夏休み②
熱波ともいうべき潮風が窓から吹き込む中かき氷を作っていると、俺の背後から勝気な女性の声が聞こえてきた。
「そこのあなた! ちょっとお時間よろしいかしら?」
「あぁ、すいません! 申し訳ないんですけど並んでもらっていいですか? ごめんなさい!」
「え、えぇ……。分かりましたわ」
何か文句を言いつつではあったようだが、素直に指示には従ってくれたようだ。俺も手が一杯で適当な対応になってしまったと一瞬反省するが、先ほどの女性はさして気にした様子もなかったのが救いである。
「せっちゃん! お待たせ!」
話しかけられつつも手を止めなかった俺は、注文品を作り終えせっちゃんを呼ぶ。俺としては、仕事の中での仕方のない行動なのだが、周囲から
「お前から話しかけてんじゃねぇ……」
「何様のつもりだ……」
内容はどうであれ、とりあえず俺を恨む声が聞こえてくる。もう、好きにしてくれ。
そんなせっちゃん信者と化したお客さんに対抗するように、
「俺はあの青髪の子がいいな」
「俺はあのちっちゃい子だな」
と、さらなる派閥もできている。勘弁してくれ。
これから十分程、焼きそばやらかき氷やらフランクフルトやらを作っていると、先ほどの強気そうな女声が俺の耳に届いた。
「はぁ、やっとわたくしの番ですわね。そこのタオルのあなた、話を聞いてくださるかしら?」
「話? そんなのはどうでもいいから、注文は? 悪いけど混んでるんだ、注文がないなら帰ってくれ」
「混んでるから……? それはなんですのわたくしへの嫌味ですの!?」
「……!? 嫌味?」
「嫌味以外のなんだっていうんですの!」
「いや、何のことだかさっぱり……」
「この男……! こんな事言いたくはありませんが、はっきりと言わせていただきましょう」
「次のお客様どうぞ! 悪いな注文がないんならちょっとそこの席座って待っててくれないか?」
「……ちょっ!」
昼時も過ぎたためか、店内のテーブルの大半は空き始めていたのでそのうち一つへとその女性を促すとその女性は再度文句を言いかけながらも素直に着席した。
店内のお客が減り、厨房からテイクアウト用の窓口まで運ぶだけが仕事となった奨学生部女性三人のうちから一番仕事をしていない一人をピックアップしてお茶を出すように指示を出す。一番年上の体力が下降気味の人にお願いしたのだが、いつものように心を読んだようで、休憩室を出るなりこちらを一瞥しやがった。指示には従ってくれるのだから、まぁよしとしよう。
悠陽と美樹が接客スマイルを顔に張り付けながら、お客に注文品を運んでいるのに対し、せっちゃんは先ほどから全く笑顔を浮かべていないどころか、怒った顔を通り越してずっと無表情で接客していた。その顔そのままに、せっちゃんは例の客? にお茶を出しているようだ。
「ああ、あなたは……!」
「人違いだ」
「あなた節でしょう!? だいぶ印象は変わりましたが、その腐った目! わたくしが見間違えるはずありませんわ!」
「おい貴様、喧嘩売ってるなら買うぞ」
「き、貴様……? いつから節はそんなにグレた子になってしまわれましたの!?」
「さぁな」
「高校生の頃はもっと、こう、何というか……目だけでなく、人間的にも腐っていたというか……」
「やめろ、やめてくれ。生徒の前なんだ」
そんな会話が聞こえてくる中焼きそばを作っていると、朝に仕込んだ置いた材料が底をついた。行列もなりを潜めつつあり、その大半もかき氷がメインとなっていたので他の連中に任せ——るのはダメなんだった。
「生徒……まさか、あなた教師になったのですか?」
「そうだ」
「あなたが教師……この国の将来を担う子供たちの未来を奪うなんて、学校は何を考えているのかしら」
「これでも、仕事自体はちゃんといやってるんだがな」
「そうですの……? まぁ、その眼鏡はいかにも教師といったような感じですが、あなた目が悪かったんでしたっけ? ちょっと貸してみなさいな」
「「「あっ」」」
直接そのやり取りは見ていなかった学生三人は、会話の内容を聞いただけで同じように気の抜けた声を上げた。
「……そうですよね、どうせ私なんて、教師失格ですよね……ぐすん」
「ちょっと、そこのお客さん! せっちゃんに何してるっすか!」
「え、えぇ! えぇ!?」
「良いんです、悠陽ちゃん。私の化けの皮が剥がされただけですから……」
「せっちゃん! ほら、よしよし、怖くない怖くないっすよー。お客さん、眼鏡返してもらっていいっすか?」
「え、えぇ」
会話を聞いているだけなのに、「え」という一音で驚愕と同意を表現できているのがよくわかる。気になって仕方がないが、流石にお客さんを放っておく訳にもいかないので、仕事を続ける。俺の作ったかき氷を美樹が運ぶという作業が続く中、せっちゃんは休憩室に戻り、悠陽はよくわからない客人の対応をしていた。




