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戦神子と六人の彼  作者: 火渡ユウ
二ノ彼 ライヤ
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二話 最初で最後の再会

 柚葉を守るためにライヤは、戦神子(メイデン)の本当の役割について皆に話し、アゼーレ超大国に向かうことを提案した。

 四護神(ガーディアン)の力を手に入れた今なら、パルテノン帝国に立ち向かえるのではないかということだった。

 加えて、敵国の王がアゼーレ超大国にいるのではないかという推測も話した。

 勿論、柚葉を守るために三人はその案に乗った。

 ルシトは早速見取り図を描き、ライヤとレイを地下にある牢屋に囚われているであろう国王を助けるチームに、自分とロッカスをパルテノン帝国の王を捕えるチームに分けた。

 

「柚葉はどうする?」


 レイに聞かれた柚葉は、躊躇うことなく答えた。


「私は、王様を助けるよ」


 ライヤと一緒にいたいから、という気持ちもある。

 だが自分では大した戦力にならず、むしろ足手まといになるのではないかと考えた上での結論だった。


 そして翌朝、アゼーレ超大国に着いた一行は、噂とは正反対の光景を目にする。

 枯れ草が生えた道端を歩くのは、痩せこけた民と子どもたちだった。

 服装も砂埃や点々とした血痕で汚れ、豊かとは程遠い身なりで、街をうろついていた。


「……」


 ルシトは目を大きく見開き、荒んだ街と化した故郷を茫然と見つめる。

 その横でライヤは、胸を痛めていた。

 ラシールを放置すれば、ロセリア王国もこうなってしまうのだろうと、改めて感じた。


「あっ!」


 突然、ルシトが城に向かって走りだした。

 普段感情的にならない彼でも、さすがに黙っていられなかったのだろう。

 彼の立場になって考えれば、その根源を一秒でも早く断ちたいと思う。

 そんなルシトを止めるために追いかけようとした柚葉の肩を掴んだのは、ロッカスだった。


「俺が行くから、王様のことは宜しく頼むな」

「……うん! ルシトのこと、お願いね」


 頷いたロッカスが、【風の気:足速上昇(フットバースト)】を唱え、小さくなった背中を追いかける。


「俺たちも行こう」

「あぁ、そうじゃな」


 先頭をきるレイの後に柚葉、ライヤが続く。

 そうして、城門前に辿り着いた三人を待ち構えていたのは、黒いローブを身にまとった男だった。


「……嘘、じゃろ」


 頭部を覆い隠していたフードを下ろし、明るい茶髪とどこか温かい雰囲気を持った柔和な笑みを浮かべる男。

 ライヤの動きが止まり、目が虚ろになる。

 何が嘘なのかもわからない柚葉は、ライヤを守るように前に立ち、男を見つめた。

 レイが身構えるが、男は笑みを崩さずに首を横にゆっくり振った。


「あんたは、先に行ってくれ」


 そう言って、城門の入り口の前に立つ男は、一歩端にずれる。

 信じていいのかわからず、動けないでいるとライヤが、レイを先へと促した。


「信じてよか、行きんしゃい」

「だが――」

「大丈夫じゃ」


 目を瞑り、覚悟を決めたように目を見開いたライヤが、男を凝視した。

 彼とは知り合いらしく、ライヤがそう言うならと警戒しながらも、その横を駆け抜けた。


「柚葉、来い!」


 ライヤの前から動こうとしない柚葉は、レイに向かって叫んだ。


「私、ライヤと一緒にいる! すぐに行くから!」

「なっ、ダメじゃ! お前さんもレイと行きんしゃ――」


 柚葉は振り返って、ライヤと視線を合わせる。

 そして、にっと笑ってみせた。


「約束したよね、私がライヤを守るって」

「……あぁ、そうじゃな」


 諦めたように、けれど嬉しいと思ったライヤも、にっと口角を上げた。

 二人のやりとりが聞こえなくても、事情を察したレイは、一つ頷くと再び駆け出し、城内に入っていく。


「――で、どうしてお前さんが此処にいるんじゃ」


 わざわざ話をしに来たわけではないことは、わかっていた。

 今度はライヤが柚葉の前に回り込み、背に匿うように立つ。


「此処まで来るには、色々なことがありすぎてね。どこから話せばいいのか」


 苦笑する男にどこか恐怖を感じながらも、柚葉は目を離さずに恐る恐るライヤに聞いた。


「あの人は、誰なの?」

「ラシールの親父さん、レオンじゃ」

「いいや、その名はとうに捨てた。俺はジプシーだ」


 思わぬ返答に、柚葉は驚いたが、同時に思い返してみた。

 ロセリア王国に行ったとき、今目の前にいる男はいただろうかと。

 年齢のわりには明るい茶髪と派手な髪色をしていれば、そのミスマッチ感に覚えていそうなものだ。


元妻(ミリア)は、元気にしているか」

「……わかっとるんじゃろ、何をしでかしたかってな」


 ロセリア国王暗殺事件を起こしたのは、ミリアだと遠まわしに断言した。

 ふっ、と息を漏らしたジプシーは「やはりな」と、一歩距離を詰めた。


「無論、ラシールも同罪じゃ。だから俺は――」

「わかっている。だから、俺はライヤを応援するよ」


 その言葉に、柚葉は胸をほっと撫でおろした。

 もしかしたら話の分かる相手なんじゃないかと期待し、何事もなくここを通してもらえると思った。

 だが、ジプシーの笑みは消え、瞬時に敵意を纏った鋭い睨みへと変わった。

 がらりと変わった雰囲気に、二人は思わず身構えた。


「だからといって、手加減はできない。こんな俺を拾ってくれた、主のためにもね」

「主、か」


 ライヤはジプシーがパルテノン帝国の手下であることを知り、唇を噛みしめた。

 やはり、拳を交えずに分かりあえる方法はない。

 

「俺もな、彼女を守るために手加減はせんよ」

「それならいい。俺もあの頃とは違う、強大な力を得た。お前に勝ったら今度こそ、俺自身の手で止める」

 

 柚葉には何を止めるのか理解できなかったが、それは彼にとって壮大な決意であるということだけは、わかった。

 柚葉に下がるように手で払い、ライヤはジプシーに向かって一歩踏み出した。


「私も、戦うよ! 私だって、ライヤのこと」

「ありがとな。気持ちだけで十分じゃ」


 ふっ、と一瞬の笑みを柚葉に見せたライヤが、前に向き直る。

 その顔に、余裕などまったくなかった。

 ライヤが使えるのは攻撃魔法ではなく、防御魔法に特化している系統、水である。

 それを本人が一番わかっているからこそ、どう攻撃に出ればいいかを必死に考えていたのだ。

 かつ、ジプシーがどんな手段で来るのかすらわからない。

 ケイルのように格闘技のみなら勝機は見えるが、胸を張り強気な様子、そしてただならぬ雰囲気からして、嫌な予感がした。

 心配しながらも、ライヤを信じる柚葉は、下がって見守ることにした。


(大丈夫、ライヤなら、きっと)


 「じゃあ、遠慮なく」


 ジプシーは地面を強く蹴って、ライヤに向かって駆け出した。

 同時に、推測できない攻撃を跳ね返すために唱えた。


「【水の気:水流粋護(アクアシールド)】」


 瞬時に水膜に包まれたライヤは、相手の出方を窺う。

 通常の攻撃では破られることはないが、だからといって安心もできない。


「グロリアの言う通りだな」


 にやりと怪しい笑みを浮かべたジプシーが、ライヤから三メートル離れた位置で急に屈み、指をパチンと鳴らした。

 すると、急に襲ってきた突き刺さるような痛みが全身を駆け廻り、痺れて体が動けなくなる。

 まるで、何千もの矢に自分の体を貫かれたようだ。


「ライヤっ!」


 膝をつき、頭を押さえるライヤに駆け寄ろうとするも、「来るな!」と制される。

 ジプシーは腕を組み、激痛に顔を歪める姿に口角を上げた。


「音っていうのは、空気中より水中の方が音速が速くてね、弱まりにくいんだ。ロセリア学院で習わなかったかい?」


 ロセリア王国に住む者なら、誰もがロセリア学院に通う。

 ジプシーもライヤも、その出身だった。

 未だに癒えない痛みではあるが、ライヤはよろけながらも立ちあがった。

 だが、魔法は解除しない。


「そういうことかの……これでわかったぜよ」


 強がりに聞こえる発言に、ジプシーは余裕を浮かべた表情で笑った。


「何が分かったのか知らないけど、すぐに終わらせてあげるよ」


 勝ったも同然と思い、再度指を鳴らそうとした。

 そのとき、ライヤは両手を前に出し、手のひらをジプシーに向けた。


「【水の気:氷流粋護(アイスシールド)】!」


 瞬時に水膜が外へ押し寄せるように大きくなり、ジプシーを遠くへ吹き飛ばした。

 徐々に凍っていき、ライヤを中心とした大きな氷のドームが出来上がった。

 倒れたジプシーの濡れたローブが、ライヤの魔法によって冷気を孕み、凍っていく。

 手も固まって動けず、指を鳴らすことはできない。


 形勢は、逆転した。


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