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戦神子と六人の彼  作者: 火渡ユウ
五ノ彼 ルシト
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三話 ディアの決意 ルシトの想い

 血を吐きながら、涙を流すルシトは、自らの死を望んだ。それに答えるように、フェストがにやりと笑む。


「じゃあな」

「これで、ディアの元へと、行ける」


 体の精力を奪う激しい痛みと、意識が朦朧とする眩暈から、立つことに耐え切れず、ルシトは屈んだ。恋人のことを思えば、こんなことは比にもならないし、謝罪にもならない。もはや生きる気力も失くし、絶望したその目には、何も映らなかった。

 ルシトの血で染まった剣を、振り上げる。息の根を止めるため、左胸下の心臓に狙い定める。


「【水の気:水流粋護(アクアシールド)】、【水の気:治癒水(アクアヒール)】」


 振り下ろした切っ先と肌が触れる手前で、水膜がルシトを覆った。ルシトへの攻撃を許さない水膜が剣と触れた瞬間、白煙を上げて消失し、溜まった電気が発電されたような音と共に剣は弾き飛ばされる。


「ちっ!」

「あとは任せたぜよ、柚葉」


 城の内部へと続く扉の向こうから、魔法を放ったライヤが謁見の間へと向かっていく。そして、肩を弾ませながら来たのは、柚葉だった。金眼の双眸は怒りを込めて、柚葉を捉えると同時に、超人並みの脚力でその背後へと回る。


「邪魔者は消え失せろ」


 ナイフのごとく鋭い手刀を、今度は首ごと斬る勢いで入れる。すると簡単に首が跳ねた。だが、手応えがないことに気付き、すぐさま周囲を警戒するフェストの視界に入ったのは、もはやただ息をしているだけの人形のようなルシトの肩を掴んでいる柚葉だった。


「ルシト、私だよ! ねぇ、目を覚ましてよ!」

「無駄だ」


 再び、柚葉の背後に回り込み、刃物より切れ味のよい手刀を食らわす。だが、これもまた手ごたえがまるでない。


「小賢しい女め」

「ルシトに何をしたの?」

「事実を話したまでだ」


 柚葉の姿はどこにも見えない。しかし、声だけははっきりと聞こえる。追い込まれていると錯覚する状況の中、フェストが剣を手に取った。そして、その男を救う価値がないことを知らせるため、手短に内容を話した。


「……」

「こいつが俺の妹を、親父を殺したも同然だ」

「逃げてるだけだよね、それって」


 フェストが剣の柄を握り、茫然としたままのルシトの前に立つ。柚葉の言葉が気に入らないのか、怒声を響かせる。


「どういう意味だ」

「あなたも、ルシトも逃げてるだけじゃん。ちゃんと、向き合ってない。それにこんなこと、ディアさんが望んでいるはずがない」

「お前は、この国を救うために必要な戦神子(メイデン)だから、勘違いして万能の神にでもなったつもりで言っているんだろうが、違うな」

「ううん、違わないね。悪いけど、私は戦神子である前に一人の人間として言っているから」


 白い墓の後ろから、柚葉が現れた。フェストを恐れることなく、ルシトに近寄る。


「過去は変わらないんだよ、ルシト。死に逃げるなんて、それこそディアさんを傷つけると思う。亡くなった二人のことを、国のことを思うなら、全ての元凶であるアーネストを倒さなくちゃ。この国に平和をもたらさなくちゃいけない。そのために、今皆が必死で戦ってる」

「……」


 どんな行動に出るか判別付かないが、警戒は解かずに、ルシトの肩をがっしり掴み、目を見つめて説得する。


「それに、あなたがやっていることはただの復讐。お父さん、妹さんの立場になって、考えてみればわかるよね。今、あなたがやっていることが何を意味するのか」


 視線をフェストに向けると、眉ひとつ動かさないフェストが、にやりと悪どい笑みを見せた。


「わかるよ、ルシトと共に天国で暮らしたいだろう。親父は、ルシトを殺したい気持ちで一杯だろう。だから、俺が二人の願いを叶える」


 容赦なく斬りにかかるフェストを、柚葉が魔法で受け止める。


「【水の気:水流粋護(アクアシールド)】」


 突如、二人を覆い包む水膜に剣を弾かれるフェストは、もう一度試みるも、吸収した天の気は既に発散して消えたため、破壊することもできない。


「そんなこと、望んでない!」


 柚葉は、櫂人を亡くしてから何度も死のうと試みた。その度に、周囲から止められていた。そして、何度も言われたセリフが「櫂人はそんなこと、望んでいない」だった。

 その時の柚葉は、理解しようとしなかった。自分も死ねば、櫂人に会える。櫂人は、きっと喜んでくれる。そう思って止まなかった。けれど、しばらく時間が経ち、精神状態も落ちついて社会人としての生活が始まったとき、振り返るように考える。もし、自分が逆の立場なら、櫂人に死んで欲しいと思っていただろうか。

 答えは、半々だった。自分のもとに来てほしい、けれど、生きてほしい。

 けれど、時間が経つにつれて、きっと答えは一つになる。生きてほしい。死んだ自分のために生きる必要なんてない。櫂人のために、生きてほしい。長い時間、自分のために泣いて、死のうとして、でもできなくて。そんな好きな人の姿なんか、見たくない。笑っていてほしい。幸せになってほしい。この気持ちに辿り着いた。


「ルシトは、苦しんでる。あなたが手を出さなくても、ずっと、苦しんでた」

「亡くなった二人の苦しみの比にもなら――」

「まだわからないの!?」


 未だ、涙を流し続けるルシトの、力無い手を取り、柚葉はフェストを睨み付けた。この気持ちが届くようにと祈りながら、訴えるような目で。


「ルシトは国を救うために逃げ延びなくちゃいけない状況の中でも、ディアさんたちを心配して駆けつけたんだよ! 普通なら、重要な役目を背負わされて、押し寄せる軍勢から逃れなくちゃいけないプレッシャーもあって、自分のことで精一杯になってもおかしくないのに!」


 助けられなかった自分を責めて、後悔していた。旅の途中で、何度も俯き、唇を噛みしめるルシトを見てきた。きっと知らないところで、涙を流していたに違いない。


「【天風の気:天人風来ディパーテッドアライヴ】」

「な、何を」

「私の言葉が届かないなら、二人の言葉を届けなくちゃ」


 三人を包み込む光が、急速に辺りを真っ白に染め変える。柚葉は飲み込まれるようにして消え、ルシト、フェストがその場に取り残された。閉塞空間の中に閉じ込められたフェストが、何の魔法かと周囲に警戒を配る。ライヤの魔法で傷口が塞がっていたルシトが、何かに気付いたように上を見上げる。それにつられてフェストも顔を上げる。するとそこには、見慣れた顔が二つあった。


「お兄ちゃんの馬鹿っ!! バカバカ大馬鹿!! 大嫌いっ!」

「なっ、ディア!」


 ルシトの瞳に、光が宿る。


「ディア、おじさん……」


 現れたのは、死亡当時の服装を着た、泣きじゃくるディアとそれを宥めるように背中を摩るマッカートだった。

 白のお気に入りのワンピースの上に、ベージュのコートを羽織り、マッカートは工房で働いていたため、シャツの上に汚れたエプロンを身に着けている。


「御免なさい、俺は、俺は二人を助けることができず、俺は、無力で」

「ルシト、それ以上言ったら怒るよ!」

「ルシトくん。それ以上、苦しまないでくれ。それにフェスト、俺たちはそんなこと微塵も思っちゃあいねぇ」


 マッカートが腕を組んで、がっはっはと笑う。


「ルシトくんが来てくれただけでも、ありがてぇ話だ。フェストがディアに手を出した奴らを殺してくれたのは、正直スカッとしたけどな。だが、そんなことルシトくんには望んじゃいねぇよ」

「ありがと、お兄ちゃん。でもね、私、ルシトには生きててほしいよ。私の自慢の恋人だもの! あ、もちろん元だから、私のことは気にしないで、自由に恋愛、してね。私だって、こっちでいい男、見つけてやるんだから……うわああああん」


 結ばれるはずだった二人は、今や違う世界に生きる者同士に変わった。互いにいくら想えど、願えど、それは変えることのできない不変の真実。


「私たちを会わせてくれた、柚葉さんに、伝えて。ルシトを、ルシトを……」

「よろしくお願いします、だろーが。泣くんじゃない」

「う、うん! ルシト、幸せになってね! お兄ちゃんもね!」

「ディア、ディア、行かないでください!」


 二人が天へ召されるように昇っていく。ルシトが手を伸ばすも、届くことはない。フェストは、口を開けていた。まさか、二人に会えるなんて、思ってもみなかった。

 眩しい光に目を瞑り、再び開ければそこは、アゼーレ城の空中庭園だった。ルシトの横で、柚葉が気を失って倒れている。この魔法は、体中の気をすべて使うことで、発動できる。亡くなった人と現実世界に生きる人を繋ぎ、本来ならば不可能な逢瀬を叶える。


 フェストは、静かに涙を流していた。

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