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戦神子と六人の彼  作者: 火渡ユウ
五ノ彼 ルシト
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二話 交差する想い

 色彩鮮やかの花々が咲き乱れ、多くの墓碑が建ち並んでいる、アゼーレ城の空中庭園。あたたかい日差しの下、他の墓碑より一回り大きな白い墓の前で、フェストは待ち構えていた。


「……柚葉は、どこですか」


 勢いよく扉を開け、駆けつけたルシトがフェストを肉眼で捉える。黒いローブのフードを脱ぎ、ウルフヘアの銀髪、端正な顔立ちが露わになる。双眸で、ルシトを射るような眼差しを向けている。


「俺はお前ほど、非情ではない」


 彼女の生存を示唆した言葉に、安堵しながらも、警戒は解かない。本来ならば、警戒など必要ない相手なのに。


「貴方がそちら側にいるということは、俺のせいですか」

「わかっているなら、話は早い。親父と妹を見殺したお前を、この手で殺してやる」

「それは違います!」


 大声で誤解であることを主張するも、フェストは聞く気などない。腰に携えた剣を取り、磨かれた剣筋にルシトを映す。


「煩い」


 地面を蹴り、猛スピードで突進してくるフェストを避け、ルシトはすぐさま魔法を発動する。


「【天の気:雷光痺(サンダーレイ)】」


 ルシトの手中から魔法陣が生まれ、そこから発せられる稲妻が標的であるフェストに落ちる。これが身体に当たれば、痺れて動けなくなる。ルシトはフェストとの話し合いを望んでいるため、彼にとっては好都合であった。だが、フェストは軸足を利かせて身を翻し、ぐっと柄を握りしめ、剣で受け止める。


「なっ!?」


 普通の剣ならば、受け止めきれずに大破するはずだ。しかし、フェストの剣はそれを吸収するかのごとく、刀身一つも傷がついていなかった。


「お前は、親父と妹の、そしてこの国の敵」

「違います、フェストこそ、間違っています!」


 再び迫り来るフェストは、走りながら剣を構える。


「敵は俺じゃありません! パルテノン帝国です!」

「それならなぜ、あの女を古の神(オリエント)に捧げなかった?」


 振り下ろした剣を避け、転がるようにフェストの後ろに回り込む。同時に、振り返ったフェストが体を反転し、距離を取るため後退した。


「彼女を守るためです。もうこれ以上、誰かが死ぬのは、見たくないんです」

「奴の命一つで、この国は救われるはずだった。それを、お前はそんな理由で。しかも、親父と妹を見殺しにしたお前が」


 再度、ルシトめがけて剣を突く。水の気みたく防御魔法のない天の気では、避けることしかできない。だからと言って、元恋人の兄を相手に、腰に下げた剣を取りたくなかった。


「俺の話、聞いてくだ――」


 『ディア・ローレン』『マッカート・ローレン』と書かれた白い墓碑を前に、ルシトは言葉を止めた。墓前に添えられている花は、風に飛ばされたのか、花弁が散り散りになっている。そして、色彩が薄れつつあるそれらは、一瞬にして、赤に染まる。


「これで、あと一人」

「っ……」


 血が剣に施された血溝を通って滴り落ち、地面を濡らしていく。ルシトの腹を貫通した剣を、ゆっくりと引き抜こうとした。そのとき、ルシトは柄を握るフェストの手を掴んだ。


「パルテノン侵攻時、俺は、城に居ました」

「……王族守衛隊を理由に、見殺しにしたというのか」

「いいえ、王は民を思って、戦うことを拒みました。そこで、俺に、戦神子(メイデン)たちを連れてくるよう、頼みました」


 口角から血が流れる。だが、フェストに聞いてほしい一心で、話を続けた。未来を見据えた王に与えられた使命を全うするためには、まずパルテノン帝国の目を掻い潜り、逃げなければならなかった。しかし、ルシトは恋人やその家族を放っておけず、城下町に下り、敵と対峙しながらも家に向かったと言う。


「ですが、時が遅かった」


 数えきれないほど後悔した、あの場面を想起しながら、嘘偽りなく、すべてを伝える。

 

 誰の血か判別つかないほど、飛散し濡れていた地面を駆ける。民や自分に襲い掛かる兵士たちを斬り捨て、無事を祈りながら、倒れていた二人のもとへと向かう。

 そこで目にした光景は、あまりにも酷かった。マッカートは、背中に剣を突き立てられたまま、既に亡くなっていた。言葉を失くしたルシトは、急いでディアの上半身を抱き上げる。腹を突かれ、肩を斬られた痕があり、口からも出血している。


「ディア、ディア!」


 手首に指を当て、脈を確かめる。まだ生きていることがわかると、懸命に呼びかける。それに呼応して、薄目を開けたディアが、笑った。


「ル、シト」

「待っててください、今すぐ、医者の元へ連れて行き――」

「お、願い、生き、て」


 手を上げる気力など残っていないディアは、柔らかな微笑を残し、息を引き取った。その事実を信じられなかったルシトが彼女を背負い、医者に連れて行こうとしたとき、十人もの敵兵が角を曲がって来た。黒い鎧を纏い、真っ赤に染まった剣を構え、ルシトに迫って来た。

 敵は、兵力を糧として各国に輸出しているパルテノン帝国である。一人一人が血の滲むような厳しい訓練を受け、それを耐え抜いた精鋭揃いだった。各個撃破ならまだしも、十人相手では勝ち目がない。そして、ディアを抱えたままでは、逃げ切ることもできないだろう。


「……っく!」


 自分に力があれば、今すぐにでもパルテノン帝国を滅したい。一人残らず殺したい。黒い欲望がルシトを蝕もうとする手前、ディアの言葉を思い出す。生きてほしい、その一言で、ルシトは瞬時に決断した。

 国を救うために、恋人を戦場に残し、その場から逃げ去った。



「お前は、その後のことを知らないだろう」

「その後……?」


 フェストが怒りに手を震わせながら、語った事実は、耳を塞ぎたくなるものだった。隣国に出掛けていたフェストは、アゼーレ超大国の惨状を目にし、すぐさま二人の元へ向かった。

 無残に殺された死体が横たわる中、嫌な予感がしたフェストが、家へと続く街角を曲がったとき、それを目にした。

 身動き一つしない、死んだディアの上に跨った敵兵たちの性行為を。


「そ、んな」


 ルシトの目が、虚ろになる。腸煮えくり返るような怒りが、沸々と湧いて出る。


「お前が、国を救うことを選択した結果だ。奴らは、後から探し出して俺が全員惨殺した。あとは、ルシトとアーネストだけだ」

「俺の、せいでディアが……」


 涙が、頬を流れ落ちる。それ拭うことはせず、剣筋を掴み、自身の体から剣を引き抜く。


「俺を、殺して、ください」


 服に染みた血が、下へと落ち広がっていく。出血が多く、気が遠くなりそうでならないところで、生理的に治癒しようと働いている身体が、自分が、とても憎い。


「俺を殺せっ!!」


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