らしいんです」


 楽しそうに語る男性は、本気でせっちゃんに惚れているらしく、交際相手がいると知っただけでは引き下がるつもりはないらしい。


「それと、はっきりと言わせてもらうが君は節さんの彼氏ではないね?」


 まぁ、そりゃばれるよな。どう考えても俺はせっちゃんに比べて子供だ。外面だけはきれいなお姉さんのせっちゃんが俺みたいなガキを相手にしないだろうという憶測は決して間違っている訳ではない。事実、正解ではあるため俺が何と言おうか惑っていると、せっちゃんは諦めたように白状をした。


「確かにこいつとは付き合っていない」


 俺の登場からこんなにもすぐに白状するなら、そもそも付き合っているという設定自体不要だったのではないか。せっちゃんに今すぐにでも問い詰めたい。しかし、せっちゃんは俺のことなどお構いなしに話を続けようとしている。


——ヴゥ―、ヴゥ―、ヴゥ―。


 着信を告げる振動が、俺の携帯から発せられた。小さな音だがせっちゃんには聞こえたようで、なぜか俺のわき腹を軽く抓った。あなたの提案のせいでこうなってんだからな?


「すみません、急にお腹が痛くなってしまって」


 俺とせっちゃんのやり取りを不審そうに見ていた男性に告げて、俺は部屋を出る。

 マジでお腹が痛くなりそうだ。


 部屋を出た俺は、届いていたメールを見る。


『ピンツ! 来とっす!』

 

 よほど焦っているのだろう、誤字の紛れた……というか二単語で誤字二つというのは紛れたでは済まない。とにかく、悠陽からの助けてメールだ。

 俺は廊下を静かに移動し、悠陽の待つ部屋の扉を叩いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。